Yayoi
六本木は雨が降り始めていた。 五分袖の黄色いモヘアニットじゃ少し寒い。 待ち合わせしてるお店に一番近いのは何番出口なのか、事前に調べずに向かった私は改札を出てから黄色い案内地図の前で足を止めた。 LINEで送られてきた食べログと案内地図を見比べながら向かうべき出口を探す。その時電話が鳴って書き慣れた声が聞こえた。 「着いたよ、六本木ヒルズにいる」 ヒルズに繋がっている1C出口から出たのかな。 私が見るには3番出口が近い気がするんだけど。 「ヒルズか、じゃあ一緒に行こ
「週末は予定あるんだ」 そっとLINEを閉じる。 6、7年前は毎日連絡を取っていた。一日も欠かすことなく。 それでも私たちは恋人ではなかった。恋人ではなかったけれど確実に特別な何かが私たちの間を繋いでいた。 出会いは奇妙だった。 新宿のホテルの一室に集まった私と彼を含めた6人は4枚のLサイズのピザとコンビニで買ったお酒をたくさん飲んだ。嫌な記憶を全部洗い流すように、あるいはこれ以上ないくらいのどん底まで向かうように。 1人の女友達を除いてあとは全員知らない人だった。
綺麗に巻いた髪の毛も完璧なメイクも、一歩外に出ると暑さとマスクのせいで台無しになってしまう。 水があるところに行けば少しは涼しい気分になると思った。 だけどそんな期待は簡単に打ち砕かれる。 オーブントースターに閉じ込められているような暑さ。 じりじりと肌を焼かれるような暑さ。 天王洲運河が見えるテラス席を予約したけど、暑さに耐えきれそうもないので室内の席に変更してもらった。 三人でランチをする。 女友達とその子が連れてきた男の子。 恋の予感はしなかった。 恋の予感が
昨夜テレビからnobodyknows+の『ココロオドル』が流れていた。 今日事務所のラジオからはWhiteberryの『夏祭り』が流れている。 今年はプールにも行けないし花火大会もお祭りもない。 それでも日差しが強くなると例年通り生まれる高揚感。 事務所は都会のど真ん中にあるのに緑に囲まれていて、セミの鳴き声がうるさい。毎日定時まで仕事して残業せずにまっすぐ帰る。単調で平凡。だけど穏やか。 今日は夏休みに入る前の出勤最終日。 明日から休みとなると、今まで後回しにしていた
いつまで子供だったのかな、と装飾もロゴもないシンプルすぎるプラスチックパッケージの口紅を眺めて思う。 こんな白みの強いピンクなんてもう使わない。 断捨離にハマっていて、自分の部屋からたくさんの思い出の品を処分している。もう着ない洋服、もう見返さない参考書、床を占領するだけのガラクタたち。今はどれからも「生命力」を感じない。当時のまま時間が止まっている。 26年間生きていたら思い出と共に物はどんどん溜まっていく。思い出は場所を取らないけど、物を取っておくのは限界がある。
ペディキュアは剥げて、右手人差し指の爪は折れてる。ネイルをするのは自分の機嫌を取るためだとか言っておきながら全く手入れが行き届いていない。 もうネイルサロンにもマツエクサロンにも行けないけど、ペディキュアぐらいは自分で塗れる。 人に会わなくなると身体の手入れをサボってしまう。でも外出自粛のおかげで紫外線を浴びずに済んでるから将来出来るのシミは数は少なくなったはず。 世の中は世紀末みたいな雰囲気で街はゆるやかに死んでいってる。このままゾンビアポカリプスでも起きそうで、朝も
年が明けても特に変わったことはない。 小さい頃はクリスマスも年が変わることも、特別なことだった。 だけど今は、あの時当たり前だった大切な人と過ごす時間が本当特別。 付き合い続けている人のことを「大切な人」だと認識するのは時間がかかる。しかもちょっと照れくさい。 プライベートでの遅刻癖は2019年も直らなかった。 突然人を突き放してしまうところもペディキュアは絶対に赤しか塗らないところも、もしかしたら一生そのままかもしれない。 私はきっと何も変わらないんだろうと思う。
まっすぐ帰るのは勿体ない気がした。 「9時の電車に乗るから」と言われ落ち着く間も無く丸の内の丸善のカフェでオムライス食べて、そのままオアゾを出たところで傘を忘れたことに気が付いた。 「傘忘れちゃった」と言うと「じゃっ」と手を振り東京駅へ行ってしまう友達。まあ彼は急いでる訳だし仕方ない。丸善に戻って受け取った傘は店員さんが乾かしておいてくれたおかげで一滴も雨粒が残っていなかった。さすが日本一の本屋さん。 せっかくひとりで帰るなら大手町まで歩こうと思い、東京駅に背を向けて歩
