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3ヶ月実習生のふりかえり

よみたん自然学校では、3年保育「幼児の学校」やフリースクール「小学部」の現場に入って、実際に子どもたちと関わりながら、学ぶことができる実習生という仕組みがあります。
千葉県の多古町で森のようちえんの立ち上げに関わる地域おこし協力隊の鈴木咲希さんが、よみたん自然学校で3ヶ月の実習を終え、ふりかえりを送ってきてくれました。自分自身を見つめるいい時間を過ごしたようです。本人の許可を得て、こちらに転載しますので、どうぞご覧ください。

よみたん自然学校での3か月の実習を通して
 
千葉県 多古町地域おこし協力隊  鈴木 咲希(27歳)
実習期間 2023年6月14日 ~ 9月13日

よみたん自然学校の保育や教育の正解は何か?
 
最初の2週間は本当に苦しかった。
 今思えば、それは自分の価値観や先入観、性格によってもたらされた結果だが、実習を始めた当初は、「よみたん自然学校の保育や教育の正解は何か?」「自分はどう関わっていかなくてはならないのか?」と考えながら過ごしていた。何日経っても答えがわからず、正解や目標をスタッフから言葉で伝えてもらえないもどかしさや、できない自分が悔しくて、とりあえず他スタッフの真似をしながら、子どもたちに遠慮しながら関わっていたと思う。苦しい中で、ある日自分の強みは、結果がでる目標に向かって効率的に作業を進めながら向かっていく行動力とこんな状況でもポジティブにとらえてしまう思考力だと気付いた。反対に弱みは、答えのないものを受け入れる力と目の前にいる人の気持ちに心から寄り添うことができる力だと思った。
 
 7月に入って少しずつ子どもたちの性格が分かってきた。学校内で自分を呼んでくれる声が聞こえるたびに嬉しくなった。同じ喧嘩の場面に遭遇した複数のスタッフがそれぞれ違う考えや想いを抱えていることにも気付いた。共通しているのは、スタッフ自身のその時の気持ちを肯定したうえで、子どもたちの気持ちに寄り添っていることだ。よみたん自然学校の大切にしている「気持ちに寄り添う」ということの寄り添い方には正解はなく、寄り添いたいと思う人次第でその方法は何通りもあるのかもしれないなとそのとき少し気付いた。
 そう思ってから、自分ができる寄り添い方をしてみようと思うようになった。いきなり上手くいくなんてことはなく、喧嘩がおきても片方の子どもの気持ちだけに寄り添いすぎてしまったり、自分の感じたことを、さも子どもの気持ちだと勘違いしてしまったり、その日の振り返りで間違いに気付いて、悔しくなる日々が続いた。

自分の気持ちを言葉で伝える難しさ
 とある喧嘩では、自分の気持ちを言葉で伝えることのできる小学生と自分の気持ちをまだ言語化できず泣いてしまった年少さんの間に入ったときに、私は咄嗟に泣いている年少さんの気持ち寄り添うための行動をとってしまった。
 「こんなに一方的に責められて怖いよね、そりゃ泣いちゃうよね。」と思って、年少さんの気持ちを聞き出して、それを小学生に伝えるようにした。
 放課後のふりかえりで、あるスタッフから「それは小学生がどうして年少さんに怒ったのかその理由は聞いたの? 一方的に責められて怖かったのは、年少さんの気持ちなの? それはさき(わたし)の気持ちじゃないの?」
 そう言われてハッとした。確かに状況だけみて、小学生の怒った理由はわかった気になっていたし、自分の気持ちを年少さんの気持ちとごちゃごちゃにしていた自分がいた。そこで、何歳の年齢差があっても他人の気持ちを全てわかるようになるのはすごく難しいし、その場で自分の気持ちと子どもの気持ちを咄嗟に分けて状況を読み取ることは、実習が終わった今でもできるようになった気は正直してない。

 どんな言い合いであれ、子どもたちに気持ちが入ると当事者ではない大人の気持ちも揺れる。よみたん自然学校ではこういったことがある度に振り返りを通して、気持ちを見直す時間を作ってくれた。反省や後悔、これからの関わり方への足掛かりを考えることができ、とても有難かった。

自分らしさ
 夏休みに入る少し前、参加者としてよみたん自然学校主催のキャンプに参加した。実習が始まってから初めて、よみたん自然学校に通う子と同じように(正確に言うと違うけど)、海やむら咲むら内でたくさん遊んだ。自然の中で遊ぶことがこんなに楽しいことを改めて思い出すことができたし、他の参加者の意見を聞いて、やはり考え方は人それぞれで、正解も不正解もないことを再確認した。そして毎日ここに通う子どもたちの気持ちと通わせる保護者の気持ちが少しだけ想像できた。
 夏休みに入って、サマーキャンプの準備が始まってから、子どもたちに会えない分、自然学校のサマーキャンプに関する運営や準備についての技を少しでも勉強しようという気持ちだった。正直、毎週入っていたサマーキャンプは体力面で少し不安だった。台風6号のせいで、予定より遅いスタートを切ったサマーキャンプは、小学年低学年向けの一泊二日のキャンプで、少しホッとした。子どもに関わらず、初対面の人に自分から関わっていくのは、いつもどこまで自分らしさを前面にだすか悩む。
 一回目のキャンプでは、様子を見ながら少しずつ出してみた。教室や会議室なんかより、自然の匂いのなかで壁に囲まれていない環境だと余計自分らしく関われるなと感じた。普段の保育と違い、カウンセラーにはベテランという人はいないので、それがまた新鮮で、自分らしく子どもたちに接することができるようになった最初きっかけはこれが理由かもしれない。サマーキャンプは本当に体力が必要だった。どのキャンプも最終日には必ず子どもたちとの別れが惜しくなったし、楽しいという充実感と疲労感を同時に感じることができた。この素直さとまっすぐなところが私の良さかもしれないと気付かされた。

