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連載小説《アンフィニ・ブラッド》第6話

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「見つけたぞ」
 目の前の女に向けてそう言った後、統間ジエムは拳銃を構えることを躊躇った。
 その女は、ジエムが殺人犯だと目をつけている女と同じ容姿だ。しかし、どこか様子がおかしい。
「お願い、助けて……!」
 俯き、固く目を瞑り、祈るように声を絞り出すその女は、あの時ジエムが見た殺戮を繰り返すような女とは全くの別人だ。出血の続く右腕を押さえ、何かに脅えたように身体を震わせている。
「お前……」
 ジエムはその女──神戸シオンに駆け寄り、傷だらけの身体を支えた。突然身体を触れられたシオンはビクッと身体を震わせる。
「この傷……どうしたんだ」
 シオンの右腕と左足からは、絶えず血が流れている。
「あ、あなた……」
 ジエムの顔を覗き見、怯えたようにシオンが口を開いた。
「あなた、ノワール系の追っ手じゃないの……?」
「……ノワール系?」
 シオンのその言葉に、ジエムは首を傾げる。
「そうじゃないとしたら、あなたは一体──」
 シオンが言葉を続けようとした時、遠くで銃声が一発響いた。シオンの身体がビクンと跳ねる。
「話は後よ! 今は逃げなきゃ……!」
 傷を負った身体にむち打ち、シオンは立ち上がる。
「待て! 全く状況が掴めねぇ。お前は何から逃げてんだ?」
「今はそれを説明してる時間はないわ! 逃げなきゃ!」
「待ってくれ、ちゃんと説明を──」
「いいから逃げるのよ!」
 シオンの剣幕に圧倒されたジエム。
「チッ……! 何がどうなってんだ!」
 苛立ったようにそう吐き捨て、シオンの身体を支えながらその場を後にした。

 *
 
「シオンさんと、あれは一体、誰...…?」
 物陰からふたりの様子を見ていた倉矢アンジュは、傷だらけのシオンが見知らぬ男と共にいることが不安でたまらなかった。
「私も行かなきゃ……」
 ふたりを追いかけようとした、その時。
「どこに行くんだ?」
 アンジュの背後で、男の低い声がした。
 
 その声の持ち主──庵武ユイは、氷のように冷たい瞳を携えて倉矢アンジュに銃口を向けていた。


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