3億年ぶりくらいに嫉妬をした。 EnvyじゃなくてJealousって感じの方。あの心臓バクバクで一瞬サッと血の気が引いてあとからモヤモヤメラメラしてくる感覚が久しぶりすぎてものすごく戸惑った。 そういうの全く聞きたくないからもうこれから一切話さないで、とは言ったものの、あれ?これってもしかして私が突き放した形になってる?離れていっちゃうパターン?って考えるとどうすればいいのか分からない。 とりあえず寝ようと思っても眠れなくてずっと考え続けた。考えても答えは出ないし、問題
深夜の長電話が好き。 自分の部屋にこもって親に言えないことをたくさん友達と話す。学生の頃は平気で4〜5時間話して、気付いたら窓の外が明るいなんてことよくあった。 今考えるとよくあんなに話すことがあったなと思う。学校で毎日一緒にいて、放課後も遊んで、家に帰ってからも長電話する。親には「いい加減にしなさい」って怒られて、携帯料金の請求書が届くと再び小言が始まる。 LINEも無料通話できるツールも無かった時は本当に通話料が大変なことになってた。通話時間は一瞬に感じても通話料はち
もしこのまま死んじゃったら後悔するかな?いや、しないな、と台風の夜に思った。 10月なのに台風なんて、本当に変な気候。 だけど確実に冬は近づいて来ている。夜はもう寒いしコートを着てる人も見かける。 歳を重ねるにつれてどんどん冬が好きになる。 前までは断然夏派だった。 7月に入った途端、浜崎あゆみのJuly 1stだってSigmaのNobody to loveだって聴いてしまうしプールだって海だってお祭りだって行きたかった。 誰かの一夏の思い出に巻き込まれるために。
新宿で待ち合わせするのに慣れてきた。 仕事を終わらせてヨレたファンデーションと取れた口紅を速攻で直して、電車に飛び乗る。 最近暗くなるのが早くて少しだけ寂しい。秋の香りはティーンエイジャーに戻った気で目一杯遊んでた社会人2年目を呼び覚ます。 若干ノスタルジックでセンチメンタルな気分になりながら三連休最終日の空いている都営新宿線に揺られ、着いた先は「新宿三丁目」。 また来てしまった、新宿。 新宿三丁目はJR新宿駅ほど嫌な気分にはならない。 やっぱり人は多いし臭いけれど、
部屋の掃除をした。 私にとって掃除をすることは、ほぼ「モノを捨てること」。 「捨てられない症候群」の私にとって一気に掃除することは本当に体力がいる。だから毎回、一つの場所に絞ってそこから徹底的にいらないものを捨てるのだ。 私の部屋は半分、衣装部屋と化している。もちろんベッド、本棚、机など家具はそのまま置いてあるけれど、そこにプラスしてクローゼットに入りきらなくなった洋服を別の背の高いハンガーラックに掛けており、さらに「見せる収納」と題してシューズボックスにピンヒールやスニ
なんで私は火鍋が食べたいって言ったんだっけ?と思いながら人波をかき分けて新宿駅東口に出た。 駅前のビルの温度計は29度。 今日は8月31日。夏はもう終わる。 先週あたりからすでに秋の匂いがしていた。 大抵何かが終わる前には、すでに次のものはやって来ている。 渋谷に続き新宿って街は本当に最低で、土曜の夜で人は多いし臭いし道は分かりにくい上に吐瀉物だって平気で転がっていて、不快感しかない。 そんな街を急ぎ足でとっとと進み、着いた先は空調が効いてるのか効いてないのかイマイ
最近新しい口紅を買ってない。 家には何年前に買ったかも分からない数回しか使用していない口紅が大量にある。 私はひとつの場所にまとめて全ての口紅を置いておくことが出来ない。出掛ける時にカバンに入れて、次にそのカバンの出番が来るまで中に放置するなんてことだってよくある。 だからカバンを開けると必ずと言っていいほど探していた口紅が出てくる。そしてそっとメイクボックスの中に戻すのだ。 家にある口紅の中には、「婚活リップ」のエスティーローダーの01やオペラの05もあるけどそれら
久しぶりに銀座で焼肉を食べた。 一人焼肉をするのは本当に久しぶりで、なんだかんだ銀座でご飯食べるのも久しぶりだった。 窓際の席に案内されて11階からの眺めを堪能しようと思ったけれど、窓からの景色は銀座と聞いて想像するような景色とは完全に異なるもの。 キラキラ銀座中央通り♡ってよりは細長い灰色のビルがぎゅうぎゅうに並んでいて曇り空のせいかどんよりした雰囲気。 だけど一人が大好きな私にとって(独りはNG)自分のペースでご飯を食べられたり、買い物できたり、まつげエクステとネ