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MaaSが日本で展開するには?①ー日高洋祐他「Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命 ―移動と都市の未来―」ー

MaaS ーMobility as a Serviceー

公共交通や自動車、自転車などの交通手段をモノで提供するのではなく、検索や予約、決済までを一括したサービスとして提供しようとするものです。
以前、下の記事でMaaSに関する本を紹介しました。 

今回紹介する本はその続編です。
ボリュームがあるため前編と後編に記事を分けており、今回は前編です。

本書の伝えたい(と考えられる)こと

本書は日本での参入を促すことをとても意識しているように感じます。
そこには大きく2つのポイントがあると思います。

■MaaSの収益化
MaaSは単体では収益化が難しく、ビジネスモデルが見えづらいように感じます。そこで収益化のポイントとなるのは他業種との連携です。他業種との連携例に多くのページを割いているのはそのためかと思います。このような例を示すことで収益化へのアイデア発想を促す狙いがあるように思います。

■国内でのMaaSの先例
前作では、参入している企業は紹介されていましたが、具体的な取り組みについてはあまり触れられていませんでした。そこから1年あまり経ち、新規参入や実証実験、事業例も出てきています。本書ではそれらについて具体的な取り組みを紹介しています。
特に大企業の参入が紹介されており、MaaSが単に目新しいコンセプトというイメージではなく、社会の転換であるという印象を与えていると思います。このように先例を示すことで参入を促そうとしているように感じます。

 本書でも書いてある通り、MaaSの発展には多様性を持った生態系が形成されることが必要です。同時にそういった生態系が形成されなければ、ビジネスとして収益に繋がらないことも意味するように思います。このような背景から、様々な企業の参入を促す目的があるように感じます。

前作との違い

前作ではMaaSのコンセプトといった基本的な内容を説明しています。
本書は前作への反響やMaaSを取り巻く状況の変化に伴って、タイトルにある通り基本的なMaaSの「その先」に重きを置いています。

本書の目的として、

マルチモーダルのMaaSアプリを提供することが「目的化」するのではなく、そこで構築した交通版デジタルプラットフォームを「手段」として、全く新しいビジネスを創出し、社会的な価値を最大化していく

ことをゴールとすることが書かれており、「Deep MaaS」と「Beyond MaaS」の2つのコンセプトを示しています。

Deep MaaS:都市や地域の交通の最適化や再構築といった社会やユーザーの課題を解決し、ビッグデータといった先端技術を活用して新しいビジネススキームを生み出すこと。
Beyond MaaS:モビリティ産業と異業種連携における新たなビジネスモデル。

最終的にこの2つのコンセプトは、スマートシティの構築といった大きな社会変化につながっていくものだと思います。

本書の構成としては大まかに下のようになっています。
 1~3章:国内外のMaaSの最新動向
 4章:実践・応用編としての「Deep MaaS」、「Beyond MaaS」
 5~6章:交通・自動車業界のアクションプラン
 7章:異業種連携のビジネスアイデア
 8章:MaaSとスマートシティ

MaaSに関連する日本の事情と課題

■日本の交通事情
日本と欧米ではの公共交通をめぐる事情の違いがあります。ヨーロッパでは、公共交通のインフラ整備は公費で行われ、運営も民間企業に委託されるものの、原資は税金でまかなわれていることが多いようです。それに対して日本は、すべてを民間企業が担っているわけではないものの、民間資本が海外に比べて多く、インフラ整備を含めて民間が自己資本でまかなうことが普通となっています。
欧米では公共交通は黒字化が難しいため税金で支えるのが普通です。しかし、日本は民間が自己資本で担うことが多いため、公共交通とそれ以外の事業で収益化してきました。そのビジネスモデルは公共交通と都市開発を一体として行うもので、近年再評価されています。
しかし、この日本の方式もメリットばかりでなく、デメリットもあります。例えば、都市部では競争によって協調が進みづらい部分があったり、また地方では収益化が難しいことから公共交通の空白域が存在したりといった問題です。

■MaaSに関する制約
MaaSのような多様なモビリティサービスを展開する上で、下に挙げるような法律が制約となる可能性があるとしています。

道路交通法、貨物自動車運送事業法、道路運送車両法、道路交通法、鉄道事業法、鉄道営業法、旅行業法

さらに、日本の法体系にも欧米と違いがあり、それも制約になりうる可能性があるとしています。欧米はネガティブリスト方式という例示されたものは認めないがそれ以外は合法という形ですが、日本はポジティブリスト方式という例示されたもの以外は認めないというものです。つまり、この法体系では新しいものに欧米より柔軟な対応がしにくいという状況があります。

■MaaSに関する政策
これまで政府は次世代交通というと自動運転という政策をとっていましたが、最近は流れが変わってきており、MaaSの方が優先課題となってきているようです。そのような流れから、下に挙げたようなMaaSに関連する政策がオーソライズされています。

自家用有償旅客運送制度の拡充
タクシーの利便性向上
MaaS支援
交通結束点等のインフラ整備

MaaS発祥のフィンランドでは、CO2削減と渋滞緩和による都市環境の改善が目的とされていますが、日本版MaaSとしては、

人々の外出や旅行など移動に対する抵抗感が低下することで、移動・交流意欲が高まり、健康が増進され、まちや地域全体も活性化し、豊かな生活を実現することが、日本版MaaSが目指すところである
引用:国土交通省|都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会中間とりまとめ(https://www.mlit.go.jp/common/001279833.pdf)より

というようになっています。
つまり、日本の政策上のMaaSの目的としては、健康増進、地域活性化、生活の質の向上が挙げられています。

■国内のMaaSプレーヤー
上にのべたような制約や課題がありますが、現在以下のような企業がMaaSの実証実験や導入を進めているそうです。

 トヨタ自動車、西日本鉄道、JR九州:「my route」
 JR東日本、日立製作所:「Ringo Pass」
 小田急:「EMot」
 東急:「Izuko」
 JR西日本:「setowa」 


MaaSの実践・応用編や交通・自動車業界のアクションプラン、異業種連携のビジネスアイデアについては後編で紹介したいと思います。

表記のない本記事内での引用:日高洋祐他|「Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命 ―移動と都市の未来―」より

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