夕日の見える家
住むならやっぱり、一軒家がいいな。
どうして?
帰り道、疲れて歩いていても我が家が見えてくるとちょっと顔が上を向く感じがするでしょ。
うーん、確かに。
それにわたし、お庭がほしいの。広すぎない、でもひとが寝転べるくらいのお庭。それでね、お花は何にも植えないの。
植えないの?
そう。ただよく草刈りをして、綺麗な青い芝生のお庭なの。よく晴れた休日はわたしとあなたとでそこに寝転んで、思いっきりおひさまを浴びるんだわ。日が暮れてきたら起き上がって、お互いの背中についた芝なんかを払ってあげるの。それから並んで座って、ふたりで夕日が見たい。
なら、夕日がよく見えるお庭じゃなくっちゃいけないね。
そうよ。それでね、お家の中にはピアノがあるの。
それはいいな。君のピアノが毎日聴けるってことだろ。
ええ。でもね、とても小さいピアノなの。コンパクトピアノってやつ。
どうして大きいのじゃいけないの?
だって可愛らしいほうがいいでしょ。しっかり防音の設備と庭を向く窓のある小さなお部屋に置いてあるのよ。弾くのはきっとわたしだけじゃないわ。いったい誰が弾くと思う?
うーん。僕は弾けないしなあ。わからないや。
子どもたちよ。親しみやすい小さなピアノがあればきっと弾きたくなるわ。小さなころからたくさん聴かせて、触れさせてあげたい。弾いたり聴いたり、そこはピアノのためのお部屋なの。他にも小さな部屋がたくさんあってね。
そのなかに書斎はある?
もちろんよ。書斎には天井まで届く壁一面の本棚が取り付けられていて、あなたの本もわたしの本も、それから、低い段には絵本なんかも置いてあるの。
子どもたちが読むんだね。
ふふ。それからね、わたしとあなたの寝室にはとびきり素敵な壁紙を貼りたい。
どんな壁紙なの?
うーん。そうね、星空がいいわ。常夜灯で照らされると本物みたいに見えてきっといい夜になりそう。
本当だね。ねえ、子どもたちのお部屋もあるんだろ?
あるわ。でもそれは、まだ誰にも、どんなお部屋になるのかわからないの。なぜって、子どもたちの趣味はまだわからないからよ。
楽しみだね。そういえば、お庭で夕日を眺めるのは、子どもたちはしないの?
そうね。もちろんいて欲しいけれど…、でも、あなたとふたりの時間も欲しいわ。
綺麗に手入れされた青い芝生の上で、おじいさんとおばあさんが静かに座っている。ふたりは肩を寄せ合って、そっと手を重ねる。
「叶えてくれて、ありがとうね」
ふたりの皺だらけの頬を、赤い夕日が照らす。家の中から微かに、柔らかなピアノの音が響いている。
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