2021年6月の記事一覧
【短編】傷口に染みる
くらりときてしまうほどの、血の匂いだった。向かいの患者がまた、自分で自分の身体を切って、ぎゃあぎゃあ喚いている。
「ほら、よく見てくれ、この血を! おれは人間なんだ!」
毛布を蹴りあげて両足を突き出す。脛から指さきにかけて、無数の葉が生い茂り、そのなかに、ぽつぽつと椿の花が咲いていた。彼を押しつける看護婦の腕が、ひとつ、またひとつと増えてゆく。そのうちのひとりに、僕は尋ねた。
「あの、外
くらりときてしまうほどの、血の匂いだった。向かいの患者がまた、自分で自分の身体を切って、ぎゃあぎゃあ喚いている。
「ほら、よく見てくれ、この血を! おれは人間なんだ!」
毛布を蹴りあげて両足を突き出す。脛から指さきにかけて、無数の葉が生い茂り、そのなかに、ぽつぽつと椿の花が咲いていた。彼を押しつける看護婦の腕が、ひとつ、またひとつと増えてゆく。そのうちのひとりに、僕は尋ねた。
「あの、外