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敗北ではなく、新しいゲームの始まりだった - 2022FIFA ワールドカップ-

2022 FIFAサッカーワールドカップ、ご覧になっていましたか? 毎夜見続け、寝不足だった方も多いのでは。かくいう私も思いっきりその一人です(笑。

多くのメディアが報道していたように、今回のワールドカップは、サッカー業界にとって今までにはない"新しい息吹を感じとる時間"だったといえるでしょう。しかしながら、それはサッカー業界だけではなくビジネス業界にもとっても同義であると私は感じました。

新しい息吹とは

すでに報道されていることが多いのですが、マーケティング視点で注目するいくつかのポイントを改めて以下のようにまとめてみました。

1)メディア環境のDX推進
ABEMA(https://abema.tv/)は、予選で4100万人視聴されました。ついにインターネット配信が主役に踊りでたと言えます。
スポーツの方がビジネスより早くDXを具体化し、デジタル化した視聴形態を様々な角度で見せてくれる。VOD(ビデオ・オン・デマンド)を合わせてトランスフォーム(変革)し、今までとは異なる新しい見方で、顧客に楽しみを倍増させてくれました。

2)レフェリーのハイブリッド化
レフェリーはリアルに選手を追いながらも、有効にVODを活用していました。リアル&デジタルを交互に活用する、知的でアグレッシブさが印象的だった試合でした。

3)監督が"自律分散型"思考に
日本の森保一監督、優勝したアルゼンチンのリオネル・スカロニ(44歳)監督双方は、"幸せを分ち合えたら素敵"というマインドの持ち主でした。以前のような"闘将"という鬼軍曹のような監督が少なく、皆さんのやりたいことを生かすかのような監督が活躍した大会だったと思います。

4)Z世代
Z世代の選手を中心に添える体制づくりに踏み込むことができたチームが、よい成績を残せたのではないでしょうか。
今大会の得点王となったフランスのエムバペ(23歳)、アルゼンチンにはメッシの影になったり表になったりと存在感を表したフェルナンデス(21歳)がいました。そうそう、クロアチアには日本勢に立ちはだかった仮面の男グバルディオル(20歳)もいましたよね。日本でも堂安選手(24歳)、三笘選手(25歳)、冨安選手(24)歳…etc…。つまりZ世代を生かす為の組織づくりがキーポイントだったと、私は思っています。

自律分散型思考

3)に言及した「監督が"自律分散型"思考に」について、今日は少し掘り下げてみましょう。

まず最初に、日本代表の闘い方、前半と後半であれだけ大きく変化をもたらし(チェンジペース)相手を唖然と一瞬させた要因には、組織を自律分散型を森保監督が取り入れたこと、知らずもがな「センスメイキング理論」を活用していたのではないかと思います。

例えば、情報番組でも話題になっていた"森保ノート"の存在です。センスメイキング理論の第1ステップは"scanning"、情報を感知すること。それにあの"森保ノート"が機能していたはずです。

■森保ノート=アブダクションノート

森保監督のノートは試合用(コクヨB6サイズ)と練習用(コクヨA6サイズ)に分けて、赤と青のペンで書かれているそうです。様々な推測がなされていますが、少なくともフリーアナウンサーである羽鳥慎一氏冗談で言ったとされる"デスノート"ではありませんよね。笑

確実に書いていたと思えるのは、前半の時間帯における敵と味方のボールでのバトル状況と敵と味方の走力・体力で感じること。直観を森保氏は、感覚的に記入したのです。つまり、その日の身体のキレの比較での情報収集であったと思います。これは、見たことこそありませんが、一瞬で描いてますから、文字より絵を多用したかもしれません。

次にその活用法です。
"森保ノート"は、後半5人までの選手交換のタイミングと、誰を使うかに有効と思われる直観データとなります。もっと具体的に言えば、前半の固定的に使った長友選手の反応から状況を判断にして、ハーフタイムに彼を入れ替えた際に、三笘選手のポジション取りと動き方を生かす情報、彼の動きを最大限活かすことの活用されたのでしょう。

■アブダクションノートとは?

