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夕方

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夕方のお話です。 日が暮れていく色、一日が終わってしまう時間に、切なさや人恋しさを感じ、自分の想いに気付くようです。
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恍惚

恍惚

 ときどき、これまでどうやって生きていたか、何をもって生きるとするか、私とは何か、そういったことがらについてひとつひとつ、立ち止まって頭を巡らせねばならないときがある。頭の中にふんわりとへばりついている「自分」みたいなものに形をつくってやらないといけない、という焦燥感に、それはもう突然、一瞬にして襲われて頭を覆い尽くされ、爪を立て皮を破り、私は停止する。それは例えばこういった、濃紺の上の残影を見な

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すすきはら

 秋の夕焼けは眩しい。そこら中の金色のすすきが輝きを反射するのだ。黃や紅に色づいた数多の葉も、例年どおり優しく笑っている。いつもどおりの秋。

 こんなはずじゃなかった、を、もう何度繰り返したろう。少女はひとつ、ため息をついた。その棒切れのような脚は、しかし、色づく大地を力強く踏みしめていた。

「あーーもうやだ」

 もうひとりの少女は、突如しゃがんでもみじの葉を一枚、拾った。そして立っている少

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いちばんの距離

いちばんの距離

 雨が降っていた。夜の雨。しっとりと指を濡らす。傘、ないな、と呟く。

「あ、僕、あるよ」

 そう言って、篠田が傘を取り出した。女の子の持っているような、可愛らしいデザインの傘だった。

「それ、噂の幼馴染みの?」

 ぴったりと肩をくっつけながら、唇を尖らせる。篠田は肩を震わせた。

「そうだ。借りてたんだ」

 わたしはふっと笑った。噂の幼馴染みの、小さな傘にふたりで縮こまって歩く。篠田が言

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仲直りアンサー

仲直りアンサー

 首にかけるお財布のがま口を勢いよく開ける。中に入れた百円玉たちが飛び出してちらばる。屋台のおじちゃんが、あーあという顔をした。

「もう、ばかだなあ、由紀は」

「うるさい、手伝ってよ」

 あわててひろい集める。むだづかいしないのよ、とお母さんがくれたお金。お祭りで使いやすいように百円玉で、千円も入っている。

「ごめんなさい」

「いいよ、おいしく食べな」

 からあげの屋台のおじちゃんは毎

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ばいばい、またね

ばいばい、またね

 窓の外で、銀杏の葉が舞った。まだ青く柔らかい葉は、はらりはらりと飛んで、地面にそっと落ちた。

 そんなことは露知らず、手を繋いだカップルがその上を歩いていく。よく見ると、見たことのある顔ぶれだった。あのふたり付き合っていたのか、なんて、ぼんやりと思う。

 放課後。教室の中は優しい黄色に染まる。

 木の匂い。暖かな、午後の匂い。

「誰かこの問題わかるまで解説してくれたら揚げ餅一本」

 女

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リクエスト

 ベッドの上で、しゃかしゃかと音がする。俺のそば殻枕を鳴らすのが仁奈の最近のブームのようだ。眠るとき、いつも甘い匂いがする。

 ゲームをしていた手を止めて、振り返る。仁奈も小説に飽きていたようで、腕を伸ばしてくる。頭に手を置かれて、髪の毛をくしゃっとされるまでが一連の流れだ。

「そろそろ帰ろっかな」

「おう」

 仁奈はいつも暗くなる前にさっさと帰っていく。寂しくもあるが、安全なので助かる。

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ホットココア

ホットココア

 勢いよく入ってきたふみくんは、わたしと目が合うなりドアを閉めた。パタパタと足音が響いて去っていく。わたしは構わずに、ぽろぽろと涙を落とした。

 なんで泣いているのか、自分でもわからなかった。ただ溢れて止まらないのだ。陽子と遊んで、たくさん話して、帰ってきてから、涙が止まらない。

