見出し画像

午前一時のモンテカルロ

昨夜テレビからnobodyknows+の『ココロオドル』が流れていた。
今日事務所のラジオからはWhiteberryの『夏祭り』が流れている。

今年はプールにも行けないし花火大会もお祭りもない。
それでも日差しが強くなると例年通り生まれる高揚感。

事務所は都会のど真ん中にあるのに緑に囲まれていて、セミの鳴き声がうるさい。毎日定時まで仕事して残業せずにまっすぐ帰る。単調で平凡。だけど穏やか。

今日は夏休みに入る前の出勤最終日。
明日から休みとなると、今まで後回しにしていたことをいきなり思い出す。Netflixのマイリストを消化しようか断捨離をしようか掃除をしようか。

結局いつも見ているドラマを二、三話ダラダラ観たところで12時を回った。
そろそろシャワーでも浴びようかと洗面所へ向かうとポーチに山盛りになったコスメが目に付いた。

一軍のコスメが詰め込まれた持ち歩きようのポーチの隣にあるのは、二軍以下のコスメがひしめく大きなコスメボックス。

数回使っただけの派手なアイシャドーや何年前に買ったかも分からないリップ。まつ毛エクステを始めてから使わなくなったマスカラは水分を失ってパサパサだった。

使わないものを袋に入れている時、シャネルの口紅を見つけた。
シャネルの口紅は何本か持っているけど、その口紅はパッケージに細かい傷が付いてて蓋のすぐ下にあるゴールドのラインもハゲていた。

蓋を取って繰り出してみると、ラメ入りのちょっと濃いピンクの口紅。
大学生の時に付き合ってた彼が誕生日にくれたもの。

シャネルとは程遠い、スケートボート片手にフーディーにルーズなデニムを合わせて着ているような男の子だった。

誕生日プレゼントはモノ自体よりも、購入に至るまでのストーリーが愛おしい。

女性ばかりの百貨店の化粧品売り場に一人で乗り込んでBAのお姉さんの話を聞きながら選んでくれたことを想像する。

ストーリーが愛おしいからこそ、もらったモノを愛せる。

口紅の名前は”モンテカルロ”。華やかだけど上品で、それでいて大胆。
そんな色が似合うと思ってくれたことが嬉しかった。

でもいつか身につける回数も減って、彼との会話もぎこちなくなった。
そしてぎこちなさに耐えきれずに、静かにどちらからともなく終わった。

別れるきっかけになるようなトラブルがあったわけではない。
きっと、トラブルが一つも生まれないことがすでにトラブルだった。

結局使い切ることなく7年越しに発見されたモンテカルロ。

試しに唇に塗ってみたけど、不思議と似合わなかった。
もともと似合っていなかったのか、似合わなくなってしまったのか。

私は一生使わないであろう黄色のアイシャドーや乾燥したマスカラが入った袋の中に口紅を入れた。

なんだか埋葬するような気持ちだった。

さようなら、モンテカルロ。

もう私にこの色は似合わない。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?