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言葉の宝箱 0157【別れずに済んでいるのは、女房の方が大人だからです】

『がんこスーパー』山本甲士(ハルキ文庫2018/10/18)

ここ数年の間に近所のスーパーが何軒か閉店し、
そのたびに夫婦間で
「あそこ、潰れたよ」「やっぱりかー」などと話していた。
いずれも生鮮食料品が充実しているとはいえず、
パート従業員さんたちは不愛想で
人気店と比べると店内が清潔感に欠けていた。
こういう店はレジに行列ができて隣のレジが新たに開放された時、
一番後ろに並んでいた客がささっと移動して
先に精算することを許したりするので
先に並んでいた客の不評を買ったりする。
その潰れた跡地の一つにチェーン店のドラッグストアが建った。
スーパーの機能も備えていて、地元産野菜のコーナーもある。
こちらはパートさん達の愛想がよくて顔を見てちゃんと挨拶をしてくれる。新たにレジを開放するときは
必ず二番目に並んでいる客に声をかけて誘導するので、
誰も嫌な気分にならない。
そういった出来事の体験と前後して、
たまたまスーパーや道の駅にまつわる
ドキュメント番組をいくつか見る機会があった。
いずれも成功例として紹介されていたわけだが、
最初から上手くいっていたわけではなく、
どん底から復活を告げたケースが目立った。
ある個人経営のスーパーは価格競争に巻き込まれて窮地に陥ったが、
日々増えてゆく売れ残り野菜がもったいなくて
社長夫人がほうれん草のおひたしや芋の煮っころがしとなどの
総菜にしたところ、料理の腕前もあって人気が広まり、
ついには開店前に行列ができるほどになった。
一方の社長さんも毎年のそれぞれの時期の気候と品目別売上を
こまめにメモして商品ロスを把握、
毎日きれいに棚が空になるという達人技をものにした。
他にも、経営者が従業員に命令するのをやめて
「ありがとう」と声をかけるようにしただけで
店の雰囲気が大きく変わってパートさん達が
様々なアイデアを出してくれるようになった、
地元の小規模農家さん達の野菜を扱うようになったら
その家族や知り合いなども客になってくれて売り上げだ伸びた、
などの実例が紹介されていた。
もの書きという仕事柄、
そういった話はいつか小説のエピソードとして使えるかもしれないと思い
メモを取っておいたのだが、集まったメモを並べて眺めていて気づいた。
これ、小説のエピソードとかじゃなくて、丸まんま、
一本の小説にできんじゃね?
かくして、リストラ対象となって潰れかけていた
弱小スーパーに副店長として派遣された冴えない中年男が、
最初はやる気がなかったパートさんたちと力を合わせて、
どのようにして巻き返しを図ってゆくか、
という逆転劇小説が生まれたのでありました。
   『山本甲士/もの書き生活-Yahoo!ブロック』

リストラの憂き目に遭いつつ、
転職口が見つかりホッとしていた青葉一成。
それも束の間、今にも潰れそうな弱小スーパーの副店長として派遣され、
ミッションは売り上げアップ。
しかし店長には他店のスパイと疑われ、パートの面々も遣る気なし。
逆境の中ある日ご近所の老女からヒントを得、
崖っぷちスーパー再生のために立ち上がる。

・ただ与えるんじゃなくて、成長させてくれる人 P138

・ケンカになっても、謝るのが嫌で、
いつまでも怒ってるような態度を取ってしまう。
別れずに済んでいるのは、女房の方が大人だからです P169

・自分を大きく見せようとする奴ばっかり P211

・仕事の値打ちは、いくら稼ぐかではない。
幸せを日々実感しながら働くことができるかどうか。
売り手も楽しく、買い手も喜んでくれて、地域が元気になる。
そのついでに儲けさせていただく P245

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