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ユメと私

第三章 未来への希望

 
 「エリー起きなさい、遅刻するわよ!」
母のイライラした声が扉の向こう側から聞こえる。
「はーい。」
学校に行きたくないと思いつつも、寝転がったまま伸びをした。
お母さんに起こされなくたって目は覚めていたけれど、ベットから出るのが嫌だった。

 学校なんて楽しくない。ただ面倒なだけ。
 
 小学校の時からずっと仲良しだった友達三人とは、私だけが別のクラスになってしまった。仲が悪くなったっていうわけじゃないんだけど、その子達は新しい友達を作り、雰囲気が変わってしまった輪の中には馴染めなくて、私から距離をとっている。
 私のクラスには気の合う友達がいなくて、孤立している私に突き刺さる冷たい視線から自分を守ることで精一杯なんだ。
 「部活をしたら楽しいんじゃない?」とお母さんは言うけれど、一秒でも早く家に帰りたいのに部活なんてやってらんない。
 それに、勉強だって、成績の為だけに、興味のないことを丸暗記しているだけ。この勉強が、将来どんな役に立つのか、誰かはっきり教えてくれるのならば、勉強にも力が入るのに。
 
 こんな無意味な生活を過ごす事に飽き飽きして、生きることさえ面倒に感じてしまう。

 でも、これ以上、お母さんに辛い思いをさせたくはない。だって、お母さんと私は可哀想な人達なのだから。お父さんが死んでから、お母さんと私は、辛い思いを抱え、大変な人生を生きている人達だと呼ばれている。勝手に貼られたレッテルだけど、その運命を背負って生きていかねばならないのだろう。
 今は、淡々と学校に行き、上っ面だけの真面目な学生を演じきる。それだけでいい。それが一番お母さんを心配させないで済むんだから。
だけど…それだけじゃ嫌だって思ってる事も本当は知っている。

校庭を見渡せる窓側一番後ろの目立たない席

 こんなつまらない中学校生活で、唯一ラッキーな事は、校庭を見渡せる窓側一番後ろの目立たない席ということぐらい。

 「今日は、国語の先生が出張でいないので自習になります。教科書二十二ページで習ったような、四季を感じる詩を書いて、明日の国語の時間に提出してください。」とだけ言い残して、担任の先生はそそくさと教室から出て行った。

 「はぁ~。なんにも思い浮かばないや。」
 頬杖をつきながら、ガヤガヤと賑やかになってきた教室の音をシャットアウトするように、校庭の大きな木をぼーっと眺めていると、いつの間にか眠ってしまっていた。
 

今までに見たどんなに美しい木よりも遥かに魅力的で目を離すことができない



 草原の果てに一本の大木がある。太くて健康的な幹に、甘い蜜の香りがしそうな白い花が満開に咲いている。今までに見たどんなに美しい木よりも遥かに魅力的で目を離すことができない。

 花びらがそよ風に乗ってふわふわと飛んでくると、手の平にそっと落ちた。

「お母さ~ん、こっちこっち!」
 大木の横で、小さな男の子が両手を大きく振っている。

「お母さん?」と一瞬だけ困惑したけれど、私を呼んでいるように見えたので木のふもとまで走ろうとした。…が、異様に体が重たい。水の中を必死に犬かきで進むようにして、なんとかたどり着いた。

「ハァ~、ハァ~、ハァ~。やっとついた。」
 膝に両手をつき、息を落ち着かせてから、ゆっくりと見上げると、目の前には、ニワトリの着ぐるみを着たおじさんがいた。

「お母さん、僕だよ。君の将来の息子。今はこんな格好だけどね。」

「えっ…?」と、私は眉間にシワを寄せながら、ウソみたいな話に困惑した。
 
「僕は、未来で息子となるわけだけれども、この地球には、何度も旅に来ている先輩さ!
だから、今のお母さんに必要なアドバイスを伝えにきたよ。
今日は、僕の隣にあるこの木の話。小さくて、幹もヒョロヒョロで、今にも折れてしまいそうな木。枝もまだ数えるほどしかなくて、葉っぱも数枚しかついていない。この木があと十年程で大きな大人の木に成長するんだ。」
 
