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第2章 なぜ資格の罠に陥ってしまうのか?

資格でつくる戦略的人生ロードマップ
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資格を取ろうと決意した瞬間から「資格依存」が始まる

信頼性の高い資格を使って、フリーランスで活動できる能力が大切だとお話ししました。行動力のあるあなたは早速、資格を取ろうと考え、あるいは持っている資格をどうにかしようとアクションを起こされるかもしれません。

しかし、ここである考え方にスイッチを切り替えておかないと、フリーランス能力を高めるどころか、失敗し、果ては人脈も失ってしまう可能性があります。

それは、「資格依存症」とも言える資格依存マインドです。つまり、簡単に言ってしまえば、「資格で何かしようと思う人は、資格に依存してしまう傾向にあるので、資格に依存することはやめましょう」ということです。

「依存なんてしていない。資格はあくまでも武器で、私は私の意思でやっている!」

もしかしたら、そう思われるかもしれません。もちろん、なかには依存していない方もいるでしょう。しかし、実際のところ、この資格依存症の怖いところは無意識に依存してしまうということなのです。

たとえば、私と同じ行政書士などの士業では、

「行政書士で年収どのくらい稼げますか?」
「社会保険労務士は安定した資格ですか?」
「税理士は手堅く年収1000万円くらいは稼げますか?」

などのご相談が、よく寄せられますし、市販の資格図鑑でもFAQなどでよく取りあげられているようです。しかし、この質問はよく考えればおかしいのです。

別の事例をあげましょう。たとえば、ITベンチャーを立ち上げる。こうしたいわゆる起業家は「IT事業で1億円稼ぐ!」とか「5年以内に上場する!」というような目標を掲げて事業に取り組んでいます。「IT事業で1億円稼げますか?」などという相談はあまり飛びかいません。

他の業種でも同じです。ラーメン屋でもそば屋でもまったく同じです。少なくとも自分自身の目標を掲げてやっています。

では、なぜこのような違いが生まれてしまうのでしょうか?

資格依存が始まってしまう最大の原因は試験にあります。

「試験? なぜ試験が依存と関係あるの?」

試験は自分を鍛え、能力を高める場でもあります。なぜ、その試験が資格依存症をつくってしまうのでしょうか。

試験には「問題」があります。ですから、当然「答え」もあるわけです。

たとえば行政書士試験などでは、法律の選択問題などがあり、いくつかの選択肢の中に必ず答えがあるのです。問題集には必ず答えと解説がついていますし、また予備校に通っていれば、先生が必ず答えを教えてくれます。

こうした試験を、場合によっては何年も受け続けます。とくに難関資格では1年やそこらで受からないものも多いでしょう。これをずっと続けていると、何が起こってしまうのか?

そう、資格取得後の人生戦略についても、誰かに答えを聞いてしまうのです。

聞いていれば誰かが答えをもたらしてくれるだろうと、知らず知らずのうちに、そうした資格依存習慣が身についてしまっているのです。

普段の仕事では、「よい仕事をするためにアイデアを出そう」「優秀な人材採用のために面接の方法を練り直そう」などと考え、せっかく問題解決できる能力があるにもかかわらず、こと資格になると「依存型」になってしまうのです。

しかも困ったことに、資格依存症に本人の自覚はありません。ですから、手に負えないことが多いのです。

「行政書士の試験に受かりました。次は何をやったらいいですか?」

こんな自分の人生を誰かに委ねるような普通では考えられないような質問も、資格試験を受けることによって出てきてしまうのです。

資格を取って、開業したあとにうまくいかない方が多いのも同じ理由です。

「名刺を配ったほうがいいのでしょうか」
「チラシはつくったほうがいいのでしょうか」
「どんなダイレクトメールを出せばいいのでしょうか」

……ビジネスにも答えがあると思っているのです。

結論から言えば、ビジネスに答えなんかありません。名刺も仕事を取ろうと思ったら、取れるまで何度も何度もつくりかえます。チラシやダイレクトメールも、何枚配って何件反応があった、では次はこういう紙面にしてみよう、少しでも確率を上げようとテストします。絶対に当たる「正解」なんて、ビジネスではないのです。

私自身もメルマガを出して思うような反応が得られないことは、いまだってあります。でも、正解なんてないのです。次はもっと高い反応率を得られるように改善する。その際に誰かに意見を求めることはありますが、「どうしたらいいか」というように丸投げ依存で相談することはありません。

まず、「自分がしたいこと」がある。それについて意見をもらうのはいいことです。しかし、単に「正解」を聞いても答えはありません。人によって正解は違うのです。

まずは資格依存症から脱却し、あなたがどのような人生を歩みたいのか積極的に考えてみてください。

「あなたは資格を使って、どのような人生を歩めたら最高ですか?」

資格の持つ本来の意味を間違えないようにする

第1章でお話ししたとおり、資格の最大のメリットは「信頼」です。

もちろん、弁護士や行政書士のように、その資格を持たなければできない仕事もありますので、そういった仕事ができるようになることもひとつのメリットです。

ここで間違いがないように、資格についての解説をしておきます。

いまではさまざまな資格がありますが、大きく分けて「公的(国家)資格」と「民間資格」があります。言い換えれば、国や関係省庁が認めた「パブリックな資格」か、民間企業・団体が定めたいわゆる「民間資格」かのどちらかです。

