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コロナ禍で加速する食のDX「EatTech」

自己紹介

こんにちは、株式会社SARAH代表の高橋です。
SARAHでは「より善いごはんとの出会いをつくる」をミッションに掲げ、以下のサービスを展開しています。

おいしい一皿が集まるグルメコミュニティアプリ「SARAH」
外食ビッグデータサービス「Food Data Bank」
電子メニュー化サービス「Smart Menu」

この中だとグルメアプリのSARAHをご存知の方が多いと思いますが、弊社は今後「EatTech 」スタートアップ企業として事業を発展させていこうと考えています。

「EatTech」は聴き慣れない言葉だと思いますが、現在コロナ禍で苦しむ飲食業界を救える技術だと考えています。今回はそんな「EatTech」とはどのようなものなのか説明したいと思います。


Withコロナの食生活を支えるテクノロジー「EatTech」

 COVID-19の影響で皆さんの食生活はどう変わったでしょうか。
先日、弊社で行ったアンケート(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000012648.html)からも分かる通り、外食を控え、自炊をしたりテイクアウトやデリバリーを活用されている方が増えていると思います。
 そんな中、
「UberEats」「出前館」「Chompy」「fine Dine」などの”デリバリーサービス”
「menu」「Picks」「LINEポケオ」などの”テイクアウトサービス”
「食べチョク」「ポケットマルシェ」「VEGERY」「ココノミ」などの”産直サービス”

「O:der」「Okage」「CRISP SALAD WORKS」などの”モバイルオーダー”

といった食生活を支えるテクノロジー系のサービスを、毎日のようにメディアで目にするようになりました。私もこのあたりの事業者とは関係が深いのですが、このような状況下でユーザー数を大きく伸ばしていると聞いています。

 外食産業も徐々にかたちを変え、店舗を持たない”ゴーストレストラン”といった業態も続出しています。COVID-19とは長期的に付き合っていく必要がある事、また、一度慣れ親しんだサービスからの離脱コストなどを考えると、これらの需要は長期的に維持される事が予想されます。
 緊急事態宣言が解禁され、外食の利用者が一定数戻った段階でも、非接触で店舗運営を行うための”モバイルオーダー“や”調理・接客ロボット”などのテクノロジーが食に関わる企業や消費者から求められるかと思います。

 一方、これだけの変化が起きているにも関わらず、これらの現象を的確に表現する言葉が見当たりません。食領域のテクノロジーでいうと「Food Tech」という言葉があり、一定の市民権は得ているかと思います。しかし、Food Techという言葉はFood(食べ物)のtechnology(技術)という言葉の通り人工肉や昆虫食といった食材のテクノロジーという意味合いが強く、上記のような「食べる行為に関するテクノロジー」には適さないように感じています。

 言葉を定義する事に何の意味があるのかと思う方もいらっしゃると思いますが、過去の事例を見ても言葉を定義する事により、理解が促進され市場が創られた事は多々あるかと思います。
 私はより多くの方がこれらのテクノロジーの本質を捉え活用していく事が、混乱極める食関連企業を救い、延いては日本の豊かな食文化を守ると確信しております。

 本記事では、これらの食体験を向上させるテクノロジーに対して、Eat(食べる)とtechnology(技術)を組み合わせた造語で「EatTech」という名前を付け、その本質や課題、今後の方向性を示せればと考えております。

ほとんどの人は表面しか見えていない

 もちろん全員とは言いませんが、上記の現象の表面だけをみると、「飲食店はテイクアウト・デリバリーサービス、生産者は産直サービスに登録し、リテールやメーカーは自社やプラットフォームで通販を始れば良い」と考える方がいらっしゃるかと思います。しかし、それだけでは物事の表面しか捉えられていません。食に関わる皆様に起きている現象の本質を理解し、テクノロジーを最大限活用いただくため、「EatTech」について詳しく記載していきたいと思います。


時代は存在のデジタル化から行動のデジタル化へ

 まずは、食領域におけるインターネットの歴史から「EatTech」を俯瞰して見ていきたいと思います。食領域におけるインターネットでは主に”存在のデジタル化”というかたちで進んできました。グルメサイトによる飲食店という存在のデジタル化や、レシピサイトによるレシピのデジタル化、スーパーのチラシのデジタル化が有名かと思います。

