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読書感想文

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読んだ本や文章の感想を書いたものです。
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2021年11月の記事一覧

『集中力はいらない』(森博嗣 著 SBクリエイティブ 2018)読書感想文

この本は研究者(大学教員)であった森博嗣氏が考える思考法についての新書だ。様々なこと考え(思考を「分散」させ)、何らの着想を得て、その思考を「発散」させることの大切さが説かれている。 「研究者」というと何か一つのことを集中して考えているイメージもあるが、いつもそうではない。特に、新しい研究テーマを探っている段階や、何か解決したい課題の突破口を探っているときには、ことさら思考を「分散」させている(だろう)。森氏も研究者時代を以下のように回顧している。 さて、集中型の思考は大

『友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える』(菅野仁 著 筑摩書房 2008)読書感想文

お笑い芸人の又吉さんもテレビで紹介した本とのこと。購入したときは、書店のレジ近くに平積みされていた。 もちろん、僕がこの本を買った理由は「又吉さんもテレビで紹介した」「レジ近くに平積みされていた」からだけではない。僕も「友だち」だったり、人間関係に悩んだりするからである(大学院生のとき程ではないが…)。 「そうそう」と、うなずきながら、『友だち幻想』を読み進めると、心が救われる文章が多いことに気付く。例えば、以下だ。 まだまだ「社会経験」が十分でない僕は、こういう面が残

『みな、やっとの思いで坂をのぼる』(永野三智 著 ころから株式会社 2018)読書感想文

今回は『みな、やっとの思いで坂をのぼる』という本を紹介したい。この本には副題がある。「水俣病患者相談のいま」だ。そう、この本には、水俣病の“今”が描かれている。 著者である永野三智氏は水俣で生まれ育ったが、水俣病のある生活から目を背けるために別の土地へ逃げ移った過去を持つ。水俣病患者の知人に心無い言葉をかけてしまった経験も持つ。しかし、恩師が関わる水俣病訴訟をきっかけに、改めて、水俣病と向き合い、現在は財団法人 相思社の水俣病相談窓口を担当されている。その法人は坂の上にある

『How Google Works 私たちの働き方とマネジメント』(エリック・シュミットほか 著・土方奈美 訳 日本経済新聞出版 2017)読書感想文

クリエイティブな仕事ができる人材が社会から求められている。 「クリエイティブ」という言葉から連想するものの一つに「GAFA」がある。それらの企業のリーダーたちやそこで活躍するエンジニアは、さぞかし「クリエイティブ」なのだろう、と思ったりする。 「GAFA」の一角であるGoogleについて書かれた本『How Google Works:私たちの働き方とマネジメント』が積読状態だったので、読んでみた。 スライドの使い方やメールの書き方、会議の運営方法など、Tipsのようなもの

『原子力の哲学』(戸谷洋志 著 集英社 2020)読書感想文

以前、戸谷洋志氏の著書『Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』を読んだことがあった。彼が哲学者であり、原子力も一つの研究対象としていることも知っていた。そんな戸谷氏が『原子力の哲学』という新書を上梓したと知ったので、読んでみた。 本書では、ハイデガー、ヤスパース、アンダース、アーレント、ヨナス、デリタ、デュピュイ、という7人の哲学者の原子力に対する思想が紹介されている。ここで言う、「原子力」には核兵器だけでなく、原子力発電も含まれている。 我々のような哲学の非

『伝わる英語表現』(長部三郎 著 岩波書店 2001)読書感想文

英語に対する苦手意識は中学生の頃から持ち続けている。一方で、もっと英語が分かる・話せるようになりたいな、という気持ちもある。そんな背景から、英語の勉強しようかな、と思うときがたまにある。 先日、久しぶりに書店をぶらぶらしていたら、この本が目に留まった。 本書のおおまかな目次は以下の通り。 ・序章 ・第1章:英語と日本語の違い ・第2章:日本語は名詞、英語は動詞 ・第3章:日本語は抽象的、英語は具体的 ・第4章:「一字一文」の原則 ・第5章:英語の構造と日本語 ・終章

『探求する精神』(大栗博司 著 幻冬舎 2021)読書感想文

大栗博司氏の著書は、『強い力と弱い力』や『大栗先生の超弦理論入門』など、これまでにも何冊か読んだことがあった。その度にいつも「なるほどなぁ」と学びながら、「学界をリードする研究者であり、かつ、こんな文章を書けるなんて、スーパーマンだな」などと思っていた。そんな大栗氏の新刊ということで、本書を手に取った。 本書は、大栗氏が半生を振り返りながら、研究や科学、大学や教育などについて自身の考えを記したものである。なので本書は大栗氏の回顧録のようなものでもある。バリバリ現役の彼がなぜ

『物理学者のすごい思考法』(橋本幸士 著 集英社 2021)読書感想文

本書は理論物理学者である橋本幸士氏によるエッセイ集である。彼の日常、そして、その日常を彼がどんな視点で見ているのかが記されている。それぞれのエッセイからは、彼が理論物理学者の眼で世界をどう捉えているのかが垣間見られる。 本書に描かれている橋本氏の日常には、大きく二つあると感じた。 まず一つは、家庭での日常。つまりは、夫や父親としての橋本氏の日常。もう一つは研究者コミュニティでの日常。つまりは、物理学者としての橋本氏の日常だ。 家庭での日常に関わる話題では、ギョーザの皮が

『「科学的思考」のレッスン 学校では教えてくれないサイエンス』(戸田山和久 著 NHK出版 2011)読書感想文

タイトルにもある「科学的思考」つまり「科学的に考えること」は「科学リテラシー」とも言い換えられるものだ。科学と社会が切り離せない現代においては、誰もが身に付けておいた方が良いものとして、ところどころで取り上げられる。 この本は東日本大震災の数か月後に出版された本だ。当時は科学(者)からの情報発信が問題視され、科学への信頼を大きく損ねた時期でもある。同時に、科学(者)からの情報発信を社会(市民)はどう受け取るのかも問題になった時期でもある。 最近は新型コロナウイルス感染症の

『地方を生きる』(小松理虔 著 筑摩書房 2021)読書感想文

先日、「共事者」という言葉を知った。この「共事者」という言葉に僕は妙に魅かれた。それを使い始めた人は小松理虔という人らしい。ならば彼の著書を読んでみよう、と思ったのが本書を手に取ったきっかけだった。 本書には小松氏がこれまでに経験したことや考えたことについて記されている。メインテーマとしては、彼の地元である福島県いわき市小名浜での仕事や活動のことが書かれている。 本書の中で「共事者」は後半に登場したので後述するとして、それ以外にも印象に残る話も多かった。例えば、「晴耕雨読