小林良彦

読んだ本の感想や、原子・元素・原子核のこと、科学コミュニケーションのことなどについて、…

小林良彦

読んだ本の感想や、原子・元素・原子核のこと、科学コミュニケーションのことなどについて、肩の力を抜いて、書き続けたい。日ごろ勉強したことや考えたことなども雑記として書き連ねたい。たまにはまとまった文章も書きたい。博士(理学)。ヘッダーは硫黄山で撮影。

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とある大学教員の自己紹介(2022年1月5日版)

僕は現在、大学教員として働いている。noteは以前からたまに書いていたのだが、2021年10月から心機一転して再スタートをした。年も変わったタイミングでこれまでの自分を振り返りつつ、自己紹介を書いた。結構長くなってしまったので、目次を見て、気になる箇所を拾い読みして頂けると嬉しい。 これまでの学びと夢と憧れ幼稚園~小学校前半:博士になりたい 幼稚園も小学校も行きたくなかったことは覚えている。それ以外で覚えていることは、親が買ってくれたDeAGOSTINIの『恐竜サウルス』

    • 『「社会」を扱う新たなモード』(飯野由里子・星加良司・西倉実季 著 生活書院 2022)読書感想文

      本書の副題は「『障害の社会モデル』の使い方」だ。「障害の社会モデル」は、当人の心身機能の制約自体を「障害」とする「障害の個人モデル/医学モデル」に対して、社会環境が誰かの「障害」の要因となっていると捉える立場のことを指す。 近年の「合理的配慮」の推進に伴い、「障害の社会モデル」の認知度も上がっているそうだ。僕自身も「合理的配慮」推進の文脈で「障害の社会モデル」を知った一人だ。 本書は「障害の社会モデル」の誤解・誤用が広まっていることに懸念を抱いている3名の研究者による一冊

      • 『客観性の落とし穴』(村上靖彦 著 ちくまプリマー新書 2023)読書感想文

        客観性はとても重要だ。客観的な意見や客観的な事実(エビデンス)は何かを議論する際、何かを判断する際に重宝される。そんな「客観性」にも「落とし穴」があるのか、という気掛かりが本書を手に取る動機だった。 本書は客観性が持つ不備などを指摘するものではない。本書を書くきっかけは著者による以下のtweetだったそうだ。 著者の問題意識は上記tweetにもある「客観性信仰・統計信仰」である。本書の中でも繰り返し述べられているが、著者は客観的なものを否定したいわけではない。しかし、(著

        • 科学は私たちの世界観に影響を与え得る

          その研究は何の役に立つのですか?という質問に辟易している科学者も少なくないだろう。科学者側からすれば、こういった質問には「科学の発見=役に立つはず!?」といった短絡的な考えがあるのではないか、と勘繰ってしまい、答える気も失せるのかもれない。 「役に立ちません!」と言い張るのも一つかもしれない。しかし、これでは匙を投げたようなものである。確かに、科学の発見は、社会に(すぐに)良い効果をもたらす、とか、有用である、という意味で「役に立つ」とは限らない。 しかし、では社会にとっ

        • 固定された記事

        とある大学教員の自己紹介(2022年1月5日版)

        • 『「社会」を扱う新たなモード』(飯野由里子・星加良司・西倉実季 著 生活書院 2022)読書感想文

        • 『客観性の落とし穴』(村上靖彦 著 ちくまプリマー新書 2023)読書感想文

        • 科学は私たちの世界観に影響を与え得る

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          事業仕分けと科学者の傲慢性

          もう15年も前の話になる。当時の私は大学の学部生だった。当時の民主党政権は、2009年に行政刷新会議による「事業仕分け」を実施した。スーパーコンピューター「京」などの予算が削減された。「京」に関する議論の中で、蓮舫議員が「なぜ世界一じゃなきゃダメなんですか?二位じゃダメなんですか?」と発言したことが大きな話題になった。 おそらく、多くの科学者はこの件に危機感を覚えた。大学や研究機関の長、ノーベル賞受賞者などの著名な科学者たちが危機感を訴える声明を提出した。例えば、以下のよう

