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青木夕海
2020年11月30日 22:35
みっちゃんが私の席までやって来て「手、貸して」ってぶっきらぼうに言った。なんか怪しいなって思ったけど、別に拒否する理由もないし。「はい」って、右手を差し出すと、親指に赤い毛糸が巻きついた。「なにやってんの」「さあ、なんでしょーか」「あやとり?」「違う」互い違いに糸をかけて、指をくぐらせ、というのを繰り返していくうちに、最初にかけられた糸が押し出されて、小さな絨毯みたいなのが指の付け根から
2020年11月5日 11:30
父の作ったチェス盤は、知り合いの老紳士のもとに渡り、大酒飲みの彼の息子が質に入れてしまった。たいそうな金額で取引され、息子はがさがさの頬を緩ませながら帰っていった。大金になるのも当然だ。父は屈指のガラス職人なのだ。このチェス盤だって、駒も含めて、全てガラスで出来上がっている。盤の目は互い違いに磨りガラスになっていて、対になっている片方の駒も同じようにきめ細やかに曇っている。 次の来客にも気がつ