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No.70初夏の方程式

※今回はショートショートをお届けします(実話を元にしています)。


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☀この記事はクロサキナオさんの企画参加記事です☀
#クロサキナオの2024SummerBash

https://note.com/kurosakina0/n/nca6ac9a35baa

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7月・・・またこの季節がやってきた。
一年で一番「憂鬱」な季節が・・・。

高校生の時は良かった。部活に明け暮れた3年間。部活やっていれば寂しさという気持ちは皆無だったし、動いていれば気にすることもない。
ああ、あの頃に戻りたい。

大学生になって何とも憂鬱な気分になる原因がこの季節。

7月はこれから夏本番となっていくから、周りはソワソワし出し、既にはっちゃけて「夏だしガンガン飲みに行こうぜ!」ばかり言うアホ友人たち。また、「夏休みは彼女とお泊まり旅行行ってくるから~!」とニヤニヤしながら自慢げに言ってくるエロいことしか考えていないヤツ。

「あ~もう!どいつもこいつも浮かれやがって~!」

夏休みに入るからだからかもしれないが、お前らろくに授業受けずに遊び惚けていただろ!どうせ年がら年中アタマん中夏休みだろ?夏前に急に騒ぎだすんじゃない!大体、彼女いるくらいでマウント取ってくるな~!そんな可愛くないだろ~!(最後は余計)

・・・言いたいことは山ほどあるが、仕方ないから今日はこれくらいにしておこう。


大学生になって夏が嫌いになった原因は分かっている。大学一年の時の夏、ある飲み会の席で友人から言われた一言。

むっつりさんは嫌われるよ。そんなんじゃあー彼女なんて出来やしない・・・デキヤシナイ・・・デキヤシナイ……

・・・・・返す言葉がない。
いくら酔っていたとはいえ、辛辣にもほどがあるが、事実、所属しているスポーツ系サークルでも浮いた存在で、サークル内でも「アイツよく来ているな~絶対向いていないよ」と陰口を叩かれていることは分かっているし、むっつりなのは否定できない。

「どうにかして見返すことができないのか!」

ここで、あることが閃いた。

クリスマスイヴ等は1日やり過ごせば何とかなるが、夏休みは長いから何ともならん・・・ならば、来年の夏本番前までに女の子への苦手意識をなくし、彼女が出来れば、向こう1年くらいは憧れの恋人ライフが送れるに違いない!

そうだ、焦るな、俺。
作戦はいたってシンプルだが、「シンプル イズ ベスト!」。
よし、来年の7月には彼女作って、遅咲きの青春を謳歌するんだ!


その後の俺は、周りから「何かあった?」と言われるくらい「彼女ほしい」ことに貪欲になった。手当たり次第女の子に声をかけて話しまくった(ナンパではない)。

自分を俯瞰してみたら間違いなく「キモキャラ」。むっつりさんが急に女の子に話しかけたり、どう考えても不自然だし気味悪がられるだろう。

いや、普通にキモい。

でも逃げない!逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ・・・。

当時流行っていた「出会い系サイト」にも手を出した。ただ、これは女の子慣れするために割りきっていたが。
怪しいものに手は出したが、初対面といきなり話さなきゃいけない緊張感により、自分の中の潜在能力(何の能力?)が引き出されたような気がした。

そんなガムシャラな頑張りが功を奏し、緊張せず話せる女の子がちらほら増えてきた。
その中でも、飲食店のバイト先で知り合った女の子(中谷さん(仮称))に気持ちがひかれていった。

「中谷さんが良い・・・今以上に近づけないかな」

同じバイト仲間で小学校からの親友に「中谷さんが好きだ。仲良くなってデートまでこぎ着けたい!」と度々相談したら、親友がとても熱心に相談に乗ってくれた。

「あー、やっぱり持つべきものは友だな~」


武者修行(?)に明け暮れたこの1年。
今年も夏がやってきた・・・お目当ての中谷さんと普通に話せるようになり、人生で初めての、

「告白」

を決意。
バイト先の飲食店は冠婚葬祭で使用されるような懐石料理を取り扱っている店で、店内は個室もありかなり広い。

その店内の一角にホール担当が使用しているパントリーがあり、皿洗い場で働いている俺は、洗い終わった茶碗等を定期的にパントリーへ運んでおり、もし告白するならそのタイミングしかない。

 ただ、中谷さんは今日シフトに入っていなかった。
仕方ないので相談に乗ってもらっていた親友とバイト後にメシでも食うか。

 その親友から発せられた言葉は、バイト後に二人で近くのガストで遅い夕飯を注文した後だった。

親友「○○、今日はちょっと話があってさあー」

俺 「おお、話?実は俺も話したいことあったんだよ」

親友「言いにくいんだけど、実はこの前中谷さんとデートしたんだ。○○が中谷さんのこと好きなのを知っていたんだけど、ちょっと成り行き上、そうなってしまって。あ、でも、別に中谷さんと付き合うことになったわけではなくて1回きりね」

俺 「・・・・・はい?」

いやいやいや、ここのガストのようにただメシ食うくらいなら何とも思わないが、「横浜みなとみらい」って明らかに「デートスポット」ですよね?あなたたち。付き合っていないっていうけど手繋ぎくらいしたんでしょうかね?

お互いに「恋人ごっこ」してさぞ楽しかったでしょうね!!!

ココロの底から沸々と怒りがこみ上げてきて、親友はおろか中谷さんに対しても何故か怒りが湧いてきた。中谷さんが全然悪くないのは分かっていたが、「男に誘われたらホイホイついて行く女子だったんかい」と勝手に歪んだ感情を抱いた(小さい男だ)。

こうして現在は冒頭の下りになっており、今年の夏も彼女作りは完全に諦めた。

親友とは1か月の間、目すら合わせず、中谷さんへの想いもいつの間にか綺麗さっぱりなくなり、一切話さなくなった。

「彼女作ろうとして傷つくのはご免だ。バイト掛け持ちして気紛らわそう。」

ちょうど近くの郵便局の「夏休み限定学生バイト募集!」のチラシを見て早速バイトに応募しようと携帯電話に手をかけた。


・・・後日談として(まだ続くんかい)、そのさらに1年後の7月。
荒みきった俺に大学の友人が救いの手を差し伸べてくれて、その友人の紹介で一人の女の子と出会い、そして付き合うことになった。

「初カノだ~!」と浮かれきっている俺が、バイトに精を出していたある日。
パントリーで洗い物が完了した食器を収納しているときに、あの中谷さんがひょこっと顔を出してきた。

中谷「○○さんって彼女いませんよね?」
俺 「え、最近彼女できたけど」
中谷「(怒り口調で)え、なんでですか!いますぐその彼女と別れてくださいよー!!!」
俺 「・・・はい?」

憤慨したままパントリーを出て行ってしまった。

後で別のバイトに聞いたところによると、俺のことが好きだったとのこと・・・。

何だか俺にとって、「7月」は色恋沙汰が多い季節。
初カノは2年後の7月に別れ、その頃別の彼女ができ、また次の7月にはフラれ、また別の彼女と7月から付き合いだし・・・。

7月や
荒れた色恋
蝉しぐれ

何ら捻りもないもあったもんではない、センスの欠片も無い「初夏の方程式」が頭の中で成立した気がした。

【完】






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