          事業仕分けと科学者の傲慢性

          『犠牲 わが息子・脳死の11日』(柳田邦男 著 文春文庫 1999)読書感想文

          著者である柳田氏は医療分野も扱うノンフィクション作家である。柳田氏の次男・洋二郎氏は自死を図り、脳死に陥ってしまう。そして、11日後にこの世を去った。25歳という若さだった。本書は、柳田氏が洋二郎氏の11日間の死のプロセスに向き合った記録である。 本書では、洋二郎氏が脳死に陥った後の医師・看護師や家族(主に長男・賢一郎氏)とのやり取り、洋二郎氏との思い出、そして、父であり作家である柳田氏自身の心の動きが書かれている。 印象深いのは、本書の各所で洋二郎氏の日記や短編小説が掲

          『犠牲 わが息子・脳死の11日』(柳田邦男 著 文春文庫 1999)読書感想文

          『障害者ってだれのこと?』(荒井裕樹 著 平凡社 2022)読書感想文

          「障害」について知りたいと感じることがしばしばある。そんな感覚と共に、「まずはこれを読んでみよう」と本書を手に取った。著者の荒井氏は「マイノリティの自己表現」を専門とする文学研究者とのことだ。 本書は2部構成になっている。第1部「『障害』とはなにか?『障害者』とはだれか?」では、「障害」や「障害者」に関する歴史、理論、イメージについて書かれている。「理論」パートでは、障害学の知見についても書かれており、勉強になる。「イメージ」パートでは、パラリンピックや24時間テレビなどが

          『障害者ってだれのこと?』(荒井裕樹 著 平凡社 2022)読書感想文

          『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(石井光太 著 文藝春秋 2022)読書感想文

          本書で報告されている問題は「国語の点数が低い」というものではない。本書に登場するのは、校内暴力、恐喝事件、いじめ、自殺、不登校、ゲーム依存といった深刻な社会問題だ。そして、それらの問題の当事者となる子供たちは、言葉を得る機会を奪われた子供が少なくない。では誰が彼らの国語力を殺すのだろうか。 文部科学省によると、国語力の中核は「考える力」「感じる力」「想像する力」「表す力」の四つの力によって構成される、とある。つまり、「国語力」とは単なる語彙力のことではない(語彙は国語力の基

          『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(石井光太 著 文藝春秋 2022)読書感想文

          『当事者は嘘をつく』(小松原織香 著 筑摩書房 2022)読書感想文

          インパクトのあるタイトルが目に留まったのが、本書を読んだきっかけだ。内容もインパクトのあるものだった。著者である小松原氏は哲学研究者である。小松原氏は大学生のときに性暴力被害に遭った「当事者」だ。 本書は著者の半生が描かれたエッセイである。性暴力被害の「当事者」としての自分、そして、性暴力や水俣病を研究対象とする「研究者」としての自分への葛藤が述べられている。 「第一章 性暴力と嘘」では、著者が当事者として「私は嘘をついているのではないか」という不安について書かれている。

          『当事者は嘘をつく』(小松原織香 著 筑摩書房 2022)読書感想文

          『桝太一が聞く 科学の伝え方』(桝太一 著 東京化学同人 2022)読書感想文

          元日本テレビアナウンサーの桝太一氏は2022年度より、同志社大学ハリス理化学研究所でサイエンスコミュニケーションの研究に取り組んでいる。本書は月刊誌『現代化学』に掲載されたサイエンスコミュニケーションに関する七つの対談・鼎談を書籍化したものだ。 いずれの対談・鼎談においても聞き手は桝氏が務めている。相手は以下の8名である:山中伸弥氏(2012年ノーベル生理学・医学賞)、大隅良典氏(2016年ノーベル生理学・医学賞)、篠田謙一氏・小川義和氏(国立科学博物館)、藤田誠氏(東京大

          『桝太一が聞く 科学の伝え方』(桝太一 著 東京化学同人 2022)読書感想文

          『「私物化」される国公立大学』(駒込武 著 岩波書店 2021)読書感想文

          時代と共に大学の在り方も変化する。イノベーションの創出やグローバル人材の育成といったことは、国や産業界から強く要請されている事柄だろう。そういった要請と併せて、大学にはガバナンス(管理・運営)改革も求められている。 大学のガバナンス改革における中核の一つは学長のリーダーシップの確立である。学長がリーダーシップを発揮し、大学をより良く改革していくことは大学が社会と共にアップデートしていくために必要だろう。しかし、その「リーダーシップ」が学長の持つ権限を肥大化させ、大学を「私物