 ふみくんがパタパタと戻ってくる。ドアを開けて姿を見せると、トレーの上には湯気の立つマグカップがふたつ。

「隣、

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家族の日常

家族の日常

 迷子のお知らせです、と、館内放送が流れる。少女は枝のような足を止めて、耳を澄ます。

「青い野球帽を被り、白いスニーカーを履いた七歳の男の子」

 少女はほんの少し口を開いて、近くのベンチまでとぼとぼと歩いた。

 夕方のショッピングモールはそれなりの賑わいをみせている。空のベビーカーを押す女性が立ち止まって汗を拭う。白いマフラーを外して、暖房の効いた店内を行く。

 制服を着た男子高校生の集団

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夕日の見える家

夕日の見える家

 住むならやっぱり、一軒家がいいな。

 どうして?

 帰り道、疲れて歩いていても我が家が見えてくるとちょっと顔が上を向く感じがするでしょ。

 うーん、確かに。

 それにわたし、お庭がほしいの。広すぎない、でもひとが寝転べるくらいのお庭。それでね、お花は何にも植えないの。

 植えないの?

 そう。ただよく草刈りをして、綺麗な青い芝生のお庭なの。よく晴れた休日はわたしとあなたとでそこに寝転

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ロボットみたいな僕

ロボットみたいな僕

 土曜夕方のファミレスはそろそろ混み始める時間だ。僕らはもう一年半くらい付き合っていて周りにも公認のカップルだから、学校のすぐそばの店だけれど気にしない。氷なしのコーラを音を立てて啜りながら、優希ちゃんはスマホを眺めている。

 さっきから、店員さんがこちらをずっと見ている。ドリンクバーだけで長い時間留まっているからだろう。でも優希ちゃんはまだ動きたくなさそうだから、僕はそっちの味方につく。

 

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落としもの

落としもの

 黄色い葉ももうすっかり落ちて裸になったイチョウの木の下を、紺色の学生服がすたすたと帰っていく。その足元はふかふかの黄色い絨毯で、ところどころに銀杏の実が、あるものは潰れて、あるものは綺麗な丸い形が残って落ちている。セーラー服の女生徒は、それらを器用に避けながら楽しげに帰っていく。

 来る途中に買った猿田彦のドリップももうほとんど冷めてしまっている。渋みの増した珈琲が喉をつるりと滑る。

 腕時

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オレンジ

オレンジ

 とろっとしたオレンジ色の光の中で、真っ赤な口紅のついたストローを掻き回しながら頬杖をついている。汗をかいたコカ・コーラのグラスに入れすぎた氷がぶつかって、カラカラと軽快に鳴る。だいぶ色の落ちた唇を尖らせながら、目を伏せたままの彼女が言う。

「ここにファミレスあって良かったよね」

 通っている塾から歩いて五分もかからず、しかも駅前から少し逸れたところにあって空いているので、僕たちは毎日のように

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思い出すまで

思い出すまで

 つん、とつつかれて、僕はびくんと肩を震わせる。手に持っていた小説を栞を挟むのも忘れて閉じる。振り向くと、バーコードみたいにまっすぐ並んだ長めの前髪の奥で、二重のきれいな女の子が笑った。

 横浜駅のドトール前、平日の午前九時は忙しい人たちでいっぱいだった。文庫本の上で行き交う足をたくさん見た。みんなここではないどこかへ向かっていく、天井の低い空間。左側は白の、右側は黄色の明かりが灯っていた。朝だ

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ボーイフレンド

ボーイフレンド

 いつもなら、夕焼け色の空が広がっている時間だった。予報外れの分厚い雲があるはずの光を遮り、今にもぽつぽつと降り始めそうだ。

 疲れ切った足を動かして、空気の入っていないタイヤを漕ぐ。きい、きい、と一定のリズムで音が鳴る。土手の上の、でこぼこのコンクリートをがたがた揺れながら自転車で走る。

 一つ下の道で、制服を着た男子高校生がブレーキの音を響かせてUターンした。なにか約束を思い出したのだろう

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