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待望の続編! 東曜太郎さんの『カトリと霧の国の遺産』を読みました!

第62回講談社児童文学新人賞の佳作受賞作にして、幅広い読者の好評を博した、東曜太郎さんの『カトリと眠れる石の街』。その続編となる『カトリと霧の国の遺産』が発売されました!
一昨年の新人賞の最終選考で、『カトリと眠れる石の街』の応募原稿を読んだときから、この作者さんの作品をもっと読みたい、願わくばこの『カトリ』の続きを読ませてほしい、と思っていたので、念願の続編を大喜びで読ませていただきました。

前作同様、まず装丁が素晴らしいです。まくらくらまさんが描かれたカバーイラストはもちろんのこと、カバーをはずした本体のデザイン、裏表紙側の帯に書かれた謎の街の年代記の引用、見返しの地図、扉や目次のデザイン、紙の質感、すべてが魅力的で読みはじめるまえからわくわく感が半端ないです。

物語の舞台は前作と変わらず、19世紀のイギリスはエディンバラ。カトリの働く博物館に、亡くなった高名な古物収集家のコレクションが寄贈されるところから物語は動きだします。
寄贈されたコレクションは、すべてがビザンツ帝国の「ネブラ」という街にまつわるものでした。コレクションのなかには「ネブラ」の年代記もありましたが、しかし博物館に務める研究者たちは、だれひとりとしてその街のことを知りませんでした。果たしてそんな街がほんとうに存在していたのでしょうか。

「ネブラ」の年代記になにか不穏なものを感じるカトリ。真贋の鑑定がされないまま、博物館ではコレクションの特別展が開催されますが、その特別展を訪れた人々が、次々に失踪するという事件が起きてしまいます。
年代記を調べるなかで、カトリは失踪した人々に共通するある法則を発見します。その発見が正しければ、次に姿を消すことになるのは…。

正直に白状すると、『カトリ』の続編は昨年からずっと心待ちにしていましたが、同時に不安も感じていました。
これまでの読書経験のなかで、1作目は素晴らしいのに2作目以降途端につまらなくなって、シリーズ化しなければよかったのに、とがっかりしたことも少なからずありましたので、『カトリ』もそうならなければいいな、と心配していたのです。
しかし実際に読みはじめてみたら、そんな心配はまったく不要だったことがすぐにわかりました。

海外の重厚なファンタジー作品を読んでいるような物語の空気感はさらに洗練され、硬派なのにすらすらと読みやすい文体も健在です。
『カトリと眠れる石の街』では、本格的な探偵小説風の展開の途中からファンタジー色が濃くなって意表を突かれましたが、今作では序盤から幻想的な描写が物語を彩ります。
ミステリーとファンタジーのバランスが絶妙で、古きよき探偵小説の調査や冒険のおもしろさと、ファンタジーのぞくぞくする魅力が見事に調和して、読者をぐいぐい物語の世界に引きずりこんでくれます。
「眠り病」の黒幕の近縁らしき存在も思わぬ形で登場して、今作も最初から最後までいっきに読みきってしまいました。

登場人物たちも前作と変わらずいきいきとして魅力的です。新たに登場したキャラクタでは、合理性を重んじる外科医のエドガー・ベル氏が特にいい味を出していました。

『カトリと眠れる石の街』では、病で床に臥せっていたカトリの養父ジョシュが、元気な姿を見せてくれたのもうれしかったですね。メインというわけではないキャラにも、自然とそんな気持ちを抱かせてくれるのは、物語に登場する人々が生きた存在として誠実に描かれているからでしょう。

前作でカトリの相棒役だったアクティブなお嬢様のリズも、もちろん登場しますよ! 今度の事件でもカトリといっしょに冒険をしたり、意外な人物とコンビを組んで大活躍をしてくれます。

また、『カトリと霧の国の遺産』では、主人公カトリの迷いと成長も前作以上にしっかりと描かれています(といっても、説教くさくなっているということではまったくないです! 念のため!)。

家業を継ぐのではなく、博物館で働きながら研究者を目指すことを選んだカトリ。ところが博物館での仕事は思っていたより退屈なものが多く、研究者になるための勉強もはかどらないため、自分の選択は間違っていたのではないかと思いはじめています。選んだ道の先にある未来は濃い霧に包まれたように見えず、不安に駆られているのです。

カトリの抱く不安は、彼女と同年代の読者だけでなく、大人も共感できるものです。私自身、しばらくリモートで副業を続けられるはず、と予想して郷里に帰ることを選んだら、1年で副業の契約が終了してしまって、これから作家一本で暮らしていけるのだろうかと不安を感じていたりします。
それだけに、霧の国の冒険を通じてカトリが得たものは、私の心にも勇気を与えてくれました。

そして非常にうれしいことに、どうやらカトリの冒険はまだまだ続くようです。思わずぞわっとなってしまったあの展開からして、今後の物語ではあの人物が大変なことになってしまうのではないでしょうか。
第3作の出版を、いまからたのしみに待ちたいと思います。

長々と書きましたが、要は「おもしろいから読んで!」ということです。前作のおもしろさでめちゃくちゃ高くなったハードルを、軽やかに飛び越えてくれていますので、どうか安心して待望の続編をお楽しみください。

※「眠り病」事件の真相と結末に触れている部分がありますので、『カトリと眠れる石の街』を未読の方は、ぜひそちらから読まれることをおすすめします。

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