 あの遠くから見ていた、白い綿菓子のように花を咲かせていた大木が、なぜか弱々しい小さな木に変わっていた。
 そして、将来の息子は、こう続けた。
 「ジャジャーン!この木は、お母さんでーす!
この場所は、最高だと思わない?気持ちのいい風も吹いてさ、太陽の日差しもあって、土もあるんだよ!
あれ? ねー、もしかして、ここに足りない物のことばかりを考えてる? こんなヒョロヒョロな木しかないじゃんとかって思ってる? お母さん、あるものを見てごらんよ。こんなにも、素晴らしい景色の中にいるって事に気づいてよ。
 この木はね、成長期と呼ばれる年齢。子供から大人への変わり目だ。心も体も猛スピードで日々変化しているんだよ。子供の無邪気で恐れを知らない、純粋な心を持ちながらも、理不尽な世の中が垣間見え、矛盾した大人にはなりたくないと思いながらも、早く大人になって自由になりたいと、混乱しながら一歩一歩自立への道を歩み始めている。
 今は、大人と子供、両方の視点を一度に体験できる素晴らしい時なんだ。そんな時だからこそ、学べること、経験できること、そこから吸収できることが星の数ほどある。

 この幹の部分には、いま現在の『軸』が通っている。そして、過去の『学びと経験』が根となり幹を支えているんだ。枝は『取り巻く環境』。そして、葉は未来への『希望』。
 
 学びと経験を常に繰り返している成長期は、多くの根をどこまでも太く深く、早いスピードで張り巡らせることが可能で、今後、この木がどんなに大きな木に成長しようとも支えることができるんだ。だから、より多くのことを知り、学び、チャレンジし、失敗し、成功し、悲しいこと、辛いこと、悔しいこと、理不尽なこと、楽しいこと、嬉しいこと、幸せなことも全部経験して、これからの人生の支えとなる土台を作り、その人生経験が、未来に必要な直感力、思考力、判断力、決断力、行動力、発想力を作り上げるんだよ。
 
 この先、年齢と共に枝もどんどん増えていくだろうね。自分と関係ないと思うような人や物事も全て含め、新しい出会いや環境の変化が増えていくからね。
 だけど、枝を増やすだけに一生懸命でいると、幹に栄養が行き届いていない事に気づけないんだ。 急な変化を受け入れられずに、強い風が吹いた時に、枝の重さに引っ張られて、幹も一緒にボキっと折れてしまうよ。
 だから、こうやってお母さんが今、自分の木の様子を外側から見つめているように、時々自分の状況を俯瞰して、枝の剪定をしたり、メンテナンスしてあげて、命の循環を促してあげることが大事になるんだ。
 自分の状態を把握したならば、状況に合わせてしなやかな動きができる木になり、嵐が来ようとも折れる事なく立っていられるよ。強い風が吹いてどんなに枝が大きく揺れ乱れようとも、そこに逆らうことなく、強張ることもなく、幹は力強くしなやかに、ゆったりと、その揺れを受け入れ、平然な顔で立っていられるんだ。
 
 でもね、いくら管理された木だって折れることはある。生きてる限り、そんなことは、誰にも予測できない。もし、この木が折れてしまっても、根がしっかり大地に根付いていれば、また息を吹き返すチャンスはある。折れた後でさえ、幹に残った枝や枝の痕跡、または根から新目が出てきて、息を吹き返せる。だから、一本一本の枝と根には、必ず意味があって、無駄な枝や根はないんだ。お母さんが出会った全ての人や物事、経験には必ず意味があるってことだよ。

 根があるから幹を支え、立派な幹があるから多くの枝を支え、枝があるから葉が芽生える。どこが欠けても駄目なんだよね。」馬鹿げたニワトリの着ぐるみを着たおじさんは、真剣な顔で私の目を見つめた。

