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道東原付爆走旅行その4(完結) 屈斜路湖・川湯温泉・釧路湿原・釧路・羽田

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本日は昼すぎまでに原付を返し、あとは電車で釧路湿原を見てから釧路空港から関東に帰るという予定だ。

雲海を狙って日の出前に起き、屈斜路湖ハイランド小清水725に向かう。雲海も何も、すでにそこらじゅう薄い霧に覆われていたのだが。早朝の弟子屈ではかなりの回数道を横切る鹿と遭遇した。濡れた路面に霧で見通しも悪く、かなり気を遣って運転せざるを得なかった。

川湯温泉街を離れ屈斜路湖のほうへ登っていく。標高が上がるにつれ霧が濃くなり、気温も下がっていった。勾配もなかなかでゴールに近づくころには原付のエンジンが随分つらそうにしていた。そして小清水高原にたどり着いた。

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へー……これが屈斜路湖かあ……。雲海はたしかにそこにあったが、自分自身も海の底にいたのだった。

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しかし摩周湖と同様に純度の高い草木の緑色と白樺と死んだ木の織りなす景観はすばらしかった。霧による引き算の美も完璧だった。

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↑ちょっと晴れた屈斜路湖。

このハイランド小清水725は、屈指の天体観測スポットとしても有名だ。ぜひとも好天の日に再チャレンジしたい。夕焼けから星空、そして朝焼けと雲海の出現までを見届けたい。

霧の湖を後にし、宿に戻る。朝食をいただいて宿を去った後も原付返却時間まではまだ時間があるので川湯温泉の街を適当にぶらついてみる。

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↑足湯併設の川湯温泉駅。宿は駅の近くだったが、温泉街の中心は少し離れているので先に見物しておいた。

川湯温泉散策。ホテルの日帰り温泉もいいが、やはりここは共同浴場だろう。カランしかない簡素なつくりだが、料金も安く地元民に愛されており、そのぶん純度の高いその土地の味を知ることができそうな気がするからだ。川湯温泉は草津や蔵王と似て強酸性でめちゃくちゃ熱い。44度はあろうかという源泉とぬるめの真湯の2つの湯船があり、玄人らしきおっさんたちいわく交互に入って楽しむのがいいらしい。彼らのうんちくを聞きながら2つの湯船を何往復かし、出来上がってきたところで上がってソファで冷たいコーヒー牛乳を飲んだ。

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半端に時間が余っているのでさらに街をぶらつく。足湯でくつろぐ地元民らしきじいさんばあさんたちを遠巻きに眺めたり、土産やさんホッピングをしたり、お菓子やさんの喫茶スペースで休んだりした。

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今日の旅程の拘束条件は釧路湿原を観光して釧路に夜たどり着くということだけだ。ランチのことも決めていなかったが、摩周の駅前で豚丼が食べられるそうなので昼前に川湯を離れて摩周までバスで行くことにした(豚丼で有名なのは帯広や十勝だけど)。食べ終わって一息ついたころにちょうど釧路行きの電車が来る計算だ。公共交通機関の本数がそう多くないところの旅程というものは組むのに苦労するものだが、当日にこうもピッタリとパズルのピースがハマることの気持ちよさといったらない。事前にきっちり調べあげる旅も好きだが、テキトーに組み上げるルートも大変楽しいものである。

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↑ざっくり今日のルート。Google Mapsに辿った軌跡が保存されていた。

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釧網本線で釧路湿原へ向かう。摩周までバスに乗っていた間はほとんど眠りかけていて気づかなかったが、三日間原付のエンジン音を聞き続けケツが湿原になりそうだった状況で体験する「ただ電車に揺られる」ということの気持ちよさに驚嘆する。この瞬間から、原付で走る気持ちよさと引き換えにしていた豊かさが徐々に戻ってくるのを節々で感じ始めた。手放していた分だけ敏感になっていた。

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釧網本線の横向きの座席でディーゼルエンジンがgrrrrと荒ぶるのを聴きながら、ただ大湿原を眺めて前後にゆらゆらしていた。ほどなくして釧路湿原駅で降り、そこから唯一歩ける距離にある細岡展望台に向かい湿原を見渡すことにした。案の定曇り空のもとではあったが、さすがのすばらしい眺望だった。自分の写真では迫力が伝わらない。

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ボランティアの解説も聞きながらけっこうな時間展望台に留まった後、駅近くのビジターズラウンジへ。展示をひととおり見てぶどうソフトを食べるなどするも次の電車まで時間が余り、ただ待つのももったいないと思ったのでちょうど次に来るくしろ湿原ノロッコ号が到着するまでにつけそうな隣駅の細岡駅まで歩くことにした。

