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PCR論争

コロナが流行して以来、本邦ではこの【PCR論争】は尽きることがない。
本日は、先日の専門家分科会の会見を受けて、再度この問題にクローズアップしたい。



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PCRデータ分析

7月6日、新型コロナウイルス感染症専門家の分科会の会議後、尾身茂会長は以下のように述べている。

感染リスクを評価すると同時に、検査を受ける段階で予想される陽性率(事前確率)を踏まえて、検査体制を考えていくことが「感染症対策の王道」であり、3つのカテゴリーに分けて必要な検査の戦略を考える必要がある。

① 有症状者

② 無症状者+事前確率が高い

③ 無症状者+事前確率が低い

ここでいう事前確率とは、いわゆる《濃厚接触歴》として良いだろう。


無症状者でありながら、事前確率が高い人々にもPCR検査を徹底的に行うことが重要だ。

と述べられている。


問題は、③だ。

一部では、いつまで経っても「無症状者に対しても全例検査を徹底的に行うべき」との意見が聞かれる。


この点については、第一波当初より話題となっており、多くのメディアコントロールにより医療者の疲弊、そして医療資源の枯渇へと進んだのは記憶に新しいところであろう(これに関しては別途後述する)。


尾身会長は

このカテゴリーに対する検査のあるべき姿についても、一定のコンセンサスを構築する時期にきたのではないか。

と語っている。


ここでの争点ポイントは「偽陽性そして、偽陰性率」だ。

これは、我々医療者が効果判定を議論する際に欠かせないモノの一つであるが、PCR検査の感度(陽性を正しく陽性と判断する割合)、そして特異度(陰性を正しく陰性と判断する割合)を仮定し、それらを用いた上で、議論していくこととなる。


尾身会長は人口1万人に対して1%(100人)の人が感染、感度70%、特異度99%と仮定し説明を行った。

実際にこの理論に基づいて計算を行うと下記のようになる。

画像1

要するに、単純計算で100人(1%)の実陽性患者を含む1万人のグループに対して検査を行った際には、30人の陽性者を見落としが起こり、そして99人は実際には陽性ではないにもかかわらず隔離措置をとられることとなるのだ。

こうした問題が生じることを理解してもなお、無症状かつ事前確率の低い人々にも検査を徹底的に行うべきなのか

今一度、考える必要性を述べられた。



一方で、特異度が99%?もっと高いだろ!という意見も散見される。


それでは、やってみようではないか。 ということで、


東京都人口1398万人(令和2年4月1日時点:13,982,622人)に対して約14万(1%)の人が実際に感染しており、感度70%、特異度99.9%仮定しシミュレーションを行った下記に示す。

画像2

お分かり頂けるだろうか。

特異度が99.9%であったところで、約4.2万人もの見落としが起こり、1.4万人が実際には陽性ではないにもかかわらず隔離措置をとられることとなるのだ。


そう、そこが論点ではないということだ。


ましてや、感染率1%で計算しているが、これが2%となると、8万人以上もの見落としが起こることとなる(感染母数が増えるので疑陽性はほぼ横ばいとなる)。



千葉大学のグループが4月に発表した論文ニュースリリースに、NHKや朝日新聞が反応し、【PCR検査能力拡充論】が再燃したのは記憶に新しいところだが、本記事に書かれている《十分なPCR検査の実施国では新型コロナの死亡率が低い》という根拠は論文中どこにも示されていない。


千葉大の主張は以下の通り。

Our logic is like this.
"More test" -> "effective isolation" -> "reduce epidemic" and "lower positive rate"->" fewer death".

要するに "より多くのPCR検査実施" ⇨ "効果的な隔離" ⇨ "流行の抑制(陽性率の低下)" ⇨ "死者の減少" へと繋がるという事だろうが、この考えに明確なエビデンスは存在していない。


必要な人に、必要なPCR検査を拡充していくことに何ら異論はないが、ミスリードを起こし兼ねない発信に関しては十分に議論する必要があると感じる。


事実、千葉大は後日、論文への指摘に対して以下のようなコメントを発信している。

It is natural that many factors are involved in the spread of infection in each country, and since reproducible experiments are not possible, a causal relationship cannot be proved strictly for any infection spread. In that respect, we agree that some of our descriptions were excessive and should be corrected. We should carefully examine the factors that found the correlation and the possibility of confounding.

要するに、PCR検査数とコロナ感染による死亡率についての因果関係を厳密に証明することはできない。その点では、本論文の説明の一部は過度であり、修正する余地がある。と書かれているのだ。


私は別に、千葉大の論文を否定したいわけではない。
千葉大はこの後も継続して様々なデータ分析を発信しており、緊急事態宣言での外出自粛要請が一定程度の効果を示したことなど、多くの貴重な情報を発信しており大変感謝するとともに、参考にさせて頂いている。


ただ、私が解せないのは、この内容を大々的に報じたメディアたちが、この修正コメントに対しては全然反応せずに、③に対してPCR拡充を訴え続けている姿勢だ。



以前にもあったように、メディアはまた同じことを繰り返そうとしているのだろうか…。



話を戻すが、恐らく、PCRが唯一の確定診断である以上、この議論は続くであろう。


ただし、我々にできることは、メディアの発信に右往左往することではないはずだ。


情報に踊らされてはいけない。自分を守り、そして家族を守るためには、データのエビデンスを見極めるクセをつける必要がある。


そして、調べていけば必ずたどり着くところは同じはずだ。

残念だが、しっかりと基本に立ち返り、「手指衛生・マスク着用・人との接触を可能な限り減らす」 これ以外に今できることは無いのだ。


まだまだ辛抱が続くが、一人一人、できることを続けよう。

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