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躁状態ってどんな感じ?
これまで、うつについては結構書いてきたものの、躁については軽く触れるにとどまってきた。なので今日は躁状態がどんなものかについて、当事者の目線でもう少し詳しく書いてみようと思う。自分の体験を元にして書くので、一般的な症例と異なるかもしれない点に留意いただきたい。
私は双極性障害、双極症のために、うつ状態と躁状態を繰り返してきた。
上記の記事にも書いたが、双極性障害とは心の波が激しく動く精神障害の一つだ。うつ状態は困るし、躁状態も困るのだが、あえて躁状態の良い点に言及するなら、圧倒的な自己肯定感と万能感で自分が超人になったような気分になれる。何一つ思い煩うこともない。そして気分だけではなく実際に、滾々と湧き出るバイタリティで超人のように活動ができる。人によっては何日徹夜しても平気だったり、数時間の睡眠で問題なかったりするらしい。
だから、うつ状態の人の力になりたいアカウント(お茶でもいっぱい)さんが以下の記事中で紹介していたように、スマートウォッチで今の自分の状態をモニタリングすることは、自分の躁状態に気づくために結構有効であるらしい。
なぜそんなことが必要なのかと思うかもしれないが、躁状態は自分では気づきづらい。あなたにも、「今日は調子がいいなあ」「なんだか今日は楽しく過ごせてるな」と思う日があると思うが、それが躁状態なのか、本当に調子がいいだけなのかの区別ができるだろうか?
ましてや、人間、調子が良いと内省的になりづらい。自分の状態がどうかとつくづく振り返るのは、むしろ気分が落ち込んでいるときだろう。だから基本的に、躁病に病識(自分が病気であるという認識)はないと言われている。睡眠時間の長短は判断のきっかけになる。
まあ、ただ、私は睡眠をしっかり取らないとてんで使い物にならなくなるタイプなので、残念ながら(?)躁だからと睡眠時間が減ることはあまりない。減るとしても10時間が8時間に減るとかそんな感じ。病識は無かったが、振り返って行動だけ並べると「後から考えればあれは……」ということがあった。
個人的な躁状態の体験を話す。
昔、パワハラによるうつで仕事を退職し休んでいたのだが、ある時躁転した。
私は友達を全部切って、ものすごい勢いで就職活動を行ったあげく、借金して引っ越した。具体的には、5~6社の転職エージェントに登録し、200社以上書類を送り、50社以上面接を受けて何社か採用をいただいた。休職歴を隠したり隠さなかったりしたので、時に面接でバカにされることもあったが、こちらもそういう相手をバカにしていたのでお互い様だろう。結果を気にしてもいいことないので、採用して頂けるかは分からないが、面接担当が私と面談し、笑顔にできれば、それで目標達成だと思って帰ってきていた。
別に就職面接に限らないけれど、「選んでもらう」ために必要なのは、8割運だと思う。運というのは試行回数で叩くしかない。だから就職は数だ。
若干話が逸れるが、こういった採用面接の際、休職歴を隠すかどうかは微妙な問題だ。隠して内定を頂いた企業もいくつかあって、すごく良い会社だったのだが、罪悪感に耐えられず、お断りすることになった。黙って入社してもバレることはまずないのだが、相手が良い人であればあるほど、騙しているようで開き直れなかった。
とにかく、躁状態の時は独特の高揚感と興奮に包まれている。すべての苦悩が消え去り、自己批判的な思考や悲観的な予想がきれいさっぱり消え去って、脳内が晴れ渡り、未来がひたすらに明るく感じられる。見えるものも違う。世界が美しいを通り越して、空を見ただけで落涙するほどの感動に襲われるし、何をしても楽しい。物事を始めると、何時間でも集中できて、気が付くと日が暮れていたりする。生きることはこんなにも楽しかったのかとハッとする。
そして色々なことを思いつく。「あれがやりたい」と思えばすぐに始めて、「失敗するかもしれない」なんて考えない。
仮に私が競馬大好きだったら「絶対に当たる」とか言いながら大金を賭けるだろう。
「未来が明るいとはどうしても思えない」という経験をする人は結構多いと思うが、「未来が暗いとはどうしても思えない」という経験をする人は少ないのではないか。失敗するなんて本当に考えられない。こういう心持で生きるのは、素晴らしい気持ちの良さである。
そう、躁状態の時はエネルギーにあふれ、なんでもできて、気持ちがいい。
だから双極性障害の軽躁状態だけを味わえるなら人類ほとんど幸せになれると思う。これは脳内物質の多寡によって引き起こされるハイな状態で、依存性を感じるほど良い体験だ。以前も書いたが、違法薬物などによって引き起こされるものと似ているように思う(※もちろん試したことは無いが)。私は自己批判的な思考に絶えず襲われているのだが、麻酔を打っている時には止む。それにも似ている。
ただし、躁状態にも弊害はある。ほとんど人が変わったようになってしまうので、色々と益体も無いことをやらかす。
自己批判能力がほぼないので、判断力が鈍り、衝動的な行動に走りやすくなる。性的に逸脱したり、金銭を浪費したり、無謀な冒険に出かけたり、無計画なプロジェクトを始めてしまったりすることもある。そして他人との関係性も変化する。興奮と高揚感に包まれているため、明るくなり人々とのコミュニケーションが円滑になる。自分の意見を強く主張し、周囲を巻き込む力が増しているように感じるが、他人を置き去りにして孤立してしまうこともある。
ちょっとしたことで怒りを示し、人間関係をめちゃくちゃにしてしまうことだってある。
それでも、自分の躁状態に気づくことは難しい上に、「(軽)躁状態の自分こそが本来の自分」と思う人もいる。双極性障害の人は再発を防ぐため、基本的には一生炭酸リチウムという薬を飲んで躁うつの波を穏やかにしていく必要があるが、一度躁状態の良さを知ってしまうと、あの時に戻りたいと思ってしまう。私も自分の苦しみを和らげるため、できたらずっとちょうど良い躁状態でいたいが、それが難しいことも知っている。
とここまで書いてきたように、躁もうつも、まさに波であって、基本的には薬などの助けを借りながら耐えていくしかない。周囲が力になれることも少ないと思う。躁状態の時不用意に近づいていくと、跳ね飛ばされる恐れすらある。だから前に別の記事でも書いたが、周囲にできる一番大きなことは見守ることだろう。
双極性障害で人生がめちゃくちゃだと嘆く人は多いし、私も前向きに考えることは難しいが、それでも生きていくしかない。そのうちさらに良い薬が出来るかもしれないし、明日何が起きるか分からない人生においては、明日に希望を持って生きていくことが大事だと考えている。
ポジティブに考えれば、普通の人は一生体験しない躁という経験もできているので帳消し……にはならないだろうが、そういう個性だと思って受け止めている。もちろん私よりもだいぶ重い症状の人もいるだろうから、手放しに楽観的にはなれないことも理解しているが、それでも、この記事が、当事者や周りの方にとって、少しでも悲観的にならず、自分や人生を肯定的に見るきっかけになれたら嬉しい。
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