見出し画像

【派遣切り】新型コロナウイルスを原因とした派遣先都合による派遣スタッフの受入れ拒否について


新型コロナウイルスを原因として派遣先が派遣契約期間(個別契約)の途中に派遣スタッフの受入れを拒否する場合に生ずる派遣元への損害賠償の取扱いについて見解を述べてみたいと思います。


1)派遣先都合による休業手当相当分の損害賠償請求の根拠について

派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第138号) (最終改正 平成30年厚生労働省告示第261号)

6 派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
                                  (1) 労働者派遣契約の締結に当たって講ずべき措置
イ 派遣先は、労働者派遣契約の締結に当たって、派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には、派遣先は派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること及びこれができないときには少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い当該派遣元事業主が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされることにより生ずる損害である休業手当、解雇予告手当等に相当する額以上の額について損害の賠償を行うことを定めなければならないこと。


派遣先指針における派遣元から派遣先への損害賠償請求は「休業手当、解雇予告手当等に相当する額以上の額」とされており、必ずしも労働基準法第26条を根拠とした平均賃金の60%の負担に限られず、休業事由によっては民法第536条2項を根拠とした100%、更にはマージンを含めた負担が求められることもあります。


2)有事の場合の休業手当の取扱いについて

労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。一方、休業手当の支払いについて、不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありません。
この「使用者の責に帰すべき事由」の基準について過去の大震災時の厚生労働省Q&Aでは下記のように示されています。

【Q1-5】今回の地震により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていませんが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能となったことにより労働者を休業させる場合、「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるでしょうか。  

[A1-5]今回の地震により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていない場合には、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考えられます。ただし、休業について、(1)その原因が事業の外部より発生した事故であること、(2)事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす場合には、例外的に「使用者の責に帰すべき事由」による休業には該当しないと考えられます。具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。

今回のコロナウイルスのついても同様に、『例えば、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要がある(新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年3月3日時点版)』と示されています。


3.労働者派遣における有事の場合の休業手当の取扱いについて

【Q2-1】派遣先の事業場が震災の影響で休業しましたが、派遣先事業主が直接雇用する労働者を休業させたことについては、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」に当たらず、同条に基づく休業手当の支払が不要とされました。このような場合、派遣元事業主と派遣労働者との関係においても、休業手当を支払う必要がないこととなるのでしょうか。


[A2-1]派遣中の労働者の休業手当について、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」に当たるかどうかの判断は、派遣元の使用者についてなされます。派遣先の事業場が、天災事変等の不可抗力によって操業できないため、派遣されている労働者を当該派遣先の事業場で就業させることができない場合であっても、それが「使用者の責に帰すべき事由」に該当しないとは必ずしもいえず、派遣元の使用者について、当該労働者を他の事業場に派遣する可能性等を含めて、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかどうかが判断されます。
※派遣元の使用者は、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」に基づき、派遣先と連携して新たな就業機会の確保を行うことや、新たな就業機会の確保ができない場合でも、休業等を行い、派遣労働者の雇用の維持を図ることに努めていただくようお願いいたします。

【Q2-2】派遣先の被災等により、派遣先での業務ができなくなったことや、派遣先と派遣元の労働者派遣契約が中途解除されたことにより、派遣元が派遣労働者を即時に解雇することは許されるのでしょうか。


[A2-2]まず、「派遣元と派遣先との間の労働者派遣契約」と「派遣元と派遣労働者との間の労働契約」とは別であることに留意する必要があります。派遣元と派遣労働者との間の労働契約は、契約期間の定めのない労働契約である場合(無期労働契約)と契約期間の定めのある労働契約である場合(有期労働契約)があります。有期労働契約の解雇については、労働契約法第17条第1項において、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と規定されていることを踏まえ、適切に対応されることが望まれます。派遣元の使用者は、派遣先での業務ができなくなったり、派遣先との間の労働者派遣契約が中途解除された場合でも、そのことが直ちに労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」に該当するものではないことに注意してください。

つまり、派遣先が直接雇用労働者に対する休業手当の支払義務が無いと法的に認められるような有事に遭遇しこれに伴って派遣労働者の受入れを中途解約したとしても、派遣元はそれだけを理由に派遣スタッフに対して休業手当等の支払いが免れることが出来るとは限りません。派遣先を原因として派遣元に損害が発生する以上、派遣先に対してその賠償が求められる可能性は残されているという事です。


4.以上を総括してのご説明

① 派遣先の責に帰すべき事由により派遣元が派遣労働者に休業を指示した場合に、派遣元が負う損害の賠償を派遣先が行うことを労働者派遣契約により取り決めなければならない。

              
② 事業場が直接被害を受けていない場合には原則として「使用者の責に帰すべき事由」には当たらない。


③ 取引先の問題により休業を余儀なくされる場合でも、取引先そのものが有事を直接的な原因として休業が余儀なくされていることを前提として、取引先への依存度、代替可能性、期間、回避措置努力等による厳しい要件が求められている。


④ 事実、過去の有事においても使用者に休業手当の支払義務が免れたケースはごく一部の真にやむを得ない事案に限られており、ほとんどの企業において休業手当の支払いが現実としてなされた。(これに伴い使用者の休業手当の支払負担の一部補填として雇用調整助成金が広く活用された)


⑤ 労働者派遣において、派遣先での業務が遂行出来なくなり、派遣先から労働者派遣契約が中途解約された場合(受入れ拒否された場合)でも派遣元は当該派遣労働者を直ちに解雇することは出来ず雇用契約の満了日まで休業手当の支払いや代替となる派遣先の確保等により雇用を維持することが求められる。


⑥ 派遣先指針により派遣契約に定めなければならない損害賠償の定めは「派遣先の責に帰すべき事由」に限るので、労働者派遣契約で「派遣先の責めに帰すべき事由に該当する場合のみ派遣先は休業等に関する損害賠償の責任を負う」と定めているのであれば、これに該当する場合は契約文言上は派遣先はその賠償責任から免れることが出来るが、現実的には中途解約の多くが「派遣先の責に帰すべき事由」に当たらない事が法的に確定していない状況で為されている。


以上を根拠に、労働者派遣において今回のコロナウイルスを原因として派遣契約期間途中に派遣労働者の受入れを派遣先が拒否する場合には原則として派遣先は派遣元に対して損害の賠償を行う義務があり、派遣先がこの支払に応じないとする(もしくは賠償額の減額を求めたい)場合にはまずは派遣労働者が従事する派遣先の事業単位そのものが休止(直接雇用労働者への休業の指示等)している事を前提として、派遣先の取引先依存度、代替可能性、期間、回避措置努力等について行政解釈や判例等、派遣契約の中途解約条項等を根拠として、派遣元に対して「派遣先の責に帰すべき事由」に該当しない事を合理的に説明し、派遣先に生ずる損害賠償の要否や損害賠償額について誠実に協議する必要があるでしょう。

〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?