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ホットココア
勢いよく入ってきたふみくんは、わたしと目が合うなりドアを閉めた。パタパタと足音が響いて去っていく。わたしは構わずに、ぽろぽろと涙を落とした。
なんで泣いているのか、自分でもわからなかった。ただ溢れて止まらないのだ。陽子と遊んで、たくさん話して、帰ってきてから、涙が止まらない。
ふみくんがパタパタと戻ってくる。ドアを開けて姿を見せると、トレーの上には湯気の立つマグカップがふたつ。
「隣、座ってもいい?」
うん、と頷くと、スリッパを脱いでベッドにのぼってくる。隣で同じように体育座りをして、わたしの肩の毛布をかけ直してくれる。わたしはぽろぽろと泣き続ける。ふみくんがくれたココアは熱くてまだ飲めないけれど、マグカップを通して伝わる温かさはじんわりと優しいものだった。
「今日は立花さんと遊んだんでしょ」
「うん」
「どうだった?」
言葉を選びながら、少しずつ聞いてくれているのがわかる。わたしは答えられない。
「楽しかった?」
「うん」
「そっか」
ふみくんが、ココアに息を吹きかける。湯気があがって、ふみくんの眼鏡が真っ白に曇る。
「ゆきは、立花さんのこと好き?」
「うん。大好き」
「じゃあ、今日会えて嬉しかったね」
「うん」
わたしは静かに泣き続ける。ココアにひとつぶ、ふたつぶ、涙が混ざる。ふみくんは毛布の端で眼鏡を拭きながら、目をぱちぱちさせる。
「ゆきの大好きはちゃんと伝わってるよ」
「ほんと?」
わたしはふみくんを見つめる。眼鏡じゃないふみくんは、いつもより少し幼く見える。ほんと、と繰り返しながら、ふみくんはふわりと触れる軽いキスをしてくれる。
大好き。陽子のことも、ふみくんのことも。例えば、こうして遠回しに涙の理由を探ってくれるとき。わたしは言葉が上手ではないから、どうして泣いているの、と聞かれても答えられない。そこに気を遣ってくれるふみくんは素敵だなあと思う。ああ、このひとのことが好きだなあ、と感じる瞬間がたくさんある。
もしかしたら、溢れて止まらない大好きをうまく伝えられなくて泣いているのかもしれない。
「今日ね」
「うん」
「陽子が、数年後の話をして」
「へえ」
「数年後にも、当然わたしと一緒にいるような言い方をして」
「…」
「それが、すごく、嬉しかったんだ」
「そっか」
ふみくんは空いている方の手をわたしの肩に回した。それから、頭をそっと撫でてくれた。わたしはココアをひとくち、飲んだ。
「本当に、一緒にいられるといいね」
ふみくんも、ココアをひとくち、飲んだ。眼鏡は諦めたみたいだ。少し幼いふみくんが、隣にいる。
「ふみくんも、一緒にいてね」
「もちろん」
もしかしたら、ずっと一緒にいる自信がなくて、離れるのが怖くて泣いているのかもしれない。
「俺もみんなも、ゆきが思っているのと同じくらい、もしかしたらそれ以上にゆきのことが大好きだよ」
涙はぽたぽたと落ち続ける。でも、心は温かかった。ふみくんの肩に、頭を乗せる。わたしの涙がふみくんの服を濡らす。優しい手が、ゆっくりと頭を撫でてくれる。
この手が永遠であってほしいと、願っている。
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