そして、このパブリックな資格には、弁護士や行政書士などその資格を取らないと仕事ができない資格があります。この仕事のことを一般的に「独占業務」と呼びますが、私はこの独占業務を持てる資格を「スキル資格」と呼んでいます。新しく仕事をすることができるスキルが身についたという意味です。

これに対して、中小企業診断士のように国家資格ではあるけれど、資格特有の仕事、つまり独占業務がない資格もあるわけです。多くの検定などの資格も同じことが言えます。これらの資格は、その人の能力を表していますので、私は「スキル資格」に対して「ステータス資格」と区別して呼んでいます。

上図のように、私は大まかに分類しています。

どの資格を選べばいいのかは第3章に譲るとして、「スキル資格」の大いなる落とし穴について、ここでは説明します。

この罠は、スキル資格を持っていて、現在、大成功している人も一度は通るほど、ほとんどの人が陥ります。そして、その多くの人はこの罠に陥ったことで失敗します。

スキル資格を取ったら、持っていない人ができない仕事ができるようになるわけですから、有利なことばかりじゃないかと思われるかもしれませんが、実はそうではないのです。

なぜ、スキル資格を持った人が失敗してしまうのか。人より何倍もの努力をして、勉強をして資格を取ったのに、なぜ収入が逆に落ちてしまうことがあるのか?

それは「スキル資格の悪しき専業理想主義」が原因です。どういうことかというと、「スキル資格を取ったら、それ専業でいなければいけない。他のことをするのは邪道」という考え方があるからです。

たとえば、テレビでコメンテーターを務める弁護士を見れば、「あいつはもう弁護士じゃない。タレントだ」などと批判されることがあるでしょう。私も行政書士ですが、こうして本を書かせていただいたり、全国を講演でまわるセミナー講師をしていたりします。

そうすると、「行政書士以外の仕事をするべきじゃない」とか、「あいつはもう行政書士ではない」などと言われることが、ごくまれにあるのです。最近では少なくなりましたが、過去はもっと多かったと感じています。

しかし、何を言われようがどんな活動をしようが、弁護士は弁護士、行政書士は行政書士なのです。

私も資格はたしかに取りましたが、人生戦略の内容までお願いしたつもりはありません。行政書士が100人いれば100とおりのやり方があってしかるべきです。

とくに業界内では、こうした専業であるべきという空気が強いですが、この「スキル資格の悪しき専業理想主義」に気がつかないと、2つの失敗パターンを招いてしまいます。

その典型的なパターンを具体的に見てみましょう。

「スキル資格の悪しき専業理想主義」がもたらす失敗パターン

スキル資格を取ることで間違えてしまうのが、自分の過去のキャリアを無視してしまうことです。たとえば行政書士では、開業した多くの人が「行政書士としてこういう業務を扱っていきたいです」という言い方をします。

もちろんそれはかまわないのですが、ひとつうかがいたくなることがあります。それは「行政書士になる前って何をされていたんですか」という質問です。

この質問をすると、SEをやっていたとか、教員をやっていたとか、さまざまなキャリアが答えとして返ってきます。そう、多くの人は資格以外の要素のほうが、本来は多いはずなのです。

ところが、スキル資格を取ってしまうと、スキル資格の悪しき専業理想主義によって、スキル資格の業務範囲だけでなんとかしようとしてしまいます。

数字でたとえてみましょう。あなたが持っているスキル能力値を100とすれば、スキル資格が与えてくれる仕事の幅はせいぜい5くらいです。行政書士の資格を取ったとしたら、あなたが100、そして行政書士の資格を取ることができたので、105になります。本来はこういう形なのです。

ところが、スキル資格の悪しき専業理想主義があることによって、この「5」のみで勝負しようとしてしまうのです。

いままでやってきたことを無駄にしたくはないですよね?

しかし、スキル資格を取ったほとんどの人が、こうした罠に陥っています。これがひとつめの失敗パターンです。「過去キャリア・リセットパターン」とでも呼んでおきましょう。

せっかくこれまでやってきたあなたのキャリアや経験をゼロにしてしまうのは、本当にもったいない。それに、フリーランスで動くときにはこの過去のキャリアが重要になってきますので、リセットしないように気をつけてください。

2つめの失敗パターン。これに名前をつけるなら「目的忘却パターン」です。これも同じくスキル資格の悪しき専業理想主義からきているのですが、最初の目的を失ってしまう人がとても多いのです。

たとえば、実際にある例をあげましょう。法律を扱う行政書士の資格にあこがれて、その仕事で独立起業し、収入を上げ、家族を幸せにしたいと思い、行動を起こします。

まずは試験。無事合格したあとに、いよいよ開業します。

開業すると、世の中はスキル資格の悪しき専業理想主義でいっぱいです。すると、行政書士の枠内でなんとかしよう。それ以外をやるのは邪道だと思い込む。

でも、枠内だけでなんとかしようと思うから、思うように収入は上がらない。収入が増えないと家族は不仲になる。それでも王道を行きたい。自分はセミナーなんかしない。出版なんかもってのほか。街の法律家として、お金はなくても地道に生きていくんだ……。

