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科学コミュニケーション

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科学コミュニケーションに関わるテーマについて考えたり、学んだことを書いた記事をまとめています。
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記事一覧

『まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーション』(奥本素子・種村剛 著 共同文化社 2022)読書感想文

もはや私たちは科学技術なしでは生きられない。 とはいえ、科学技術との関わり方は人それぞれ違う。科学技術に対する感情や意見も人それぞれ違う。 例えば、「原子力発電は使わない方が良い?使った方が良い?」「新型コロナのワクチンは打った方が良い?打たない方が良い?」という質問への応答は人それぞれだろう。また、「科学技術って信頼できる?」「科学技術政策はどう進めたら良さそう?」といった質問への応答も人それぞれだろう。 「科学技術コミュニケーション」とは科学技術において、 取り組

科学コミュニケーションを通じて姿を見せた「普通の研究者」たち

上記の出典論文(田柳2008)には“限られた「姿の見える科学者」の時代”という表現がある。考えてみれば、一昔前までは、市民と繋がる機会がある科学者はごく一部に限られていた。講演会に登壇するような高名な科学者かマスメディアに登場するタレント科学者くらいだったろう。 しかし21世紀に入ると、日本においても科学コミュニケーションが広まり、科学関連のイベントが増えた。とりわけ、サイエンスカフェと呼ばれる小規模な対話イベントは各地で新たに広がった。科学コミュニケーションに興味を抱く若

シチズンサイエンスに関するメモ

シチズンサイエンスの注目度が以前よりも高まっている。今回のnote記事ではシチズンサイエンスについて調べたことを書きたい。 シチズンサイエンスとは何かシチズンサイエンスは以下のように説明される。 「市民科学」については原子力問題や公害問題の文脈で語られることが多い。高木仁三郎博士(1938~2000)は市民科学の中核的人物として有名だ。 高木仁三郎市民科学基金のウェブサイトを見てみると、「市民科学」については以下のように説明されている。 他方の「シチズンサイエンス」は

科学コミュニケーションにおける対等性に関する懸念と対策案

2005年は「日本における科学コミュニケーション元年」と呼ばれることがある【小林傳司『トランス・サイエンスの時代』p18-p34】。複数の大学で科学コミュニケーションに関する教育が本格始動した年であることがそう呼ばれる一因だ。そういった動きの後押しもあり、サイエンスカフェなどの科学コミュニケーション活動がそれまでに比べ多く開催されるようになった。 科学コミュニケーションの定義は多様だが、僕はそれを「科学の非専門家と専門家とが“対等”かつ“双方向的に”対話できるようにする理念

科学コミュニケーションにおける「専門家」と「非専門家」

科学コミュニケーションが目指しているものについて、『はじめよう!科学技術コミュニケーション』では、 と説明している。ここで登場する「専門家」および「非専門家」とは誰のことなのだろうか。今回のnote記事では、科学コミュニケーションにおける「専門家」と「非専門家」について考えたい。 科学コミュニケーションにおける対話は多様科学コミュニケーションは、必ずしも一般市民(非専門家)と研究者(専門家)の間で行われるわけではない。下図は、科学コミュニケーションの多様性を表した図だ。

科学コミュニケーション活動は“社会”と対話しているのか

「科学コミュニケーション」という言葉が日本で広まり始めて、もう15年以上が経つ。その間に、サイエンスカフェや研究機関の公開イベント、サイエンスフェスティバルなどの、いわゆる科学コミュニケーション活動は急速にその数を増やした。科学技術振興機構(JST)が運営するポータルサイト「Sience Portal」のイベント情報を見ても、その隆盛を感じられる。 ストックルマイヤー博士らは科学コミュニケーションを と説明している。この観点に立てば、日本における科学コミュニケーションは着

「かもしれない」の科学コミュニケーション ~科学の「未知の窓」をどう伝えるか~

桝太一氏が日本テレビを退社し、同志社大学の助教になるというニュースによって「科学コミュニケーション」や「科学を伝える」ということについて注目度が高まった。 雑誌『現代化学』の1月号では、その桝氏が「桝太一が聞く『サイエンスコミュニケーションの今』」という企画でノーベル賞受賞者である大隅良典氏と対談を行っている。 「人と違うことを恐れず夢中になれることを見つけよう」というメッセージについての質問に関して、大隅氏が以下のようなコメントをしている。後半の「科研費の申請書…」以降

