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詩のようなもの

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温もりを探すものたち

温もりを探すものたち

傘を刺そうかどうか迷うほどの小雨
水滴に反射するボヤけたネオン

全力疾走する大人
早く渡れと急かす車たち

液晶に奪われたいくつもの目
水やりをサボり続けた心

無機質なコンクリートジャングル
息を吸おうと背伸びした樹

愛おしさを向けたい対象が
ここにはいないような気がして
それでも毎秒毎分心臓は鼓動し続ける

そうだ ここにいた
私は私自身に愛おしさをあげよう
めいっぱい抱きしめてあげよう

東京タワー

東京タワー

惨めだ 哀れだ 儚げだ

抱擁の温度さえも思い出せない夜に
東京タワーは一段と輝いていて
そこに群がる大衆に目眩がした

素直に綺麗だとスマホのカメラで
シャッターを切ればよいものを
右ポケットから出せずにいる

こういうときに
素直に喜べる愛嬌が備わっていたら
私の人生にたった一人で
ここから東京タワーを眺める時間など
存在しなかっただろう

惨めよ哀れよ儚げよ

それでも
今日は湯船で体をぽか

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私はここに

私はここに

私が私であることを証明するのは

親の付けた名前じゃない

合宿までして取った運転免許証でもない

まん丸な惑星の万有引力圏で

軌道の外れをただ自由に飛び回る衛星のように

何にも邪魔されず

何にも染まらず

そうしてやっと私は私で在れるのだ

それが私

それこそが私

すくい

すくい

生きれば生きるほど
どんどん世界が
小さくなっていく気がして

それは“大人になってしまった”
ということなのか

単に“私が世界を限定してしまっている”
ということなのか

そのどちらでも哀しい気持ちは変わらない

『救い』なんて呼ばれるものは
ほんの御守りにしかならない
というのはついこの間知った真実

本当の救いはいつも自分の中に
ひっそり と ずっしり と
佇んでいる

人はそれを神だの仏

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たとえば

たとえば

たとえば

インスタで月蝕の写真が

次々と上げられているようなとき

わたしは部屋で一人日食の映像を

YouTubeで眺めていたり

たとえば

世の女性がせっせとバレンタインチョコに

溢れんばかりの愛を注いでいるようなとき

わたしはプロレス観戦に

熱を燃やしていたり

たとえばあなたが

たとえばきみが

たとえばわたしが

全く反対の行いをしていても

この地球は変わらず同じ方向に回

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すべてよし

すべてよし

そろそろ使命握りしめて走りたい

そう願っても100まで

のんびり生きそうな私の命

まだ20にも満たないあの子の命は

散ってしまって

その残骸は地球に降り注がれた

きっと見えなくてもあの子は笑っている

私たちに明日が来るように

あの子にも新しい明日が来るのだろう

何があっても全てよしとしてください

人生は未知なのだから

永遠のようなもの

永遠のようなもの

永遠を信じてやまない私たちは
その存在のなさに落胆した

この空も
この海も
このざらざらした砂の感触も
そして私たちの関係も

永遠なんてない
それならば永遠のような一瞬を
ポケットいっぱいに詰め込んで
大事に大事にしたい

火の粉にも満たない
一瞬の煌めきに祈りを込めながら
丁寧に丁寧に守りたい

かわいらしいでしょ、私たち

玄関

玄関

おかえり

あなたのためにシチューを
コトコト煮込んでいたよ

ただいま

今日も社会で精一杯生き抜いて
あなたの前でやっと息抜けるよ

いってらっしゃい

今日も私たちにとって
健やかな1日でありますように

いってきます

また今夜会えるのを楽しみに
頑張ってくるね

イタイ

イタイ

ジャンプしたら掴めそうな雲に乗って

風の気が向くままに運ばれて

辿り着いたあなたの国

ぼやけた記憶の森を掻き分けて

思い出したのはあなたが私の隣にいたこと

この世界でわたしとあなたしか持っていない

たったひとつの記憶

知らない花にはあなたの名前をつけて

沈みかけの夕日と3人で追いかけっこをして

ベッドの中で手を繋いで眠った

わたしの声はあなたに宿ってるかな

あなたの声はわたし

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猫

猫は
嬉しかったことしか覚えていないらしい

神さま
眠る前だけでも猫になりたいです

今日の嬉しかった出来事を
丁寧によく磨いて
またいつでも取り出せるように
飾っておこう

今にも手のひらから
零れ落ちてしまいそうな雫を
琥珀の中に閉じ込めて

明日もきっといい日になる

雲とそよ風

雲とそよ風

食べて欲しそうな雲が
目の前を流れていく

そよ風が裸体を
優しく撫でていく

ブランケットはいらない
もうあなたに包まれている

私の前世の人が生きていた時間
変わらず雲とそよ風が
包んでくれていたのかな

惑わされそうなとき
壊れてしまいそうなとき
あなたが私たちを醒まさせて

ウツツマボロシ

ウツツマボロシ

ウツツよ ウツツよ

あなたが通り過ぎたのは
いつ日の夢

背中に背負った
か弱い羽根の残像

眼から溢れるのは
失った言葉たち

マボロシよ マボロシよ

あなたの手に振ってきたのは
いつ日の夢

みんながあなたを囲って
祭りをする

炎の透き通る眼は
見るものを燃やす

ウツツマボロシよ ウツツマボロシよ

ここにいて
ここにいない
どこにもなくて
どこにでもある

ウツツマボロシ

光なかれ

光なかれ

雲を裂くようにして
光が地上に降り立ち
木の枝の隙間から
光を漏らしている

陽の光が苦手なのは
あまりにも美しすぎるから
醜悪な私を見透かすように
照らしてくるから

窓からそっと眺めるくらいが
私にはちょうどいい
木陰からこっそりその美しさを
堪能してるくらいが
私にはちょうどいい

光は平等にみんなへ
当たらなくてもいい
醜悪さを憎んでしまうから

四角

四角

フィルムカメラの四角に納めるのは

びる くも そら もり かわ うみ
時々 ひと ねこ

四角に納まりきれないものは脳のメモリに納める

シャッターを切るその刹那

カチャッ

という音が空気を震わす

きっと空気だけではない

時間をも震わす

刹那を閉じ込めるんだ

カメラは4次元

それを片手に今日も四角に納める