 「まぁ、色々と話したけど、お母さんに大切にしてもらいたいのは、見えない未来に不安を持ちすぎないって事。今は、「何でこんな事しなきゃいけないの?」と、あやふやな現実に疑問を抱くことも多いよね?それは、土の中で一生懸命に根を張り巡らせている時だから、しょうがないんだ。まだ見ることのできない未来を作っているところなんだよ。「もしも、こうなったら。」って起こってもいない未来を想像したら不安になってしまうのは当たり前。だから『今だけ』に集中してみると少しは安心に変わるかもしれないよ。だって、今、この瞬間が、昨日という根となり、明日という葉になる。全てが一本に繋がっているんだからさ。
 さっき見ただろ?お母さんの未来。あの木があんなにもキラキラ輝いて見えたのは、未来のお母さんは、希望に満ち溢れた時間を過ごしているってこと。これから、たくさんの花を咲かすのだから、何にも心配しなくていいんだよ。全てが計画通り。全てが順調。全てがうまく行っている。何が起こっても大丈夫。僕は、お母さんが『未来への希望』という栄養で満たされるように、木を照らし続けるからね。」と、将来の息子だと言ったおじさんは、『トンッ』と優しく木の幹に手を置くと、『空っぽの心は、柔らかい春風に癒されて、初夏の情熱に包まれる。』」と言い残し立ち去った。

空っぽの心は、柔らかい春風に癒されて、初夏の情熱に包まれる

 トントン、トントン。
 クラスメイトの女の子がエリーの肩を叩いた。
「宮本さん、次は体育だよ!もう、着替えて体育館行かないと。」
「えっ⁈」と周りを見渡すと、誰もいない空っぽの教室。外からふわっと暖かい春風が入り、白いカーテンが揺れた隙間から初夏の強い日差しが私を照らした。


 
 その頃、宇宙船では、「翔太、よくやった!」と拍手喝采が起きていた。
「さぁ、作戦会議だ。次はどんな展開が面白いだろうか?」と監督のお父さんが言うと、ミミが手を挙げ、「もう脚本できてます!皆さんの意見も聞かせて下さい。」と言って脚本をスッとお父さんに渡した。
「どれどれ。えーっと、うんうん。」と、みんな一斉に脚本を覗き込み
「いいですね~」「やってみましょう~!」とやる気に満ちた歓声が湧き上がり、「さぁ~ソフィアさん『音』お願いしますよ~。よーいスタート!」と監督の一声が飛んだ。


 『キーンコーンカーンコーン♪』
 
 長い長い学校がやっと終わった。学校の正面玄関の重たいガラス扉をゆっくりと開けると、外の部活動の生徒達がもう既に練習を始める声が聞こえた。自転車置き場に向かって歩いていると、コロコロコロっと足元にテニスボールが転がってきた。テニスボールを拾い上げ、周りを見渡すと、ボールを追いかけて誰かこっちに向かって走ってきた。こんがり焼けた肌にサンバイザーをつけて、ニコッと白い歯を見せてこう言った。
 「どうもありがとう!1年生?部活入ってる?」
私が「入ってません」と答えると、「私は2年生なんだけど、一年生の入部が少ないの。テニス部すっごく楽しいのに。もしよかったら体験入部こない?ほら、あの一年生、五人しかいないんだよ。」と、私の目をジッと見ながらも終始笑顔でテニスコートを指さした。チラッとテニスコートに目をやると、小学校の仲良しだった友達三人もそこにいた。『なんで、私にはテニス部に一緒に入ろうって声かけてくれないの?』と、一気に怒りが湧いてきて、「あ、え…私、運動苦手だから。ごめんなさい。」と、先輩の顔も見ずに小声で言いながら走って逃げてしまった。

