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江戸中期から伝わる「皮なめし」をイノシシでやってみた ①川を探す旅

島に移住して5年の新米ハンター。おとなになったら、獣の皮のひとつもなめせないとね。ってことで、獲ったイノシシの皮をなめしてみることにしました。人生初挑戦。どこまでやれるかわからないけど。

このシリーズは、ある狩猟雑誌の取材をかねてチャレンジしています。プロのアドバイスも交えて手順をまとめた記事は、誌面で公開されます。(3月には告知ができると思いますので、お楽しみに!)

さーて、今日の皮なめしは?


かっこいいのに自然にもやさしい「姫路の白なめし」

わたしたちが普段使っている革製品。牛やブタなど、獣の「皮」が素材としての「革」となるためには、「なめし」という工程が必要不可欠。なめしの目的は、生の皮が腐らないように、やわらかく扱いやすいようにすることだ。

今回は、日本で古くから行われている「白なめし」というやり方でやってみたい。聖地は兵庫県の姫路市。馬の皮だって、こんなに美しい白になっちゃうんだよ。漂白剤とか使ってないのに。

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ちなみにこちらは、JRAの競馬として頑張ったお馬さん。多くは、食用のブタや牛を解体した際に、余った皮が活用されている。ミンクの毛皮とは違って、そのためだけに命を奪うわけではないのだ。

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そもそも「白なめし」とは何なのだろう?

姫路市の職員さんからお借りした貴重な資料には、ざっくりこんなことが書いてあった。

日本の伝統的な皮なめしといえば、甲州の「脳梁なめし(鹿革)」と播磨の「姫路白なめし(牛革)」が代表的である。白なめしは、原皮を川水に漬け、塩と菜種油でもみあげ、天日にさらして薄乳白色の革に仕上げるもの。この技法は江戸中期には完成していたものと思われる。

現代のなめしでよく使われるのは、化学物質の「クロム」や植物から成分を抽出した「タンニン」。自然界に存在する成分だけでなめす白なめしは、とても貴重で、また地球にやさしいともいえるのだ。

さて、ノーガキはさておき

今回の先生は、冒頭の写真に写っていた革業界のドンこと「オーガキさん」である。(そのスゴさについては、こちら ↓ にちょこっと書いた)

伝統技術なので敷居が高いのかな・・・と思いきや、「なめしは全部”化学”の話。おさえるポイントがわかれば、誰にでもできる!」との頼もしいお言葉。クオリティはさておき、まずは一枚つくってみたい。不器用でも、やれるところまではやってみようじゃないか。

自分でなめした革を手にした瞬間を想像すると、今からうっとりしっぱなしだよ。

まずは、皮を洗う「川」を探せ

皮をなめすには、下処理→なめし→仕上げ の手順がある。下処理は、個体から皮をはいで塩漬けにする。この塩は皮を腐らせるバクテリアを殺す役割と、なめしに必要なミョウバン成分を浸透させるためにすりこむ。

皮なめし業者には、だいたいこの状態で入荷されることが多い。

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次に、生の皮=原皮を水にさらす「川」を探す。この工程は「川漬け」と呼ばれ、塩を抜き、そのかわりに川の水に含まれるミョウバン成分を入れ込む目的がある。そのためには、ある程度の水量と流れがあり、皮をロープで結び付けられる支柱があることが条件。(温度や周辺環境などにも適正があるが、ここでは割愛)

姫路の皮なめし業者が集まる高木地区。ここに市川という大きな河原がある。昔はここで川漬けをしていたそうだ。

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わたしが住んでいるのは、瀬戸内海の大三島。本州の大陸とは違って広い川はないが、よさそうな場所を探して回る。

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まずは、神社の脇の水路。水はきれいそうだけど、川底が浅いなぁ。皮をしばるロープもくくれないし。

あと、そもそも神社の参拝客が、水にゆらゆら漂う獣の毛皮を見たら、「キャ~、死体!」って卒倒するんじゃなかろうか。

却下。

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ならばここはどうだ! 「入日の滝」と呼ばれる、我が集落の滝である。ここなら、お遍路さんとサイクリスト以外に来る人もほぼいないし、何より自分たちも集落の「役」として、定期的に草刈りや掃除をしている場所である。

自治会長である総代さんも、顔見知りだしやさしい。イノシシをひらひらさせていても、「ああアイツか」と大目に見てくださるだろう(たぶん)。これぞ田舎の強みである。

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写真ではわかりづらいけど、一応滝は音を立てて流れているし、心休まるいい場所なのですよ。

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木は1本あるけど、水流がいまひとつかな? 澱んでいる感もなくはない。やっぱり島では無理なのかなぁと、若干落ち込みながら、お昼用に買った納豆巻きとバナナをほおばる。

ここに書いてない場所も色々巡った。

あたい、何をさすらっているんだろう・・・。

「この次ダメだったら出直そう」と思ったラストチャンス。クルマで分け入ったダムの奥で、まさかのベストスポットを引き当てる!

川漬けの注意

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ダダダダダダ~。せせらぎサウンド、文句なし! 水深も浅いが、幸い底は砂。スコップで掘れば、ある程度かせげるだろう。しかも「ここに皮をさらせ」と言わんばかりのナイスな木が2本生えているじゃありませんか!

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雑で恐縮だけど、イメージはこんな感じ。

興奮しながら、革王オーガキ氏にLINEで写真を送り、勢いあまって電話する。ここどうっすかね!? 王は「いいんじゃない?」と笑いつつ、こんなアドバイスをくださった。

■皮を干せる場所が近くにあるとよいだろう

■普通は2、3日で毛が抜けるが、おぬしの皮は傷んで(少し腐って)おる。なので1日もかからないかもしれない

■きっと臭いので、川にさらしてから塩を何度も塗るといいであろう

傷ませたのは、わたしがずっと縁側で放置していたからだ。皮や処理の不備ではなく、ひとえにわたしのだらしなさだ。しかし「ある程度傷んでいても、皮なめしはできる」と、革王はどこまでも大らか。ははぁ~! 王よ、ついていきます!

皮を干す場所が近場にはないため、そのときは家まで持ち帰って裏で干すことにした。

ただ、問題は・・・

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放置し、傷ませてしまった皮がめちゃくちゃ臭そうなのである。恐れのあまり、ビニールの上から新聞紙でぐるぐる巻きしていた。

というわけで、明日は皮との再会です。どうなることやら…。


◆続きはこちら!

◆追記 このチャレンジの全手順は、こちらの雑誌に掲載されました。読んでね!


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