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釧路川に近づいたり離れたりしながら歩き、細岡駅には余裕を持ってたどり着くことができた。そしてノロッコ号に乗車、一駅遡ったおかげか自由席で席を確保することに成功した。指定席も大変いい感じだったので次回はぜひ予約したい。車内に流れる解説を聞きながらのんびり釧路駅へたどり着いた。いよいよ今回道東で訪れる最後の街である。

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駅前の床には冬の星空が描かれていた。ふたご座適当すぎん? かに座に至ってはなかったことにされている。暗い星は描かないスタイルか。ここで北海道豆知識、サッポロビールの星はなんの星かといういと、北極星です(麦星アークトゥルスかと思ってた)。

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せっかくの道東なのに結局星空には一度も恵まれなかったので星欲が爆発しかかっていたのだろうか、地図で科学館を見つけ調べたらちょうど十分後にプラネタリウムの上映があると判明し、すぐに釧路市こども遊学館に向かった。上映プログラムは館のオリジナル番組という力の入れようだった。ちょうど50周年でアツいアポロにまつわる番組で、これはぜひ聞きたいと思って臨んだが星空解説の途中でまばたきした次の瞬間にはドームに朝が訪れていた。早起きと疲れの影響に違いないが、抵抗の意思を示す暇もなかったのには驚いた。投映終了後は閉館までほとんど時間がなかったものの、展示はとても楽しそうであり閉館後も館まわりのオブジェで子どもたちが楽しく遊んでいていい街だなと思った。子どもが元気な街はとにかくいいのだ。

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空港へ向かうバスの時間が近づく。フィッシャーマンズワーフといううまい魚が食える市場からバスが出ており、近くには幣舞橋という観光スポットもあった。どうやら日本屈指の夕焼けスポットらしい。科学館からそちらへ向かう道すがらでは釧路芸術館なる建物を見つけた。閉館していたが屋上に上がることができ、瀟洒な外観や意味ありげな梯子やちょっと複雑な構造がFPSの対戦ステージのような趣を醸しており非常にわくわくした。いかにもスナイパーが潜んでいそうなくぼみだとか。海といい感じのカップルを遠目に見渡すこともできる、散歩におすすめなスポットだ。

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↑伝われ~スナイパーいそう感

旅の終着地、幣舞橋。これが世界三大夕日にも数えられると言われる幣舞橋に訪れた夕方の写真だ!

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いったいなんなんだ? 道東には太陽がないのか? フィッシャーマンズワーフに戻ってホタテバターとともにやけ酒を流し込み、釧路空港行きのバスに飛び乗った。カウンター席の隣で飲んでた道民のじいさんばあさんは、今年の北海道の夏はもう終わったんだねえ、と言っていた(8月12日)。 ピークを感じる間も無く、夏も旅ももう終わる。

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↑フィッシャーマンズワーフ内にあったカニキャッチャー。やってない。

離陸、あっという間の着陸。旅の終わりも雲の中だったな、と最後の写真を見ながら思い出した。JALの機内、今日は私たちにとって忘れがたい日です、というアナウンスがあった。意識していなかったが、日航機墜落事故の日だった。無事帰りつけたのも当たり前ではないことなのかもしれない。

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羽田から家まで帰るのにもさまざまなルートがあるが、お気に入りは東京モノレールだ。臨界風景を横目に都会を縫うように進んでいく。田んぼの中でほとんど自分の音楽を聴かず、原付のエンジン音だけがヘルメットを通して鳴ってる日が続いたあとに初めて、モノレールからポンジュースのネオン看板を横目にキリンジを聴いた午後十時。タワマンのいろんな色の窓や街灯を反射する眼下の水面、洗練の権化たちが全次元からやってきて、これもまた豊かさ、と思う。

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都会が嫌いとうそぶいたりもするけれど、いつもの街にも旅先にもどちらかにしかないものはいくらでもある。大切なのはどっちにあるものもおもしろがれる力だろう。そしてどこでもいいとこどりだけしていればいいのだ。

終わったと思った夏、東京に帰ってきたら夜半近くで29度のバカ湿った空気に出迎えられ、そこらの階段ではゴキブリとセミが仲良く転がっていた。しばらく見ていなかった月は相変わらずきれいで、そういえば今日はペルセウス座流星群の極大前日だった。流星一個くらい見てから眠ろうか。


おわり

その1 網走・女満別~知床

その2 知床、野付、別海

その3 別海・弟子屈・川湯温泉

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