          『「私物化」される国公立大学』(駒込武 著 岩波書店 2021)読書感想文

          『神隠しと日本人』(小松和彦 著 角川ソフィア文庫 2002)読書感想文

          拉致問題のような国際問題から近所の誰かがいなくなったなど、現代でも失踪事件を耳にすることがある。ただ僕(たち)は、失踪事件の話題に触れたときに、「神隠しかもしれない」などとは思わない(だろう)。しかし一方で、「神隠し」というものが言い伝えや昔話の中に存在していることも知っている。では、「神隠し」とは何なのだろうか(何だったのだろうか)。そんな疑問のヒントないし答えが書いてあるのかもしれない、と興味が湧き、本書を購入した。 著者は文化人類学・民俗学の研究者だ。本書の目的は神隠

          『神隠しと日本人』(小松和彦 著 角川ソフィア文庫 2002)読書感想文

          意図せず読み手に違和感を抱かせる表現

          文章を書く際、読み手のことを考えながら書くことが重要となる。しかし、言うは易く行うは難し、である。読み手のことをどのように考慮すれば良いのか、はなかなか難しい。 最近、文化審議会 「公用文作成の考え方」 (2022) という資料を読んだ。この文書の中に、「読み手のことを考える」ことに関して、重要なことがいくつか書かれていたので、備忘録も兼ねて、三つ紹介したい。 読み手が違和感を抱かないように書く まずは「読み手が違和感を抱かないように書く」ということだ。書き手が無意識の

          意図せず読み手に違和感を抱かせる表現

          『ビッグバンからあなたまで』(シンシア・ストークス・ブラウン 著 亜紀書房 2024)読書感想文

          「ビッグヒストリー」と呼ばれる教育コンテンツは、宇宙の誕生から人類の進化そして現在までの歴史を多様な学問分野の視点から総合的に学ぶ試みである。ビル・ゲイツもビッグヒストリーを絶賛し、巨額の資金を投資した。ビッグヒストリーについては、以下の記事が参考になる。 本書もビッグヒストリー関連の書籍である。著者のシンシア・ストークス・ブラウンは教育を米国の高校・大学にて、ビッグヒストリーを用いた教育を長年行ってきた学者である。本書は彼女が高校生向けに、ビッグヒストリーについて簡潔にま

          『ビッグバンからあなたまで』(シンシア・ストークス・ブラウン 著 亜紀書房 2024)読書感想文

          『大学職員のリアル』(倉部史記 著 中公新書ラクレ 2023)読書感想文

          本書のサブタイトルは「18歳人口激減で『人気職』はどうなる?」である。大学職員は「人気職」らしい。確かにネット検索すると、安定性や働きやすさなどを理由に人気だとする記述を見つけることができる。大学生の目にも、大学という知った環境で働けるというのは魅力的に映るだろう。 しかし、大学生(だった私たち)が見ていた大学職員は果たして「リアル」だったのだろうか。もちろん「リアル」なのだが、「リアル」のほんの一部なのだろう。 著者である倉部氏は元大学職員であり、大学の外部評価委員や文

          『大学職員のリアル』(倉部史記 著 中公新書ラクレ 2023)読書感想文

          プレゼンテーションに関する覚え書き:前提・発問・結論を意識して惹きつける

          これまで3回に分けて、プレゼンテーション(以下、プレゼン)をする際に役立つであろうことを(自分に向けた覚え書きも兼ねて)書いてみた。 本記事では、これまでの記事で取り上げられなかったTips的なものを書く。 前提を共有する プレゼンが分かり易いことは、話し手と聞き手が共に進むことができることだと思う。そのためには聞き手が話の流れに乗れる工夫が必要となる。 まず着手できる工夫は聞き手と「前提を共有する」ことだと思う。前提とは、IMRADの「I」、起承転結の「起」「承」に

          プレゼンテーションに関する覚え書き:前提・発問・結論を意識して惹きつける