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連載小説《アンフィニ・ブラッド》第3話

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「また殺しか……」
 四祈警察署の薄暗い一室で、統間ジエムはまた親指の爪を噛んでいた。時刻は午前零時。最近立て続けに発生している殺人事件に、ジエムの親指の爪は噛んだ跡ですでにボロボロだ。
 被害者は全員、鋭利な刃物で体を無惨に切り刻まれていた。被害者に関連性はなく、無差別に殺されたものと思われる。
 そもそも最初の殺人が起きたのは三日前。四祈市上空に存在する『魔法軸』から黒い光が漏れ出してからの事だった。
 上空の魔法軸を越えた先にあるのが、魔術師達の暮らす『魔法界』。そこは地上の四祈市と変わらないごく普通の街並みだ。ただ、住んでいる人間が魔術師であるという部分だけは相違点である。
 三日前、その魔法軸から突然、細長く黒い一本の光が漏れ出した。光の差し込む様はまるで天使の梯子のようなのに、天使ではなく悪魔が行き来しそうな妖しい光。これによる被害などの報告は出ていないが、この日を境に狂気の連続殺人は始まったのだ。
 謎の光と連続殺人の関連性について、署内の誰も目をつけなかった。しかし、ジエムだけは違った。彼には確証があった。
 
 *
 
 空から差し込んだ黒い光の着地点に、その時別の事件の聞き込みをしていたジエムはいた。不可思議な現象を目の当たりにしたジエムは、物陰に隠れて黒い光の様子を伺った。
 すると、光が消えると同時に、その着地点には一人の女が立っていた。長い髪、澄んだ茶色の瞳、白い肌、華奢な身体。白のノースリーブには返り血が飛び散っており、手にはフルートを持っていた。
(なんだ? あの女は……)
 全身血まみれの女を、ジエムは訝しげに様子を見ていたが、その表情が一変した。
 女がニヤリと不気味に笑うと同時に、女の持っていたフルートが黒い光を帯びて光り出した。その光が消えると、フルートの先端部分だけが剣のように鋭利な刃物に変化していた。
(こいつ……魔法界の魔術師か!?)
 驚くのもつかの間、路地裏からひとりの男が現れ、女の元に歩み寄ってきた。ジエムはさらに息を潜める。
「遅かったじゃねぇか」
 男が言う。
「ごめんごめん。あっちで何人か始末してきたのよ」
 女の言葉に、ジエムは凍りついた。
(始末……!?)
 ジエムの息が止まる。
「まあいい。早いとこ『あいつ』を探し出すぞ」
「はいはい、行きましょ」
 そう言って路地を後にするふたり。ジエムは慌ててデジカメを取り出し、気づかれないようふたりの姿を撮影する。その写真で、ふたりの顔は辛うじて確認出来る。ジエムは急いで署に戻った。
 
 *
 
「奴らが現れてから、連続殺人が始まった……。間違いねぇ、あいつらがやったんだ……」
 ジエムはまた親指の爪を噛んだ。あのふたりが殺人に関わっていると確信を持ちながらも、現場にはいつも証拠がない。
「それに、奴らが言ってた『あいつ』って誰なんだよ……!」
 謎だらけの殺人事件、謎だらけの登場人物に、ジエムのストレスは限界に達していた。
「クソっ!」
 苛立ちで、ジエムは傍にあったデスクチェアを思い切り蹴った。それは大きな音を立てて壁にぶつかり、横転した。
「絶対に捕まえてやる……!」
 机をバンと叩き、そこに置いてある一枚の写真を睨みつけるジエム。そこに写っているのは、意味ありげな微笑を浮かべた美しい女。
 
 その女──久利生エリの容姿は、神戸シオンと瓜二つだった。


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