 一方、現在起きている現象は”行動のデジタル化”です。飲食店のオンライン予約やその裏を支える予約台帳、生鮮食品のサブスクリプションは先行して開始されましたが、デリバリー、テイクアウト、産直通販、キャッシュレスなども普及しはじめています。
 今後はモバイルオーダーやAIカメラなどのセンサーの普及でさらに行動のデジタル化は加速すると予想しています。

 これは単に"存在"がデジタル化されているのではなく、消費者の”行動”がデジタル化されているという事です。
分かりやすいように具体的にしてみるとこんな感じです。

数年前まではメディアを見て飲食店を見つけ、電話で予約、飲食店につくと店員さんに注文を伝え、現金かクレジットカードで決済。

多くの人がこんな感じだっと思います。

 それが今はメディアを見て飲食店を見つけ、オンラインで予約、オーダーは個人のスマホによるモバイルオーダー、決済もそのまま個人のスマホ。という事が可能です。

これらは全てオンラインですので、誰が、いつ、どこで、何を食べたのかといった情報がデジタル化されているという事になります。

 この動向は今にはじまった事ではなく、シェリングエコノミー、機械学習、クラウド、ビッグデータ、などの登場によって何年も前に発生し、今回のCOVID-19によって加速したと言う方が正しいかと思います。

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本質は個人の行動データ

 ここまで整理してきてお分かりかと思いますが、「EatTech」の本質は単にオンラインで食品や食材を売る事ではなく、「個人の行動データ」を活用する事です。
この際、データを”点”ではなく”線”でみる事が非常に重要です。

 例えば、「東京では30代女性にワインが売れている。」とう点のデータは従来のPOSでもアンケートでも分かったはずです。

これを線で捉えるとこうなります。

「Aさんは、20代までは甘いサワーしか飲まなかったが、30歳になり飲食店Xでワインを飲んだのをきっかけに、毎週金曜日に飲食店でワインを飲むようになり、近所のスーパーでもワインを買うが、だいたい10日間隔で購入している。」

 こうなると、ちょうどワインを飲み干しそうなタイミングでAさんの好きそうなワインをレコメンドする事が可能になりますし、Aさん以外にも同じように飲食店X(もしくはXに似た店)に行った人にワインをレコメンドしても良いでしょう。当然、リテールにおける仕入れや飲食店のメニュー改訂にも活用出来ます。現在の顧客が半年後に何を食べたくなるかを予想できるかもしれません。

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このように、個人の行動データを活用する事で。
①パーソナライズマーケティングにおけるレコメンドの精度を上げる事で消費者がスムーズに求めているものに出会える

②商品開発や仕入れのスピードとクオリティを高める事で消費者の求めているものを早く作る

というかたちで消費者に還元する事が可能となります。

先行している中国、猛追するアメリカ

 このあたりは私が改めて書く必要はないかもしれませんが、これらの現象が先んじて起こったのは中国です。

スマホ決済・デリバリー・テイクアウト・生鮮食品通販・飲食店のモバイルオーダー等の行動データを商品開発やマーケティングのパーソナライズに活用し、リテールでは盒馬鮮生(フーマー)、超級物種(チャオジーウージョン)、外食では「瑞幸咖啡(luckin coffee/ラッキンコーヒー)」が成功を収めたのは有名な話しかと思います。

 また、それを追うようにアメリカのAmazonやWhole Foodsなども手を打っています。これらの現象はOMO(Online Merges with Offline)というマーケティング的な概念でとりわけ「FinTech」と共に語られることが多いかと思いますが、「EatTech」は「FinTech」と並んで食に関連する企業のOMOを促進するためのテクノロジーとも捉えられるかと思います。

中小オフライン企業ができる事

 ここまで解説してきて飲食店、小売店、生産者、メーカーなどのオフラインを主な生業としている企業の方からは「EatTechでメリットを得られるのはテクノロジー企業だけなのでは?」という疑問が生まれているかと思います。

 正直にお伝えすると、最もデータを取得でき、活用できるのはテクノロジーを強みにする企業です。大手企業であれば新たに自社開発をしたり、テクノロジー企業の買収も可能かもしれませんが、中小企業はそうはいきません。

