俺と師匠の情熱seitai life season2 全身関節編 4
関節の2回目のセミナーの頃だったかな。その日の先生はいつもと様子が違った。
感慨深げに俺たちに話してくれたことがあった。
「俺はみんなに開業を煽っているように感じることもあると思うけど、そういうわけではない。開業を焦るあまり失敗しそうになる教え子が後を絶たないんだ。
ただこの仕事を続けてほしい。開業したいと言っても無理そうだったら真剣に止めるし、しない方がいい子も沢山いる。こんなにいい仕事は無いと思う。クライアントが喜んで帰ってくれて、お金まで払っていってくれる。
アレクサ肩もんでって言ったって、肩を楽にすることはできないだろう。この仕事はきっとこれからも無くならない。だからこの業界を離れずに続けていってほしいと思っている。」
この日の先生の淋しげな、少しうつむきながら話す姿が印象的だった。きっとこれが先生のある意味本心。
楽しく自由に生きている人でも抗えない何かはやはりある。1人では沢山の変えられない未来も。それを1人で何でもやっているし、これからもやろうとしている。
自由と責任は紙一重、一寸先は暗闇ばかり、そんな人生を先生もきっと生きてきたのだろう。
脅迫状がきても平気でむしろ喜んでいた。
ひと月前に横浜から差出人の無い封筒はプリンターで書かれてグチャグチャにされて置いてあったらしい。きっと先生に嫉妬したんだろうな。
ダせえ!文面からオッサンな感じ、哀れだよ...。俺みたいにやり直す勇気も残ってなくて、ただ燻り続けて日々を過ごしているんだな。あまりに予約入らなくて暇つぶしで書いたんだろ。俺からしたら中途半端なガラクタな価値のない旧車みたいなもんだ。
後日談だが、このセミナーの日の数日前に先生の親友が突然亡くなったらしい。朝からベッドで声をあげるほどの号泣。ずっと親友とのメールのやり取りを遡って見ながら泣きっぱなしだったという...。
俺達がみてる先生からは想像がつかない、怒りと悲しみで溢れていた先生は近づくのも怖いくらいだった。
人の生死に対しては先生はドライな人だと思っていたのだか...。
だがいつも以上にその後は俺たちに優しく丁寧に整体を教えてくれた。
俺にとっては通り過ぎてしまえば何でもないような出来事、言葉。でも何故だかこの日のことを夏の終わりの夕暮れを見るたびに何度か思い出すだろう。
つづく
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