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【短編小説】休眠

【短編小説】休眠

どうしても、わたしは彼の天使になりたかった。ちっちゃい頃から、私は誰かの天使になるのが得意だった。

この世でその人が得意なことを素直に褒めたら、その人が本格的にそれを仕事にしちゃって、うまくいっちゃって。で、なんだか幸せそうに暮らしている。そういう人がたくさん現れた。だからわたしは彼の天使にもなれる、そう疑わなかった。

彼に初めて会ったのは、近所にある行きつけの喫茶店だった。マスターの友達と紹

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えほん「ざんこくな鬼」

えほん「ざんこくな鬼」

あるところにざんこくな鬼がいました。
鬼は、1年中野花が咲き乱れる故郷、鬼ヶ島を愛していました。
鬼は182歳の時に、世界の仕組みがどうなっているのかを明らかにするために旅に出ました。もっともっと世界の色んなことを知りたかったのです、感じてみたかったのです。

鬼は世界中でたくさんの人に出会います。
顔の白い目の赤い鬼、白玉の形をしたネコ、頭から足が生えた人間、ほんとうにたくさんの人と鬼は出会い

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満月は見ない方がいいんだよ。【短編小説】

満月は見ない方がいいんだよ。【短編小説】

「満月は見ない方がいいんだよ。」と花奈(かな)は言った。
「え、何、花奈は狼男の末裔か何かなの。」と半笑いで僕は言った。
「そんなわけないでしょ。ばっっかじゃないの。」

「どうしてさ。満月は見るもんでしょ。ちっちゃい頃、お月見にお団子食わなかったの。」
「お月見、したことない。」
「え、何で?」
「連れて行かれちゃうから。」
「どこに?」

「ソータくん、きみ、知っているかね、人間の体は7割が水

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【短編小説】バーマリモ

【短編小説】バーマリモ

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「マリモには男女とかないの。暗い湖の底でも、太陽の光を受けて成長する不思議な生き物なんだって。」とマリモちゃんは言った。

マリモちゃんの本名を私は知らないが、昔からの常連さんが「とおる」と話しかけているのを見たことがある。

古ぼけた黒い錆色の街頭が並ぶ商店街。
ふわふわと大きな粒の雪が地面に落ちては消えていく跡をなんとなく追いながら、ポツンポツンとひとつ飛ばしくらいに、シャ

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【えほん】丸いたましい

【えほん】丸いたましい

あるところに、丸いたましいがありました。

丸いたましいは、あたたかい光の輝きのような、色素のない色ををしており、見る人がみるとまるくは見えませんでした。

ぐにゃぐにゃだったり。
かくかくだったり。

今まで目で見てきた、たましいにあてはめて見てしまうのです。
それは生きていくためには仕方ないので責めることはできません。

丸いたましいもまた、自分がどんな形をしているのか、ほんとうには気付いてい

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