 「やっぱり、私にはもう友達なんていない。もう、いい。」

 今は、全てのことが面倒だ。もう全部やめてしまいたい。

 でも…。本当は、中学校に入ったら部活の仲間と呼べる人達と必死になって練習して、頂点目指す青春ドラマみたいな思い出も作ってみたかったのにな。


 宇宙船にいる小さな子供姿のお父さんは、プンプンと怒っていた。
「中学校に入る前のエリーの夢だったじゃないか!
宇宙船にその夢投げてたよ?え〜?!
チャンスを目の前に差し出したのに、受け取ってくれなかった〜!」と、半べそをかいている。
 騒ぎ立ててるお父さんを無視して、「うんうん。これも予定通り。」と腕を組み、頷きながら翔太は言った。
「『挑戦する』という目的を達成するためには、まず『挑戦できない』も体験する。全ては表裏一体。表に現れた悩み、怒り、不平不満の裏に存在している不安の原因を、安心に変える手段や方法を学び経験することを地球の宿題帳に創造していった。
 不安の綱を渡っているのだから、不安になるのは仕方がない事なのに、エリーは、自分の不安をかき消す為に、面倒だけで片付けてしまっているのだろう。
 「やってもやらなくても、どうせ結果は同じだから。」と、エリーの母親に話していたけれど、これって実は、宇宙の記憶がうっすらと残っているからなんだよね。
そうそう、宇宙では、やってもやらなくても同じ。全てが完璧の世界で、全てが可能であるからこそ、何もしなくていい。宇宙は究極の『無』なんだよ。
 だけど、地球は『行動』の惑星。やるとやらないでは全然違う。目の前に差し出された挑戦に、少しでも心が浮かれる感覚があるならば、その挑戦には、地球で、どうしても経験したかった事や学びが隠されているんだ。
 エリーは、覚えているのかな。宿題帳には『学びと経験』だけが創造されていて『結果』はないって事。『結果』は、行動の先にただあるだけで、本当に手に入れたいものは、挑戦している過程で既に手に入れているのだと。
 しかし、地球っていう惑星ではどうして、こんなにも単純で、簡単にわかりきっている事でさえ、エゴやプライド、周りからの評価をわざわざ持ち出して、怒りの矛先を間違ったところへ向けるのだろうか。
 絡み合った長い髪のように、複数の異なる問題をぐちゃぐちゃに絡め合わせる。そんな込み入っ考えができる人間の思考能力は、絡み合うことを知らない一本一本独立したストレートヘアの宇宙感覚からすると、本当に魅力的なんだ。あ~いいドラマ展開になってきたぞ。」と満足そうに翔太は言った。

* 

 変化を恐れながらも、成長を続ける中学二年生になったエリーは、長く伸びきってしまい乾かすのに時間のかかる厄介な髪の毛を、ドライヤーで雑に乾かしながら、英語の先生に言ってしまった事を後悔していた。

 いつも通り、読書で暇な時間を潰していた昼休み、『二年A組の宮本さん、職員室に来てください。』と英語の先生に校内放送で突然呼び出された。

 「宮本さん、今度、市で行われる英語のスピーチコンテストに出てみない?宮本さんは、英語が得意だし、先生は宮本さんにお願いしたいと思うんだけど、どう思う?優勝したら、夏休みに2週間交換留学生としてカナダに行けるわよ!」

『ずっと行ってみたかった外国に行けるチャンス!』と、ドキっとしたけれど、私なんて優勝できるはずない。結果を残せるはずがない。ただ恥ずかしい思いをするだけだと浮ついた心をすぐに消し取った。

「んー。、英語は好きだけど、やめておきます。」

 やっぱり私はいつも通りの悲観的な面倒くさがり屋。自分を見下し、愚痴と文句と言い訳はすぐに出てくるのに、自分を変える勇気は出ない。
「なんで、やってみますって言えなかったんだろう。でも、目立つのは、嫌だしなぁ。はぁ~あ。もう、こんな自分、もうイヤ。」と、呟きながらドライヤーの電源を切った。
 本当は、もっと素直になりたいのに。このままじゃ、何の為に生きているのかさえ、わからない。このままの私でいいのだろうか。私は何の為に生まれてきたのだろうか。誰か教えて。

