見出し画像

連載百合小説《とうこねくと!》東子さまにしか言えない過去(1)

 前話はこちらから↓


 みなさん、こんにちは。北郷恵理子です。
「恵理子ちゃん!」
 今、私の名を呼んでいる奥さま──神波東子さまの付き人をやってますが……
「ん……」
 私は一体どうしたのでしょう……。名前を呼ばれ、目を開けたその先には、今にも泣きそうな表情の東子さま。
「あれ……私は……?」
 私は自室のベッドに横になっていました。私のすぐそばに、東子さまはいました。
「恵理子ちゃん! 大丈夫!?」
 東子さまは私の手を握りしめています。こんなに血相を変えた東子さまを、私は見たことがありません。
「東子さま、私は……」
 私は記憶をたどります。東子さまの着ぐるみバイトに行って、東子さまとお話をしていて……その後の記憶がありません。
「急に倒れたからびっくりしたのよ……。具合はもう大丈夫?」
 なおも心配そうに私の顔をのぞきこんでくる東子さま。私は「大丈夫です」と微かに笑いました。
 
 *
 
 ベッドから起きて、東子さまとふたり縁側に座ります。風がなく、寝汗もかいていたようだったので、少しジメッとした空気が身体にまとわりついています。
「あなた、何かを見つけた後、怯えた顔をしてそのまま倒れたの」
 私が気を失った時のことを教えてもらい、私は何に怯えていたのかを思い出しました。過去の忌まわしい記憶。そして、これを東子さまに話すべきか──
 
「胸にしまい込んでること、ない?」
 
 ……どうやら東子さまはすべてお見通しのようです。私の目をしっかり見て、それから多くは語りませんでした。その目が静かに語っています。「私にはなんでも話しなさい」と。
 私は、口を開きました。 
「私、中学時代から女の人が好きでした。みんな普通は男の人を好きになるから、こんなの変だと思って……まわりにはそれを言えなくて、ひとりで心に留めていました。でも……」
 過去のトラウマを思い出し、思わず膝の上に置いた両手を強く握りしめます。思い出したくない過去にギュッと目をつむり、ひとつ大きく深呼吸して、私は言葉を続けました。
 
「でも、私、高校時代に……」
 そして私は、過去の出来事をぽつぽつと語り始めたのです。

所属するムトウファームのお仕事にもっと専念するため、男鹿市へ移住したい! いただいたサポートは、移住のための費用、また、ファームの運用資金にも大切にあてさせていただきます🌱💓 サポートよろしくお願いします☆