気持ちの変化
 夏休みが終わって、通常の保育に戻ったとき、「自分がどう関わっていかなければいけないか」よりも「自分なりの関わり方を大切にしていこう」という気持ちに替わっていた。そう思ったのは実習初日からよみたん自然学校の保育や教育の正解を言葉で伝えてもらっていなかったから、そして、むしろ正解は人それぞれで違うことに、自分の経験を通して気付くプロセスがあったからだと思う。
 9月から小学部の活動に実習として入った。最初に良いなと感じたのは子どもたちが他人をほめることを躊躇しないことだ。大人、子ども関係なく、良いと思ったら口にする、嫌だと思うなら伝える、その日やることは他人に合わせず、自分の気持ちに従う。幼児の学校で、スタッフが気持ちに寄り添う保育を大切にしながら子どもたちに関わってきて、仲間の気持ちを共有する機会を作り続けてきた結果かなと思う。自分を肯定されて、自分の気持ちに気付く力があるから、同じことも他人にできる。そんな子どもたちがすごく良いなと感じて、スタッフとしてここに加えてもらって居心地が悪いと感じたことはなかったし、この子たちの将来が楽しみになった。ずっと関わってきた幼児さんも自分のことを、いつも目をキラキラしながら頑張って説明してくれる。他人は違くて、当たり前だし、できることとできないことがあるから助け合うそんな良さも異年齢保育の良さかもしれない。もうすぐ実習が終わろうとしている今、よみたん自然学校の実習は自分の気持ちの声を聴かないと正直きついことも多いけど、自分を好きになれるポイントがたくさん見つかった素敵な実習だったし、よみたん自然学校は、大人が全力で楽しみながら、自分の気持ちを大切にして、子どもの気持ちに寄り添えるそんな幼児教育の場だった。
 

よみたん自然学校の実習スタイル
 よみたん自然学校の実習は、自分の学びたいこと、知りたいことに対して言葉で正解をもらえるものではなく、保育の体験を通して身をもって感じ、考え、学んでいくスタイルだった。いわゆるOn The Job Trainingだ。毎日、保育の実習が終わったあとに実習生用の「振り返りシート」を記入し、その日に感じたこと、考えたことをあえて文章にしていった。
 日によっては、その後、自然学校のスタッフに振り返りを聞いてもらったり、その日困ったことを相談したりして、フィードバックをもらうことができた。わたしが、この時間を通して強く感じたことは、どのスタッフもわたしの意見や感想を否定しないことだ。実習を始めたての頃は逆にそれが苦しかった時もある。自分の考えや気持ちは正しいのか、それを知りたかったわたしは「答え」が欲しかったからだ。今となっては、そのようにわたしの話を聞いてくれたおかげで、自分自身で考える力がついた。
 週に1度、オールスタッフミーティングにも参加させてもらった。初めは全スタッフの前で自分の気持ちの変化を伝えるのは緊張したし、なぜか毎回涙を流しながら振り返りをしていた。自分はその度に「わたしはもとから涙もろいんです」と伝えていたが、ある日「涙がでるのには必ず理由があるはずだよ」と言われた。その時、わたしは「だから自分の気持ちの変化を無視しないで、自分の気持ちを大切にしてあげて」と言われているような気がして、自分の気持ちに向き合うきっかけになったと感じている。

 実習が終わりを迎えたころ、保育の実習に入る代わりに丸1日かけて、よみたん自然学校の実習で感じたこと、学んだこと、嬉しかったこと、失敗したことを付箋に書き出し、マップ作りをする時間をいただいた。忙しい中、3時間以上かけて福校長はわたしのマップ作りに必要な要素を聞き出してくれた。説明が上手じゃなくても、話があっちこっちに飛んでも嫌な顔せず、わたしの心からの話を聞いてくれた。そのおかげで、一人では気づけなかった変化も言葉にすることができたし、よみたん自然学校が本当に大切にしている保育理念を改めて実習を通して私自身が感じていたことに気付いた。大切にしているものはあえて全て言葉にしなくても、人に伝えることができると実感した。

地域おこし協力隊として
 今さらだが、わたしは現在千葉県多古町にて地域おこし協力隊として多古町で森のようちえんの立ち上げを活動の軸として働いている。今回の実習費も滞在費もその仕事の活動費という枠からだしてもらっているおかげで、3か月という長期実習を実現させることができたし、その間の収入にも特段困ることはなかった。今後同じような境遇の方がいたら、ぜひよみたん自然学校に実習にいってみて欲しいと思う。森のようちえんと全国で一括りに言うけれど、どんな場を作りたいのか、自分はどういう人なのか、再度考えきっかけになると思う。

 実習が終わった今、千葉県多古町で、森のようちえんの立ち上げ支援に戻った。地域それぞれで求められていることは違うはずなので、まずはそのニーズを把握し直すところから始めたい。組織の体制や場所の制度はよみたん自然学校とは全く違うものになったとしても、自分の在り方や子どもたちへの関わり方は、実習で感じた「自分らしさ」を活かしていけるはずだし、よみたん自然学校のスタッフの方々からかけていただいた言葉や、話を聞く姿勢を今度はここで自分なりに一緒に働く仲間に実践していきたいと思う。最後に、ここで言葉では書ききれないほどの気持ちの変化や子どもたちの様子がたくさんある。短時間の実習だから感じるもの、長期の実習だから得られるもの、それぞれ良さはあると思うが、私は、よみたん自然学校3か月も実習できて本当に良かった。よみたん自然学校での実習は確実にこれからの自分の人生の糧になり、将来を考える重要な要素になると確信している。


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