あげない

いつまで子供だったのかな、と装飾もロゴもないシンプルすぎるプラスチックパッケージの口紅を眺めて思う。

こんな白みの強いピンクなんてもう使わない。

断捨離にハマっていて、自分の部屋からたくさんの思い出の品を処分している。もう着ない洋服、もう見返さない参考書、床を占領するだけのガラクタたち。今はどれからも「生命力」を感じない。当時のまま時間が止まっている。

26年間生きていたら思い出と共に物はどんどん溜まっていく。思い出は場所を取らないけど、物を取っておくのは限界がある。

ゴミ袋にまとめた洋服たちは何だか不吉なものに見えてきた。今までどうして取っておいたんだろう?と突然の患者モード。


26歳というのは、もしかしたらもう若くないのかも。物は手に入れるよりも捨てることの方が多くなった。何かを手に入れたら何かを捨てる。

自分の立ち位置もなんとなく分かってきた。
言葉に込められたもう一つの意味とか、本音と建前とかも。


ギリギリ若くて、ギリギリ若くない。
そんな貴重な時間の中にある1ヶ月半はコロナによって奪われてる。
いつまでこの状態が続くのか分からないけど世の中が止まってしまうなら、ついでに時間も止めて欲しい。
タイムイズマネー。1ヶ月半という失われた時間は10万円では割に合わない。

女性の年齢はクリスマスケーキと同じだという『クリスマスケーキ理論』の上では、私はもう“旬”を過ぎている。
「人生100年時代」なんて言われる中、24歳と25歳がピークだなんて残りの70数年は山に篭って細々と生きていく他ないのではと思ってしまう。

もし100年ぴったり生きられるなら24,5歳なんて小娘なはずなのに。
自由に使えるお金がちょっとだけ増えた小娘。

『クリスマスケーキ理論』上、私は今、ひとりでパーティーの後片付けをして年末に向かっている訳だけど、年末を迎えた後やってくるのは?もしかしたら31歳を超えたら人生終わるの?

スパッと終わってしまうなら仕方ない、でも簡単に終わってくれるほど甘くない。事故や病気で亡くならない限り人生は続いてく。

20代から30代になった時、周りの人の態度が少なからず変わったことを実感するかもしれない。異性、社会。歳を取るというか生きること自体、何だか「悪」みたいに感じる。


12月31日の0時を過ぎたらやってくるもの。新年。お正月。だったらそれも年齢と同じ。

32歳になったらあけおめことよろ、新しい人生の幕開け。30代か、って暗い気持ちになるよりも32歳からハッピーニューイヤー。

みんな大好きクリスマスケーキよりも通な人だけ好いてくれる大人の味、おせち料理。嫌いな具は誰かにあげるかポイして、好きな具だけ詰めてネクストステージへ。年齢と共に賢くなって自分を築きたい。

19歳の頃も「20歳か…」って嬉しいような切ないような気持ちになったけど、あの頃よりも今の方が断然楽しいし、ちゃんと人生楽しめてる。だからきっと今より30代の方が楽しいはず。

Life is a partyで好きな人だけご招待、ぶっ潰れるまで踊りたい。


子供から大人になる決定的な瞬間はなくて、徐々に「大人ゾーン」へシフトしていつの間にかこんな場所にいる。「大人ゾーン」に移動させられてしまった今、振り返ると高校生の終わりから大学生にかけて何か与えられることや助けてもらうことがだんだん減っていった気がする。

今まではボヤボヤしてても次から次へと「これやって!」「これあげる!必要でしょ!」みたいに色んなものがどこかの誰かによって与えられてきたけど、突然、一人でやってみてね、全部。ってその誰かがフラッといなくなってしまった。

生まれたての子鹿並みにガクガクの足で転んだりしながら無理やりひとりで立つ練習をさせられる。

あ、これから自分の足で歩かないと本当に置いていかれるんだなと思った。
自由を手に入れたというより、放り出された感覚。大学に進学するのかしないのか、大学を卒業してからどうするのか、全部自分で決めなきゃいけない。

それらを乗り越えて、いざ働きますとなった時(働いてからもだけど)今度はいつの間にか自分が与える側になってることに気付く。

お前は一体全体何ができるんだ?何を与えられる?って椅子に縛り付けられて身動き取れない中、至近距離で顔面に唾飛ばされながら四六時中怒鳴られているような感覚。「与えられるもの」を必死に考えて絞り出すけど、私が与えられるようなものってもう間に合ってるようなものばかりだなあとぼんやり思う。

一人の人間として社会の中で生きるには、ずっとどこかの誰かや何かに与え続けなきゃいけない。そしてその対価としてお金をもらう。
お金で大抵のものは手に入って、大抵の不幸は回避できる。大抵のことは解決出来ちゃう。
出来ちゃうからこそ、お金で買えない欲しいものがハッキリ浮き彫りになってちょっと悲しくなる時もある。

海の向こうに浮かぶ小さな島みたいに。その島のことは知っていて、行ったことがあるって人もたくさんいる。だけど私はその島に行ったことはないし行く手段も知らない、むしろ本当に存在してる?みたいなね。

あの頃欲しくて手に入れたプラスチックのパッケージのピンク色の口紅は今じゃ何本だって買えるし、1本7000円以上するエルメスの口紅だって平気で買う。

あの頃欲しかったのはお金で買えるもの。
今欲しいものは、お金と等価交換出来そうもないもの。

もしかしたら、一番欲しいものって一生手に入らなかったりするの?



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