ちょっと待ってくださいと言いたい。「最初の目的はなんだったんですか?」と。

もともとの目的は、「行政書士でいること」なのか、それとも「成功すること」なのでしょうか。間違いなく目的は「成功すること」だったはずです。

家族を不幸にして、望むような収入が得られないことが本来の目的だったのでしょうか? それは違うはずです。

このように、スキル資格を取ることと専業理想主義によって目的を忘却してしまうパターンが2つめのパターンです。言われてみると当たり前なのですが、多くの人がこの目標忘却パターンに陥っています。

私自身も行政書士でいることが目的ではありません。行政書士を使って、自分の目標を達成することが目的なのです。

自分の目標のために行政書士の資格を使い、過去のキャリアを使い、ビジネスを展開しています。スキル資格は活用するものであり、とらわれるものではないはずです。

「資格を取って転職」は本当に成功できる?

ここで資格と転職の関係についてお話ししておきましょう。「転職に有利」とされる資格もたくさんありますが、本当に転職に有利なのでしょうか。

たしかに転職先に「簿記検定2級以上」や「TOEIC700点以上」などの条件があれば、当然転職にも有利になります。ところが、こうした条件提示をしていない会社でも、資格を持っていることは有効なのでしょうか。

スキル資格もステータス資格も自分自身の能力を示します。ですから、能力の高い人間として認められる可能性は高いと言えます。

しかしながら、私も人を採用する立場の人間であり、その立場から言わせてもらうと、実は人事担当だからといって資格に詳しいわけではないのです。

資格を持っていることでわかるのは、「なんとなく能力が高いんだろうな」ということです。むしろ、気になるポイントは「その資格があることで、何ができるのか? どんな結果を会社にもたらしてくれるだろうか?」。こちらのほうが重要で、さらにそのことを面接で伝えるコミュニケーション能力が必要であり、ただ黙って履歴書に掲載しておけば通るわけではありません。

資格を持っていることで、自信はつくと思います。さらに面接で「資格持っているんですね。すごいですね」と言われればうれしいでしょう。

しかし、「では、弊社にどんなことで貢献できますか?」と聞かれたときに答えられなければ、資格の効果は半減してしまいます。逆に「役に立たなかった」と思ってしまうでしょう。

そうなると、資格を取ることでできた自信までもなくしてしまうでしょう。しかし、その自信を失った理由は資格にあるのではなく、「資格をもとに自分をアピールできない自分」にあるのです。

たとえば、同じ「ソフトウェア開発技術者」でも、自分のITスキルを事例をまじえて紹介できる人と、ただ資格持ってますと言うにとどまる人では、印象がまったく異なります。

ですから、転職・就職の面接の際にも、資格の有無や差よりは、いかに自分をうまくアピールできるかのほうが重要です。月並みな言い方ですが、「資格を生かすも殺すも自分次第」なのです。

転職というのもひとつの選択肢ですが、私は、やはり最終的にはフリーランスで動くための準備をしておくべきだと思います。転職にも有利である面もあり、転職を否定するつもりはありません。「資格を取って転職すれば収入が上がる」という可能性はありますが、だからと言って、それが「安泰」ではありませんので、どうかご注意を。

人生の軸を「資格」でなく「自分」に置こう!

このように資格には陥りがちな失敗パターンがあります。資格試験の勉強をし続けることからできてしまう「資格依存症」。スキル資格の悪しき専業理想主義から生まれてしまう「過去キャリア・リセットパターン」と「目的忘却パターン」という2つの失敗スパイラル。

どれもこれも真面目に資格受験を考え、取ったあとに待っている巨大なトラップです。これらの罠にはまらないように、意識して試験や行動にのぞんでください。

重要なのは、資格ではなく、あなたが何をしたいかということです。

失敗する多くの人が、「自分」ではなく「資格」を中心に考えてしまっています。たとえば、行政書士を取ったから、行政書士で何ができるだろう、行政書士はいくら稼げるのだろうという思考が始まります。もちろんその考えも悪くはないのですが、あくまで目安です。自分がどうなりたいかという「自分軸」で戦略を考えることが重要なのです。

そして、過去のキャリアも、ぜひ大切にしてください。いまあなたという人が存在するのは、過去の経験があったからこそです。過去の経験を生かしたうえで資格を取り、戦略的に人生を考えていく。そのうえで、自分自身の本来の目的を忘れないようにすることが大事なのです。

※掲載されている内容は、作品の執筆年代・執筆された状況を考慮し、書籍販売当時のまま掲載しています。

本書「ごく普通の人でも資格を取ってきちんと稼げる本」は、当初「なぜ、人は資格に恋してしまうのか」と改題し、POWERCONTENTSPUBLISHINGより加筆編集の上再出版される予定でしたが、現在の刊行が未定となったため、現在は横須賀輝尚オンラインサロン四谷会議でその改変原稿を読むことが可能になっております。

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