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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その6

植物の画家・福田豊四郎 作品リストによると、今回展示されている福田豊四郎の作品で最も初期のものは、大正十二年の『はなびわのかげ』。 弱い日差しのようなアイボリー…

菅野康
4か月前
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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その5

福田豊四郎と堀文子の鳥について。 福田豊四郎の猛禽を書いた作品は二点。 『八幡平』『平原』。 『八幡平』の方は、まさにウサギを仕留めた瞬間。 草むらに突きこまれた…

菅野康
4か月前

名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その4

一か月以上開いてしまいましたが、ようやく後期展示を見てまいりましたので、続きを。 福田豊四郎『山の秋』 人間の胴ほどもある大きな黄色い葉。大胆に広がって重なり合…

菅野康
4か月前

三甲美術館『女流画家展』と常設展示・その2

上村松園『春駒』 名都美術館にも上村松園の春駒図はありますが、こちらは扇面。 春駒は、新春の門付からお座敷の出し物にもなった芸。縁起物の画題なので、初釜の茶室の…

菅野康
5か月前
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三甲美術館『女流画家展』と常設展示・その1

先週、岐阜・柳ケ瀬画廊の『熊谷守一展』を見に行ってきました。 その際、画廊の方が「とても良い美術館がありますよ」とお話してくださったのが、三甲美術館でした。 岐阜…

菅野康
5か月前
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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その3

そろそろ展示替えでしょうか。 こんなペースで間に合うのかしら。 堀文子『紫の雨』 (この絵の記事、別垢に移転しました) 福田豊四郎『六月の森』 森の緑は、梅雨と…

菅野康
5か月前
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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その2

前回の続き。 堀文子『廃墟』 「震災を経験し、実際に目にした廃墟にて、何事もなかったかのように歩むカマキリに深い印象を受けた」旨の解説を聞いて、いささか恐ろしい…

菅野康
5か月前
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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その1

去る四月十四日、学芸員ギャラリートークを拝聴しつつ観覧してまいりました。 感じたことなど、思い出しつつ書いていきたいと思います。 堀文子『山』 盛り上がった山塊…

菅野康
5か月前
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悪から遠ざけるもの

介護現場での虐待が報道されることがあります。 自分も、虐待をしそうになったことがあるので、それについてここに書きます。 ずいぶん前、介護の仕事をはじめて間もない…

菅野康
6か月前

イースター(復活節)に考えたこと

洗礼を受けたころ、 ミシェル・クオスト『神に聴くすべを知っているなら』 という本をいただきました。 詩集というべきか、祈りの本というべきか。 著者の祈りや、切実な訴…

菅野康
2年前
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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その6

植物の画家・福田豊四郎

作品リストによると、今回展示されている福田豊四郎の作品で最も初期のものは、大正十二年の『はなびわのかげ』。
弱い日差しのようなアイボリーの背景に、ふわりと緑色の香りをまとったような葉が茂り、その傍らに小さな白い鳥が憩う。
最も晩期のものは昭和四十五年の『紅蓮の座・池心座主』。
トロリとした池の水面を思わせる、濃い青緑の背景に、蓮の花、蓮の葉。花は花芯に、葉は蜜のような雫の

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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その5

福田豊四郎と堀文子の鳥について。

福田豊四郎の猛禽を書いた作品は二点。
『八幡平』『平原』。
『八幡平』の方は、まさにウサギを仕留めた瞬間。
草むらに突きこまれた太い脚の先は見えない。
断末魔の叫びをあげるウサギの頭だけが、葉の間から覗いている。
空気を叩きつけるように翻る羽根は、刀のような鉄の色で、見えない爪の鋭さと残酷さを暗示しているみたい。
なのに、画面の下三分の一は、日差しのように明るい

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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その4