 ただ、ここで重要なのは企業ごとのメリットの大小を論点とするのではなく、消費者のメリットにフォーカスする事です。そう考えることで、今現在テクノロジーに精通していない企業でも打ち手はいくつか見えてきます。

 例えば自社製品の詳細なデータをプラットフォーマーに提供する事はその一つです。これからマーケティングのパーソナライズ化が進むのは前述しましたが、消費者のニーズが多様化している中で、より細やかなレコメンドが可能になります。

 例えば、Aさんはあっさり系の醤油ラーメンが好きで、健康に気を使っているため、低糖質かつ野菜中心の食事を好んでおり、更に一緒に食べる子供が卵アレルギーだったとします。当然その人に低糖質で野菜がたっぷり、かつ卵を使っていない醤油ラーメンをレコメンドするには、レシピの情報が必要です。レシピ情報には食材と分量が記載されますので、アレルギー食材や糖質などの栄養素も算出できます。

 このような情報を提供する事で自社製品がプラットフォームでレコメンドされる機会が増え、集客につながります。
 また、それら自社製品の販売をデジタル化する事で、商品や顧客ごとのリピート率が見えてきます。商品のリピート率データは、商品開発に役立ちますし、顧客のリピート率はLTVの算出につながり、LTVの算出はマーケティングコストの算出につながります。場合によっては、自社のデータを提供するかわりに、他社データも含めた(当然、個社ごとのデータは含まない)顧客ニーズのデータを開示してくれるプラットフォーマーも出てくるかもしれません。

その他の課題

 その他にも課題はいくつかあります。大きな課題は「ID連携」と「個人の情報開示」です。
 1つのサービスだけがもつ情報量でレコメンドの精度を上げることは困難ですが、中国の「BATH」やアメリカの「GAFA」は資本力を武器に様々なスタートアップを買収し、IDを連携する事でこれを実現しています。日本もYahoo!、LINE、楽天を中心にこれらの動きは見られますが、まだ限定的です。

※アリババ クラウドはOneIDというAIによりアカウントを予想する仕組みで、Single Sign Onをさせずに上記の課題を解決しているようです。(2020/4/22追記)

 個人の情報開示への抵抗感や法律面も障壁となります。CDR(Consumer Data Right)という個人が許可すれば第三者へ情報提供を可能にする制度を導入する国もありますが、当然、情報開示への抵抗があるのも事実です。

データが全てではない

 ここまで、データの重要性を指摘してきましたが、当然、データが全てではありません。人が欲求を満たすために自分自身の健康を害すばかりでなく、環境までも破壊してきた事は過去の歴史を見ても明らかです。まず、創りたい未来を定め、データを活用する事が必要です。


重要なのは消費者を豊かにするビジョン

オンライン企業とオフライン企業の分断や、ID連携、個人の情報開示などの課題をクリアしよ未来をつくるには、やはり消費者を豊かにするビジョンに尽きるかと思います。
 「データ」によって自社の利益を上げる事や、自社サービスを有名にする事を目的にしていては、個人が情報を開示したくなるわけはありませんし、企業間の連携もスムーズにいきません。データをもとに消費者の求めているもがたくさん作られ、スムーズに出会える環境を生み出すというビジョンこそがこれらを加速させるはずです。
 言うまでもなく、日本は豊かな食文化を持っています。それはミシュランの星を世界で最も多く獲得していることや、コンビニを中心としたリテールにおけるごはんのクオリティからも明白です。
 また、アジアで広く展開するグルメサイトの社長から、実は日本のグルメサイトを参考にしているという話しを聞いた事があります。日本人の食に対して求めるクオリティが高かったからこそ、グルメサイトが発展してきたのではないでしょうか。
 COVID-19を乗り越えるだけでなく、そこで起きた変化を糧にし、生産者、メーカー、飲食店(料理人)、リテールがテクノロジーを最大限活用し、世界中の人を笑顔にする事を願っております。
 以上、こんなことを考えているサービスのことをEatTechと言おうと思います。そして、我々SARAHはEatTechカンパニーとして食文化を支えていきます。みんなでEatTechを盛り上げましょう!

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