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小説とか詩歌とか

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幻視者になりたい。
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#詩

【詩】証明

【詩】証明

ニホンオオカミの歯形
カストラートが歌う声の響き
纏足靴を脱いだ足の
祈るように曲げられた指
その調香師が死んで
存在しなくなった匂い
ここはいつか更地になる場所
そして誰もがいずれ
ここを去らなくてはならなくなる
かつて喫茶店だった空間から
珈琲を淹れている気配がする
透明な椅子に座り
窓枠のない窓から
景色をながめ
私は待っている
すべては
亡霊のように証明されるだろう

【詩】透明な

【詩】透明な


自販機のひかりがまぶしくて
泣いてしまったことはありますか

冬の畔で
突然
いなくなりたいと思ったことは

死んだひとのホームページを
何度も
何度も
確かめてしまうことはありますか

すべての犬に習性があるように
すべての竜がまぼろしであるように
少女は透明になることを求められる
月のひかりで皮膚がうすく削ぎ落とされ
頭のなかの蜜蜂がつぎつぎ繁殖する

その明滅と雑音を
受け入れている事実

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【詩】氷像

吹雪には吹雪の憂いが
神様には神様のてらいがあり
影すらも青白い氷像が
ひとりでにつくられる

それはあなたによく似ていて
あなたの指紋はしたたり落ちる

(第19回文芸思潮現代詩賞 入選)

【詩】デパート

緑光灯は死化粧のように
デパートを覆い
回転扉から
古い海の匂いがやってくる

家電売り場にいくつも映っている
象牙質めいたトランポリン選手
そのたくましい跳躍のあいだに
私は誰かの死を感じていた

あの日
遠雷があった日
寝具売り場に横たわる
あなたの妊娠線は
この世でいちばん美しいものだった

(第19回文芸思潮現代詩賞 入選)

【詩】変電所

私の背骨が燃える音を
どうかあなたが聞いてください

果実を沈めたくなるような湖に
変電所が埋まっているものだから
虚ろなコインランドリーの乾燥機は
かつて踊りに耽っていたのを
すっかり忘れてしまったようなのです

(第19回文芸思潮現代詩賞 入選)

【詩】少女たちの夜会

【詩】少女たちの夜会

少女たちが鱗粉を顔にぬる
そのために
真っ青な蝶ばかりを死なせている

少女たちは朽ちた式場にあつまり
おおきな鏡が
泉のようになびいている衣装部屋で
薄絹をかさねがさね
ひとつの四阿をつくる
あしたこそ
生まれることのないように
少女たちは祈り
蚕の似姿でねむる
しだいに空が白んでゆくことを
少女たちは悔やむ

いつしか
少女たちは
大人のかたちになる
影をともなう
真っ青な蝶となる

【詩】ナイフ

【詩】ナイフ

生きるたびに
ためらいきずが
ふえる
ローズ・セラヴィの
口紅のような
きずが
わたしの胸に浮かぶ
どうか
致命的にしてほしい
あなたのナイフで

【詩】祭り

【詩】祭り

りんご飴をかじる
薄い硝子がふいにあらわれ
あなたの舌はよく切れる

昔レントゲン室で撮った
わたしたちの写真は
裸になりあった体温までは
写してくれなかったね
緑色の骨はとても熱くて
わたしはあなたの傘を思った
裏庭に埋めるはずだった
金魚がプールを泳ぐ
カルキの匂いにやられる妊婦たちがいる
桃の缶詰に蟻がたかる
今年も夏は死語となり
日射しがあぶらの膜のように
あなたにはりつく

もうすぐ祭り

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【一行小説】リカちゃん人形の分娩室

【一行小説】リカちゃん人形の分娩室

1.灯台から身を投げた女が、まっ赤な人魚となって発見された。

2.解体書にしたがうと、始めに蝶の唇をきりおとしたほうが良いとある。

3.メッキのはがれた回転木馬は、真夜中になると廃線をわたり、本物の馬のつがいを見にいった。

4.あの眼医者は視力検査で昆虫と鳥の種類ばかりを当てさせる。

5.ないはずの四〇四号室が煙のようにあらわれて、さみしいひとを閉じこめてしまうという噂だ。

6.薄いカー

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