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自由律俳句集「このまま死ぬ思いで寝たのに」

前回


廃線に沿って咲く花

朝露に濡れるサドルと手

耳栓を貫通する雨の音

雪だるまだったものだけ溶けない


意外と人がいる

昼休憩と板前さん

オルゴールverだからわからない

山肌が見えた帰り道


嘘だろコイン精米に行列

この本の賞味期限よ切れないでくれ

否定のつもりで笑う

きっとこれは梅の枝


前髪どころの風じゃない

知らないネジが落ちていて不安

投げる石すら落ちていない

初速だけあったな


逃げ出せない場で話してしまった

桃買えるぐらいの憂鬱

生きて虫を逃し

軽いゴミから踊る強風


話はんぶんの夕焼け

縄跳びしているのを見られた

洗濯物に夕陽が当たり

暗い店内にアヒルのぬいぐるみ


一瞬だけ蝶と並走した

他人のことだった

何かの死骸じゃなくて良かった

みんなが遠い


この早さはきっと作り置き

やっぱりやっておいてよかった

居場所を連絡したばかりに動けない

カゴに弁当ばかりで負けた気分だ


多分聞こえてないな

カメラ越しだと小さく見える

雲ひとつないわけではない

通りへ漏れる冷房が無機質だ


ここだけ埃がたまっていない

マニュアルで返された

なにもなくて風ばかり強い

無響室で僕がふたり


しぐれてゆく夕方のチャイム

リフティングする少女を撮る母

和式しかない

風鈴響いて苦々しい


花火の音で皆が止まり

修学旅行の学生と被ってしまった

諦めたから謝る想像にチェンジする

どうやってもエアコンの風が当たる


一室だけ点いている

誰もいない夜の畑

電灯が田に揺れている

侵入して消えた蛾

このまま死ぬ思いで寝たのに

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