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『カトリと霧の国の遺産』が出版されます

9月28日に『カトリと霧の国の遺産』が出版されます!『眠れる石の街』に続くシリーズ二作目です。

挿絵、カバーはまくらくらまさん、装丁は next door design の岡本歌織さんです。前作と統一感がありつつもガラッと変わった、より瀟酒なデザインにしていただきました。帯文には廣嶋玲子先生にありがたいメッセージをお寄せいただきました。感謝申し上げます。

今作も地図が入っているのですが、まくらさんがなんと実際の羊皮紙に書き込んでいただいたものだそうです。素晴らしい地図になっていますので、本をの見返しもぜひご覧ください。

本の質感なども物語の中の設定に合わせたものにしていただいたとのことで、私も手元に届くのが楽しみです。

今回の話について

今回の話は「存在しないはずの街」をめぐるカトリの冒険を描いています。序盤のあらすじは下記の通りです。

舞台は19世紀後半のスコットランドの都市、エディンバラ。
カトリが博物館で働くことになってから半年がたったある日、博物館に大量の寄贈品があった。
寄贈主は、ジョージ・バージェスという古物収集家で、彼は生前、自分のコレクションをけっして人には見せなかったという。
コレクションの整理をするカトリは、寄贈物のどれもが「ネブラ」という国にまつわるものだと気が付くが、博物館の研究者を含め、だれもそのような国を知らないという。

この寄贈物は、歴史的な新発見につながる本物なのか? 偽物なのか?
寄贈物の真偽が明らかにならないまま、博物館ではバージェスの寄贈物を集めた特別展が開催されることに。
しかし、この特別展に訪れた人は、次々に行方不明になっていくようで……。

今作で扱う「架空の街」は幻想文学などでは人気のモチーフです。有名どころではボルヘス「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」、ラブクラフト「セレファイス」、ディック「地図にない街」などがあり、今作を描く上で少なからず影響を受けています。

しかし、この題材について考えた時、私が真っ先に思い浮かぶのが、小学生のころに読んだ、K・ヒロシという作家の「雨美濃」という短編です。これは昔、講談社が主催していた「星新一 ショートショートコンテスト」(今の星新一賞とは別)という公募賞の入選作を集めた『ショートショートの広場』というアンソロジーの第三巻に掲載されていたもので、雨美濃という名の、霧雨が降り続く街に関する物語でした。特に明確なオチがあるわけではないのですが、独特の雰囲気があり、数十収録されている入選作の中でその作品だけは頭の片隅にずっと残っています。

また、学生時代に訪れたトリーアというドイツの街も、本作を描く上で重要なモチーフの一つです。大学院に入る前、バックパッカー気取りでドイツをフラフラしていたことがあり、そんな中あてもなく訪れた小さな街でした。なんでも、かつてはアルプス以北で最大のローマ帝国の街であったそうで、ローマ時代の浴場があり、円形劇場の廃墟があり、バシリカがあり、悪魔によって建てられたという伝説の残るドイツ最古の大聖堂がありました。滞在中ずっと霧が立ち込めており、貴族の邸宅を改装したユースホテルの一室で、アゼルバイジャン語、ドイツ語、英語の混ざった言葉を話し、その宿に10年以上も滞在しているという老人と相部屋になりました。三日しか滞在していませんでしたが、次元の狭間に迷い込んだのかと思うような体験で、いつか書きたいと思っていたのでした。今作で実現できてよかったです。

上とすこし重なる部分もありますが、「理想郷」というイメージも私が好きな題材です。「あの場所にゆけば何もかもが良くなる」という感情が個人的な琴線に触れるというか、やりきれない気分になります。「オーバー・ザ・レインボー」の歌詞なんかはいまだに読んだだけで泣けます。

書き始めた当初はなかなかうまくいかず苦戦していたのですが、担当編集のSさんに助けていただきながら納得できるものにすることができました。今回もカトリの冒険を楽しんでいただければ幸いです。

1巻はこちら。


20231009追記

出版に合わせて、色々と書評を書いていただいたり、寄稿したりしましたので下で紹介させてください。

如月先生が書評を書いてくださいました。ありがとうございます。如月先生には一巻の頃から本シリーズを押していただいており、本当にお世話になっております。

ライターの山口さんにインタビューしていただきました。受賞してから二巻を書くまでのことについてまとめていただいております。

ゲーム実況者のむつーさんに書評を書いていただきました。2年前、講談社の佳作をとり、編集者さんと初めて挨拶したとき「この作品、TRPGっぽいですね」と言われたのですが、こんな形でつながるとは思いませんでした。

こちらは自分で書いた記事です。いわばカトリの副産物のようなものです。古地図って面白いですよね。

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