一か月以上開いてしまいましたが、ようやく後期展示を見てまいりましたので、続きを。

福田豊四郎『山の秋』

人間の胴ほどもある大きな黄色い葉。大胆に広がって重なり合い、画面を支配しているかのような描写は、まるで秋に色づいた葉というよりも、黄ばんだ秋の日差しそのものであるかのよう。
秋の日差しは照り付ける日光というよりも、静かに流れ込むように空気に満ちて、何もかも黄色く赤く色づけていくものだから、そ

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三甲美術館『女流画家展』と常設展示・その2

上村松園『春駒』

名都美術館にも上村松園の春駒図はありますが、こちらは扇面。
春駒は、新春の門付からお座敷の出し物にもなった芸。縁起物の画題なので、初釜の茶室の掛物などには、さぞ映えることでしょう。
ここでは、洋式の展示室をちょうど出るあたり、白い柱に額装されてかけられていますが、それでも扇面という形から、初春の穏やかな風が薫るかのよう。
女流画家展の〆ともいえる場所にありましたから、たっぷりと

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三甲美術館『女流画家展』と常設展示・その1

先週、岐阜・柳ケ瀬画廊の『熊谷守一展』を見に行ってきました。
その際、画廊の方が「とても良い美術館がありますよ」とお話してくださったのが、三甲美術館でした。
岐阜現代美術館に篠田桃紅を見に行く予定だったのですが、知らなかった美術館を教えていただいたことが嬉しくて、予定変更、さっそくおうかがいしました。

金華山と百々ヶ峰の間、長良川を見下ろす山腹に、緑に囲まれてある、落ち着いた雰囲気の建物で、対応

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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その3

そろそろ展示替えでしょうか。
こんなペースで間に合うのかしら。

堀文子『紫の雨』

(この絵の記事、別垢に移転しました)

福田豊四郎『六月の森』

森の緑は、梅雨となれば、湿気をたっぷりと含んで、
光まで吸い込むように濃くなって、それを滴らせるように葉先をたらします。

だけど、ここに描かれた森はまだ明るいので、まだ梅雨は来ていないのでしょう。
でも、こんなに視界がぼやけて緑色に染まっているの

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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その2

前回の続き。

堀文子『廃墟』

「震災を経験し、実際に目にした廃墟にて、何事もなかったかのように歩むカマキリに深い印象を受けた」旨の解説を聞いて、いささか恐ろしい想像をしてしまいました。
さわやかな色調に、白ばむほどに明るい画面なのに、生命がやたら遠くあるように見えます。
茶色がかった白く四角い建物は、棺のようでもあり。
太くうねる茎に、大振りの盃のような真っ白の花は、骨のようでもあり。
山ブド

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名都美術館『福田豊四郎と堀文子』展・その1

去る四月十四日、学芸員ギャラリートークを拝聴しつつ観覧してまいりました。
感じたことなど、思い出しつつ書いていきたいと思います。

堀文子『山』

盛り上がった山塊は、黄泉の国に至るまで根を張っており、自分の足元の地下にまでその裾が広がっている気がして、その奈落の底から伸びてきたような樹は、生臭いほどに赤く、まるで脈打つ血管のよう。
そんな印象から、片岡球子作品を思い出されました。
干支が一回り違

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悪から遠ざけるもの

介護現場での虐待が報道されることがあります。
自分も、虐待をしそうになったことがあるので、それについてここに書きます。

ずいぶん前、介護の仕事をはじめて間もない頃のこと。
一通りの手順は覚えたものの、段取り良くすすめることなど夢のまた夢、むしろ慣れない所作に、体の痛みや精神的なストレスの方が勝る有様で、はたして仕事としてやっていけるのかどうか、それすら考えられませんでした。

その日も、私の仕事

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イースター(復活節)に考えたこと

洗礼を受けたころ、
ミシェル・クオスト『神に聴くすべを知っているなら』
という本をいただきました。
詩集というべきか、祈りの本というべきか。
著者の祈りや、切実な訴えがつづられ、その中には
著者の言葉にイエズスが応える、という型式のものがありました。
今回、思うところあって、この一文を記すに際し、
自分もその型式に倣います。

私は以下のように祈った。

イエズス、
自分が働いているのは介護老人保

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