森保監督は、おそらくこの手法を長く続けていたのだと思いますが、今回このノートがなぜここまで注目されたのでしょうか。
それは今までの演繹法や帰納法でのデータではない記載であったというユニークさに他なりません。監督が采配した戦略をみた人たちが、振り返った結果、あのノートに秘密があると思ったのだと思います。
比較するならば、これまで分析サッカーとして名を馳せていたドイツ陣営が行っていた予定調和的論理分析、データ上で今後はこういう動き・フォーメーションで戦うであろう、といったものではなかった、ということです。森保ノートは「今」を生きているものだったのです。

Cf>>アブダクション事例
︎本田宗一郎氏は、テストコースで目の前を疾走するマシンを凝視、観察してと言われています。
地面にしゃがみ手を付き、マシンと同じ高さになった状態でマシンを先ず捉え、耳でエンジン音を聞き、鼻で燃焼状況を確認し、手で振動を確かめる。五感を駆使し、感情移入して対象に深く入りこみながら、理性的な分析を加えて、新たな仮説を生み出す。これはまさにアブダクションでしょう。

「直観の経営」2019年;野中郁次郎・山口一郎

知的バトル -共有された闘い方-

次に、ハーフタイムは「共感の場」と言い換えられると私は思います。
森保監督の"直観的なコーチング"意見に加えて、選手たちからのリアルがぶつかるまさに"知的バトル"だったでしょう。故に吉田選手をはじめ、全員が共感する時、爆発エネルギーが生じるわけです。

前章で言及した直観による"森保ノート"は、意識的・論理的・分析的な思考によって発揮されるというより、感覚や経験をもとにして蓄積されている「知」であるといえます。それを下にハーフタイムに話し合う。これをマーケティングで言うならば、ストーリーテリング作業と同義だといえるのではないでしょうか。今後の闘い方をイメージし共有し合うのです。

それはきっと、以下のようなものだったのかもしれません。

①45分ハーフで、全体のボールポジション率が低くても時間軸で言えば10分間だけの山を作り集中すれば勝てる。
②前半は相手を身体で感じ自分との比較をできる場と捉え、ハーフタイムで、全員でその感じたものを確認をしあい、後半は試合のペースを変える。
③目的の明確さ「ベスト8で今までと違う景色を見る」を合言葉にする。
④11人のゲームではなく、26人が常にピッチにいると捉える。︎自分がいつでもピッチに立つ気持ちになる。
⑤監督はミッションを示して、ビジョンは個々人が、そのミッションのなかで自由裁量で動く。

(黒木妄想)

まとめの代わりに

7回目の出場となった日本代表はベスト8を目標に掲げて今大会に臨みました。しかし、4回目の挑戦となった今回も決勝トーナメント1回戦でクロアチアに敗退。待ち望んだ「新しい景色」を見ることはかないませんでした。

しかしながら今回彼らが辿り着いた「新しい景色」は、これまでと異なった新しいゲームのスタートだったと私は思うのです。

森保監督は危機感認知能力に長けており、それを物語ることがうまい。今までの論理的で、指導力のある監督像とは異なる存在だったことは特筆することだったでしょう。
主将の吉田麻也が言うように、誰も悪く言わないし長く一緒にやりたい、素晴らしい監督だったと皆が思うのは、未来を作り出せるという"センスメイキング理論"の実践者として、共に歩んだ初めての監督であり、全員に様々な考えを自主的かつ自由に考えさせた新しいタイプの監督だったからではないでしょうか。今までになかったサッカー知の在り方を未来に示したことは確かです。

これまでイギリス、ドイツ、イタリア、フランスと南米ブラジルを中核にするサッカー界が、ゲームの中心でした。しかし現在は、周囲の環境(顧客)の価値観・ルールが変化を遂げており、これまでの常識だったところから外れている国が出てきたのです。
つまり、変化を見出す"想像力のサッカー"に進化したのが2022年の本大会だったのではないでしょうか。そしてその背景にあったのは、DXのトランスフォーメーションであることも然りです。選手や監督・コーチの認識だけでなく、変化を遂げたのは観客(顧客)の見方,考え方でもあったのです。

さぁ、ビジネスという試合に携わる私たちも、新しいゲームをスタートする時がきています。はじめましょう、まずは一歩から。

(完)




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