科学で変わる「林」と僕の関係性

僕の苗字にもそれがある。 これが、「林」に対する僕の印象だった。つまりは、興味がなかった。ましてや、どんな植物が生えているのかも考えたことがないし、そこから何かを感じたこともなかった。 でも、春植物の生態を知ったことで、「林」と僕の関係は変わった。 春先に芽を出し、葉を大きくし、花を咲かせる植物は、春植物と呼ばれる。ニリンソウやカタクリがその例だ。春植物は、夏には地上部を枯らせ、休眠してしまう。 早春に春植物の賑わいを迎える林には、特徴がある。 まずは、冬季に葉を落

15にまつわるエトセトラ Part4

今回も「15」にまつわる話題を紹介したい。これが最終回。 #15事典 87【酸素15】まずは「酸素15」の話。この原子核は不安定で、2分ほどで陽子を中性子に変えるベータ崩壊(逆ベータ崩壊、ベータプラス崩壊とも呼ばれる)をする。その崩壊に際して、電子の反物質である「陽電子」が放出される。放出された陽電子は近くにある電子とぶつかって、光(ガンマ線)と共に消えてしまう(この現象は「対消滅」と呼ばれる)。 上記のような陽電子を放出する原子核(窒素13、酸素15、フッ素18など)は

15にまつわるエトセトラ Part3

前々回・前回に続き、今回も「15」にまつわる話題を紹介したい。 #15事典 62【修正モース硬度】まずは「修正モース硬度」。修正モース硬度は、方解石や水晶、ダイヤモンドなどの15種類の鉱物を指標にした硬さの尺度だ。その活用法は単純で、引っかいて傷ができるかどうかをチェックするのみ。 #15事典 63【2の15乗と円周率】次は江戸時代の数学者・村松茂清による円周率計算の話。彼は円に内接する正2^n角形を考え、円周率を算出した。 江戸時代に日本で独自に発展した数学は「和算」

15にまつわるエトセトラ Part2

今回のnote記事も前回に続き、「15」にまつわる話題を紹介したい。 #15事典 36【ホモ・サピエンスの台頭】僕たちは現存する唯一の人類「ホモ・サピエンス」だ。そのホモ・サピエンスが世界規模に広がり始めたのはおおよそ15万年前だと考えられてる。今やホモ・サピエンスは地球において、多方面で強い影響を与えている。環境問題や乱獲などがその例だ。身近な例でも、アスファルトで覆われた地面や多くの建物が林立する風景を見るとハッとすることがある。 数年前に『サピエンス全史』という本が

15にまつわるエトセトラ Part1

僕が昨年まで所属していた北海道大学CoSTEPは2005年10月1日に開設された。開設から15年が経過した節目を記念して、2020年10月1日から「15事典」と銘打ったウェブコンテンツをスタッフで展開した。 内容は「15」にまつわる多様な話題。それを140字程度でにまとめて、CoSTEPが運営するFacebookとTwitterで発信した。執筆はスタッフが手分けして行った。結果として、2020年10月1日から2021年1月3日までの間に100個の「15」にまつわる話題を発信

ウェブ2.0の科学コミュニケーション

すっかり「ウェブ2.0」という言葉は耳にしなくなった。そもそもこの言葉が流行り出したのは、2005年頃のようだ。もう20年近く前になる。ウェブ2.0については、以下の記事などを参照されたい。 最近では、「ウェブ3.0」という言葉も耳にする。 さて、2005年という時期は日本で「科学コミュニケーション」が広がり出した時期とも重なる。 今回のnote記事では、いくつかの文献を参照しつつ、ウェブ2.0と科学コミュニケーションについて考えたことをメモしておきたい。 ウェブ2.

科学コミュニケーターになるには

「科学コミュニケーターを名乗るには、やはり、CoSTEPを修了しないといけないのですか?」と質問されたことがある。「CoSTEP」とは、北海道大学の科学コミュニケーター養成プログラムの略称だ。 もちろん、そんなことはない。現在のところ、国が「科学コミュニケーター」という名の資格を設けているわけでもないし、職名として「科学コミュニケーター」を用いている機関もごく一部に限られているのが現状だ。 今回のnote記事では、そんな「科学コミュニケーター」について考える。 科学コミ