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ロンドンで「落書きされた広告」を見て、日本人が忘れている反骨精神を思い出した

昨年パリとロンドンに旅行した際、街の至るところで落書きやグラフィティを見かけました。

びっくりしたのは、駅のホームで掲出されている世界的な大企業の広告に強烈なアンチコメントが落書きされていたこと。日本ではほとんど見かけないので、興味深いなと感じました。


パリやロンドンでは落書きも文化の一つ

ロンドンの地下鉄で遭遇したのはこんな落書き。Apple TV +で配信中のドキュメンタリー映画「The Pigeon Tunnel(地下道の鳩 〜ジョン・ル・カレ回想録〜)」の広告で、みなさんも一度はやったことがあるようなものですが…わかりますか?

落書きが広告になじんでいる(笑)

元の画像と比較してみると、まつげや鼻ピアスなどが白く描かれ、メイクアップされちゃっているのです。

これが元の画像


落書きと聞いて、みなさんはどんなことを想像しますか。物騒、汚い、怖い…そんなネガティブな言葉が思い浮かぶかもしれません。日本では街の治安やマナーと関連づけて語られがちなので「落書き=してはいけないもの」というイメージが強いです。

パリやロンドンではちょっと違う印象でした。欧米を中心にアート性のある落書きは「グラフィティ」というカルチャーとして確立していることもあり、看板やポスター、ゴミ箱、道路の壁まであらゆるものが落書きされてそのまま残っています。NHKの番組「地球タクシー」でも、フランス人のタクシー運転手がパリのグラフィティの多さについて「これは私たちの文化だよ」と話していました。

パリのモンマルトルにあったおしゃれな落書き


ロンドンのカムデンタウンという街にバンクシーの絵があると知り、見に行きました。途中、スマホ片手に迷っていると2mはあるかと思われる地元の紳士が「バンクシー?」と声をかけてくれ、「ついてきなさい」と案内してくれて…見つけました!

保護ガラスの上から落書きされている

バンクシーは、ストリートの壁をキャンバスに政治的なメッセージを込めた絵を描く正体不明の覆面アーティスト。カムデンタウンの絵はガラスで保護されていて、上からBANKSYとスプレーされていました。バンクシーに落書きするイギリス人、ロックだぜ。

「落書き」の語源を知る

そもそも、「落書き」って言葉がおもしろいですよね。語源を調べてみたら、現代でいう落書きという表現が日本で使われ始めたのは江戸時代だそうです。

落書きは、落書(らくしょ)が転じた言葉だと言われています。落書とは、時勢を憂いたり政治を批判したりする匿名の文書のこと。鎌倉時代から江戸時代にかけて広がったそうで、人の目に触れる場所に貼り出されたり、道に落とされていたとか。

これって、バンクシーのやってることとかなり近いですよね。日本でも大きな権力に対する批判精神として落書きは存在していたのです。

よほど影響力があって目障りだったのか、江戸時代にお上に目をつけられ、「城に落書きした者は死罪」という御触れが出たこともあったそう。取り締まりの対象になってしまい、徐々に「けしからんもの」へ変化していったのかもしれません。

パリやロンドンと比べて、日本では公的な場所に落書きして批判するのではなく、より匿名性が高い私的なSNSで意見を主張するようになっていると思います。

じつは日本にもあった、広告の落書き

日本でも広告に落書きした有名なエピソードがある!と思い出しました。まずはこちらをご覧ください。

戦時中の有名なスローガン

戦時中の日本で掲げられた「ぜいたくは敵だ!」。このスローガン、実はコピーライターが書いたものだと言われています。

あらゆる企業、あらゆる人が戦争に協力しなければいけなかった時代、コピーライターも例外ではなかったのです。戦意高揚のためのスローガンは数多く生み出され、街にあふれ、人々を戦争へ駆り立てていきました。

そんな時、市民がこんな落書きをしたそうです。

贅沢は「素」敵だ!

そう、一文字だけ書き足して「ぜいたくは素敵だ!」と反抗した。このエピソードは向田邦子のドラマのワンシーンで再現されていて、わたしはそこで知りました。

現在公開中の映画「窓ぎわのトットちゃん」にも、トットちゃんのお母さんを呼び止めた軍人が「華美な服装は慎むように」と注意するシーンが出てきます。お国のための厳しい要請にNOを言うのは簡単ではありません。戦時中はなおさらでしょう。そんな中、公然と敵を素敵に変えた市民のセンスと、その勇気に胸打たれます。

広告の言葉はよく、時代の気分を反映すると言われます。わたしはコピーライターとして時代の気分に敏感でいたいです。でも同時に、ひとりの市民として言葉と向き合うこと、大きな権力に抗う気概も持っていたい。

清潔さや治安のために消してしまうか、多様な個人の主張として残しておくか。たかが落書き、されど落書きです。景観を壊す「悪筆」は、名もないだれかの反骨心かもしれない。その筆跡の前で立ち止まり、目を凝らすことも時には必要ではないでしょうか。


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文:シノ

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