氷壁の迷宮
先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第2シリーズを以下、記載したいと思います。
本作は、
オープニング
↓
メインキャラ4人のコーナー
↓
エンディング
という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。
今回は、オープニングをお送りしたいと思います。
<人形劇 登場人物>
・もんじゃ姫
→本作の主人公。
頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。
・さばみそ博士
→頭の上にさばの味噌煮が乗った、
語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。
・ハバネロ姉さん
→メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。
・ブルーハワイ兄貴
→頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。
~オープニング~
大学4年生の男子。
もう、秋も終わろうとしている。
しかし、季節は自動的に移り変わっていくが、
去年の夏から続く就職活動は、一向に終わりの気配を見せない。
かれこれ、履歴書を出したのは百何十社にもなるだろうか。
面接に進んだ企業だけでも、少なくとも50社以上は受けているが、
自分が、ここまで箸にも棒にも掛からぬ存在だとは知らなかった。
これが、俗に言う"就職氷河期"というものなのか。
だが、一方でゼミの仲間は、皆一様に進路が決まっている。
ベンチャーに行く者、大企業に行く者、大学院に進む者…。
どこにも行く宛のない宙ぶらりん男なのは、もはや自分だけだ。
あくる日も、スーツ姿でゼミに臨み、
終わり次第、その足で都内の会社説明会へと向かった。
ゼミで使用するテキスト、PC、バッテリー、
その他諸々を入れて移動する為に、やむなく手提げバッグではなく、
リュックを背負って地下鉄に乗った彼。
都心のオフィス街のビルの多さに、思わず頭がクラクラするも、
印刷してきた地図を見ながら、目的地の企業へと懸命に歩く。
駅徒歩5分とのことだったが、同じようなビルとビルの間を、
ぐるぐると30分迷い歩いた暁に、ようやく辿り着くことができた。
「君、随分と大きなリュック背負ってるわねぇ」
説明会フロアの入口で、人事の若い女性に笑われてしまった。
リュックで説明会に来ているような輩は、彼以外にはいない。
ゼミが別日であれば、最小限の荷物を手提げバッグに
入れて行くこともできただろうが、今日のような大荷物が入れられ、
かつビジネス用にも使える手提げバッグを、新たに買い揃える程の
手持ち資金など、貧乏学生の彼には到底あるはずもなかった。
とりあえず苦笑いしながら、ゴニョゴニョ何か言いつつ、
フロアに入り、席に着いた彼。
説明会が始まり、会社紹介のスライドが流れ、
途中、先輩社員紹介や仕事紹介の映像もあり、最後に募集要項の説明。
"時代の最先端を走り続ける"、そういう企業なのだそうだ。
先輩社員の紹介映像で、
"カッコ良くない自分って、許せないんですよね"と、
タクシーの座席で真顔で話す、男性社員の横顔が映し出された。
正直、もう何を見ても、まるで頭に入ってこなかった。
百何十社も企業の説明会に参加すると、変に説明会慣れはするものの、
終わった後に"で、ここ何の会社なんだっけ?"ということもザラにある。
説明会終了後、アンケートを書き終えると、
たまたま同じテーブルに座っていた人達と、
駅まで一緒に歩く流れとなった。
一時的に作られた5~6人の集団の、その中心にいたのは、
ロン毛でイケメンの、ややオラオラ系な性格の男だった。
初対面の相手に「どう、就活?」と、フランクに聞いてくるその男に対し、
周囲の人間達も、内定をいくつ貰ったとか、最終の結果待ちだとか、
そこそこ良さげな進捗状況を答えているようだ。
「つーか、お前何だよ、そのリュック」
いきなり、リュックを傘で突かれ、驚いた彼。
「いや、…あの、今日ゼミがあって、荷物が多くて…」などと、
しどろもどろに答える彼だったが、もう既に興味を失っていたのか、
「俺、ちょっと煙草吸うわ」と言って、男は喫煙所へと向かった。
「あ、俺も」と言い、他の男子達も喫煙所へ向かうので、
喫煙者でもないのに、とりあえず着いていくことにした彼。
その後も、彼らの就活トークを聞いたが、各自そこそこ善戦しており、
ロン毛の男の口からは「内定5社貰ってるけど、蹴るのが面倒臭ぇ」、
「彼女いるけど、いちいち相手すんのがマジ面倒臭ぇ」などの、
"愚痴風の自慢話"ともいえる、大変貴重なお話が数多く聞かれた。
すっかり、スーツが副流煙まみれになり、駅で就活集団と別れた彼。
モヤモヤする気持ちを抑えきれず、近くのケンタッキーに向かい、
なけなしの小銭を叩いて、何のゲン担ぎなのか分からないが、
"和風チキンカツサンド"に、無我夢中で齧り付いた。
決して、体に良い食べ物とは言い難いが、
ストレスが溜まっていれば、溜まっているほど旨い、
そんな逸品だと、密かに彼は認めていた。
「どうしよう…、バッテリーの残量があと2%だよ…」
ふと隣の席を見ると、ノートPCを広げているものの、
赤いランプが点滅しており、見るからに慌てている女性。
「困ったなぁ、急いでメールを送らないとなのに…!」
もんじゃ焼の乗った頭を抱えながら、パニック気味になっている女性。
しかし、よく見ると、それは彼の使っているPCと同じ型のようだった。
ベタベタになった手をウェットティッシュで拭きながら、
「よかったら…、バッテリー使いますか?」と声をかけると、
「本当ですか!?」と、まん丸の目で彼を見る女性。
リュックから取り出したバッテリーを接続すると、
途端に息を吹き返した女性のPC。
「良かったーっ、何とか一命を取り止めました。ありがとうございます!」
彼に向かって両手を合わせた後、急いでPCに向かった女性は、
どうやら、手元にある名刺を見ながら、
メールアドレスを打ち込んでいるようだ。
とりあえず良かったと思い、再び、和風チキンカツを貪り食う彼。
拙い手入力で、どうにかメールを送信できた女性。
「本っ当に、助かりました!何と、お礼して良いやら…」
と言いながら、バッテリーを返す女性に、
「そんなそんな…、お役に立てて何よりです」と首を振る彼。
女性「ところで…、お兄さん就活生ですか?」
男子「あ、はい、そうです」
女性「4年生ですか?」
男子「…はい」
何だか、急に現実に引き戻された感じがして、意気消沈してしまう彼。
女性「今、就職氷河期なんですよね。面接大変じゃないですか?」
男子「そうですね…、全然どこも引っかからないです」
わざわざ分かっててそんなこと聞くなよ、と心の中でボヤく彼をよそに、
女性は、手元のメモをちぎって、何かを書いているようだ。
女性「これを、お礼の代わりとさせて下さい」
彼に手渡されたメモには、何やら住所のようなものが書かれていた。
男子「これは…?」
女性「もし、卒業までに内定が出なかったら、
4月1日にこちらまでご足労願えますか?
…お兄さんに、本物の就活ってものをお見せしますよ」
男子「本物の就活…!?」
さっきまでの焦り様は何だったのか、
急にここに来て、山岡士郎ばりのドヤ顔を見せる女性に、
ただただ、唖然とするばかりの彼であった。
~オープニング 終わり~
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