見出し画像

ウェブ2.0の科学コミュニケーション

すっかり「ウェブ2.0」という言葉は耳にしなくなった。そもそもこの言葉が流行り出したのは、2005年頃のようだ。もう20年近く前になる。ウェブ2.0については、以下の記事などを参照されたい。

最近では、「ウェブ3.0」という言葉も耳にする。

さて、2005年という時期は日本で「科学コミュニケーション」が広がり出した時期とも重なる。

今回のnote記事では、いくつかの文献を参照しつつ、ウェブ2.0と科学コミュニケーションについて考えたことをメモしておきたい。

ウェブ2.0では「知の集積」や「集合知」がキーワードとして語られる。それらと同じく注目すべきキーワードに「Consumer Generated Media:CGM」がある。このCGMは、

ウェブサイトの運営者が提供するコンテンツではなく、運営者の用意したプラットフォーム上でユーザーが自ら制作・公開・共有し、そのサイト上で本質的に重要な位置を占めているコンテンツ群のこと

石村源生「Web2.0と科学技術コミュニケーション」科学技術コミュニケーション Vol.1 p57-p71 (2007) p59

と説明される。では、そのCGMの存在は何をどのように変えたのだろうか。

これまで情報の受け手でしかなかった人々が情報の発し手になる機会が増えたと同時に、その情報がRSSなどの技術によって直ちに結びつけられるようになったことが大きい。

本間善夫「Web2.0時代の科学コミュニケーション」科学技術社会論学会第5回年次研究大会予稿集 p139-p140 (2006) p149

今まで一方的に商品を供給されるだけで、せいぜいそれを「購入する」「購入しない」の二者択一の選択肢しか持たなかった消費者が、自ら商品を具体的に評価して意見を公開し、その内容が他の消費者だけでなく、商品を製造・販売している企業行動に今までにない直接的な形で影響力を及ぼすようになりつつあるのである。

石村源生「Web2.0と科学技術コミュニケーション」科学技術コミュニケーション Vol.1 p57-p71 (2007) p59

ウェブ2.0時代では、マスメディアや一部のウェブサイトを通した一方向的(あるいは欠如モデル的な)な情報伝達の存在感が弱まり、一人ひとりは発信者としても振る舞うことが可能となり、双方向的な情報のやり取りの存在感が相対的に強まっている。このような状況が、科学コミュニケーションに対しても強い影響を与えている。

とはいえ、マスメディア経由の情報伝達は未だに力強いし、ネットメディアやCGMといったものだけに頼ることにも危険性はある。それらは現在のところ、「相補的な関係」であると言えよう。以下のウェブページにおいては、「表現力やディベート能力の向上のためにもWeb2.0の有効活用が必要だと考える」やマスメディアとCGMの関係について「現在は相補的な関係も見られるのも事実」と述べられている。

ウェブ2.0が取り沙汰されて久しい2022年現在において、メディアの進化は、科学コミュニケーションをどう進化させたのか、分析が必要かもしれない。それにしても、ウェブ2.0と科学コミュニケーションの両者が広がり出した時期に、いち早く論考を発表している本間・石村両氏の嗅覚には脱帽である。

最後に、石村源生氏が科学技術コミュニケーションに関する示唆に富む文章を記しているので、それを引用し、今回のnote記事を締めたい。

科学技術はあまりに高度化し、また、社会の側の不透明化、複雑化、流動化も進んでいる。人々の価値観は多様化し、あるコミュニケーションがどのような帰結をもたらすのか、見通すことは難しい。しかしいずれにせよ、私達はもはや科学技術と無縁ではいられないということだけは確かである。
科学技術コミュニケーションとは、このような困難な時代を生き抜くための、いわば「『集合知』を生み出すプロセス」だと言えるのではないだろうか。

石村源生「Web2.0と科学技術コミュニケーション」科学技術コミュニケーション Vol.1 p57-p71 (2007) p69

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?