 お風呂の湿気で曇ってしまった脱衣所の鏡をパジャマの袖でサッと拭くと、そこには、涙をポロポロ流す素直な私がいた。

 宇宙船には、おばあちゃんとソフィアの二人きり。そして、おばあちゃんは独り言のようにぶつぶつと話始めた。
「地球の人間コミュニティってのはさ、数え切れないほどの種類のラベルをペタペタと互いに張り合って、分類しあうのよ。同じラベルを持つ者同士は、マグネットのように引き寄せ合い居場所を作ってさ、その居場所での価値観を基準に、身分が上だ、下だ、善だ、悪だ、得した、損したと、自分の位置や相手の位置を確認しながら安心を得るのものなのよねー。
 あとは、称賛や非難とか、他人からの評価、物質的評価、喜びや怒りの感情を受け取ったりして、存在価値を見出し安心を得たりもしたかしらね。
 『存在価値』を自分自身で確認し評価して、同等の満足感を得られるのであれば最もシンプルだけど、高度で複雑で繊細な人間感覚では、そう簡単にはできないの。
 エリーはまだ気が付いていないけれど、自分の『生まれてきた理由や生きている目的』を考えると不安になるのは、宇宙の記憶が微かに残っているから。
 地球旅行の出発前に、行く目的はこれだと、はっきりと定めて来たはずなのに見失ってしまった。              
 目的はモヤモヤの向こうのどこかにあるはずなのに、あと少しで掴めそうで掴めないから、やっぱり自分の存在価値や理由は無いと勘違いして不安になる。
 この存在価値への不安は、時に他人へ、時に自分自身へも刃を向け、凶暴に暴れ出し、悲しみと痛みを生む。だから、他人があなたの価値を認めてお願いしてきた事は、不安な心を満たしてあげられるチャンス。心が浮き立つような頼み事なら尚更ね。
 存在価値に悩むということは、もうすぐ、あなたが存在する理由の一つを発見できるっていうサインでもあるのよ。素敵ね。面白いドラマになって来たわよ。」と、言い残してスッと消え去った。

 他のクルーたちも、今は掛け持ちしている宇宙船へ行っている。

 ソフィアが一人残された宇宙船では、操縦席横の赤いランプが点灯した。
 「あら、記録ランプね。一人になってしまったけれど、エリーちゃんが必要な記録を取って来ましょうか。」と言って点滅しているボタンを押し、エリーが必要としているその場面まで時空を超えた。

 宇宙船のクルーたちは忙しい。掛け持ちしている宇宙船を行き来きしたり、主人公の過去、現在、未来の時空も行き来している。

 主人公が、必要な情報を時間軸から宇宙船が見つけ出すと、『記録ランプ』が知らせてくれる。時空を超えたクルーが、そこから一コマを切り取って現在に持ち帰り、記録プレイヤーで再生する。

 主人公たちは、ふと思い出した過去の記憶、予感、ひらめき、夢、ふとした誰かの発言や目や耳に入って来た情報など、無意識の宇宙感覚の空間で受信する。

 この記憶に意識を注入すると、未来の問題を回避できたり、シンクロニシティ、デジャブ、正夢などの不思議な現象が起こる。
 
 「エリーは、気づいてないけれど、このふとした瞬間に受信した情報は、あなたに必要な何かが含まれている。気のせいで終わらせたらもったいないわ、エリー。」と言いながら、切り取ってきた場面を記録プレイヤーに入れて再生させた。



 久しぶりに学校帰りに本屋に立ち寄ったエリーは、昔一度だけ読んだことのある一冊の絵本に目がいった。最近は絵本のコーナーなんて気にもならなかったのに。

「あれ、これ小学校の図書館でちょっとだけ読んだことあるかも。」
ペラっと1ページ目を開いてみる。

「この魔法をあなたの種の神髄(しんずい)に注ぎます。魔法の花を咲かせるかどうかは、あなた次第。花は咲かせなくても良いのです。なぜなら、あなたの存在自体が、この魔法の森を美しく彩るのですから。」

 最初の一文だけ読んだエリーは、その本を読み進めることなく本棚へ戻した。
「そうだった!あの時もなんだかよく分からなくて、ここだけ読んで元に戻した気がする。」

でも今回は、少し違った。
「あなたの存在自体が、この魔法の森を美しく彩るのですから。」の一文がずっと頭から離れなかった。

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