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『理系女性の人生設計ガイド』(大隅典子・大島まり・山本佳世子 著 講談社 2021)読書感想文

この本のタイトルおよび著者を見ると、「理系女性による理系女性のための本」という印象を持つ。メインターゲットは理系の女子学生や女性研究者なのだろうが、男性が読んでも学びが多い。それは、扱っている人生設計やキャリアアップというテーマが、男女双方に関わるものだからである。

この本は以下のような3部構成になっている。

  • 第I部 先輩理系女性たちが歩んできた道

  • 第II部 大学で、企業で。理系女性のさまざまな活躍の場所

  • 第III部 2人の教授が現在・未来の理系女性を語る

第I部では、著者である三名の女性の半生が書かれている。そこでは、大学進学や留学のこと、大学院生や若手研究者時代の研究のこと、現在の仕事を得たきっかけなどが書かれている。

また、その歩みの中の場面場面でどのようなことを悩み考えていたのか、についても書かれているので、参考にもなる。キャリアアップ、仕事の確立、研究室を主宰する立場を意識することなどに関する彼女たちの言葉には励まされる。以下に、印象に残った言葉を三つピックアップしてみた。

自分にとって「どういう立ち位置が本当にハッピーなのか」「自分の研究者人生は輝いているのか?」と、あらためて考える時間は絶対に必要なのだと思います。

『理系女性の人生設計ガイド』p36(大隅典子氏の言葉)

それまでの専門を生かしながら、異分野とつながってしなやかに進化しながら、次のステップを目指す。キャリアはそうやって築いていくものなのかもしれません。

『理系女性の人生設計ガイド』p69(大島まり氏の言葉)

粘り強さを身につける機会は大切ですが、適切なときに方向転換する決断力もまた、重要なのですから。

『理系女性の人生設計ガイド』p80(山本佳世子氏の言葉)

“自分にとって「どういう立ち位置が本当にハッピーなのか」”を考え、“しなやかに進化しながら、次のステップを目指す”ことが大切なのだろうな、と彼女たちの半生を読みながら噛みしめた。また、“適切なときに方向転換する決断力”の大切さについて書いてくれていることにも励まされる。

続く第II部では、理系女性が置かれている現状を概観することに始まり、大学進学、研究室選択、大学院進学、そして、就職先選択の際に考えておいた方が良いことや参考となる情報が書かれている。

この第II部は異なる段階ごとで考えるべきことが書かれているので、学生の読者はそれぞれの段階でこの本を取り出して当該箇所を読み返すと良いだろう。もう学生でない大人は、進路選択の時期の学生にこの本を勧めるのも良いだろう。

第III部は著者らによる座談会である。理系女性のこれからに関する大隅氏・大島氏の言葉には重みを感じる。

政府の資金による活動は、予算の付いた数年間は強力な後押しになっても、予算が終了したらそれでおしまい、また元通りとなりがちです。このやり方では女性の活躍を長きにわたって推進する手立てにはなりません。お金のかかる支援策は続かない。その意味で私がもっとも大事で、しかも有効だと思うのは「男性の意識改革」です。

『理系女性の人生設計ガイド』p240-p241(大隅典子氏の言葉)

人数をある程度まで、意識的に増やしていく必要があります。集団の中で、何かを一人で主張しても「あなただけの考えでしょう」と跳ね返されてしまう。声が小さくて、かき消されてしまいます。でも10人で声を上げるとなれば、「多くの女性が思っているのか」と感じてもらえますから。

『理系女性の人生設計ガイド』p243-p244(大島まり氏の言葉)

理系女性を含む女性活躍推進の気運は盛り上がってきている感じる。しかしながら、大隅氏や大島氏が指摘するように、支援策の問題や意識の問題、数の問題は現在進行形だ。とはいえ、彼女たちが学生の頃と今とでは変わっていることも多いと思う。理系における女性活躍推進はこれからはどのように変わっていくのだろうか。

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