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おいしい温度。燗の利き酒Vol.1 『龍力/特別純米 生酛仕込』

日本酒は、自分の魅力と特性を最高の形で表現してくれる温度を求めている。

「同じ日本酒で酒器を変えると味わいがどれほど変化するか」を試す、従来の『おいしい酒器』利き酒シリーズと平行して、

「同じ日本酒で、燗の温度を変えると味わいがどれほど変化するか」を試す『おいしい温度。燗の利き酒』シリーズを今回始めてみます。

きっかけは、前回記事で書いたとおり、生酒(『赤武』)を温めて飲んだら予想以上に美味しかったこと。燗付けの技術、知識面ともに素人同然の「燗」の世界にしっかり足を踏み入れてみようと思いました。

1.銘柄選定

これまでに色んな日本酒を飲んできて、燗を含めた幅広い飲用温度帯で楽しめるのは、「厚めのお米の旨み+厚めの酸味」を併せ持った、力強くしっかりと造られたお酒、あるいは丁寧に造られたお酒だと感じています。

という前提で、記念すべきシリーズ初回に選定させて頂いたのは、冒頭写真にある『龍力/特別純米/生酛仕込』。

ぼくの中で燗にする日本酒として頭に浮かぶのが、『大七』『菊姫』に加えて、この『龍力』の特別純米。

昔ワインをよく飲んでいた頃、赤/白に関わらずボディのしっかりとした味わいを好んで飲んでいたこともあり、日本酒を飲み始めた頃も、こうした力強い味わいのお酒を好んで飲んでいました。

ご飯をしばらく噛んでいたら口の中がお米の旨みで満たされる、あの感覚を思い出させてくれるお酒です。

(この記事の投稿準備として燗での温度別利き酒を終えた翌日に、何と『龍力』の蔵元さんからフォロー頂きました!ただの偶然とは思えないタイミングでとっても光栄ですし、同時にこの記事が心を込めて酒造りをされた蔵の方々にとって失礼にならないことを祈ります)。

2.用いた酒器等備品、及び燗付け方法

1) 酒器
・8勺サイズの利き猪口(磁器)
・2合サイズの徳利(磁器)

2) 温度計
TANITAの料理用デジタル温度計
(計測温度帯:-50℃~250℃)

3) 燗付け方法

・鍋にお湯を沸かし、沸騰寸前の90℃あたりで火を止める。

・徳利にお酒を注ぎ、徳利ごと鍋の中へ浸け湯煎。

・デジタル温度計を徳利内のお酒に浸け、温度が63℃になったところで鍋から徳利を引上げ、利き猪口に注いで利き酒。

・利き猪口は予めお湯を張って事前に温めておく。注いだ際の温度低下を防ぐため。

(燗付けとしてこういうシンプルなやり方でいいのか、いまいち分かってません。どなたか他に素敵な燗付け方法ご存知でしたら教えて下さい。)

3. 温度別利き酒結果 

以下は、上記の通り湯煎で燗付けした日本酒を60℃から順番に5℃刻みで自然に冷ましていき、下は30℃までの温度帯で利き酒した結果。

60℃  結果:△
温度が高すぎるためと思うが、入口から既にアルコールの香りが強烈にある。口に含む前にアルコールの香りで蒸せてしまう。
口に含むと分厚い酸味と旨みを感じるが、それを上回る苦味、辛さを感じる。

55℃=とびきり燗 結果:◎
入口のアルコールの香りはまだ感じるが、60℃の時よりはやや弱くなり、口に含む時の蒸せ感はなくなる。
口に含むと、甘みが立ってくる。旨みも少しまろやかになり、苦味は少し奥へ行く代わりに酸味を感じるようになる。美味しい。

柔らかくまろやかな酸味に支えられた温かい甘みが美味しい。

50度=熱燗 結果:◎
アルコールの香りは気にならない程度に弱い。
味わいのバランスがいい。旨みはまろやかで、酸味とのバランスもいい。

55度よりも甘みも優しくまろやか、含み香の酸味感も柔らかく優しい。

これは美味しい。

45度=上燗 結果:○
酸味に輪郭を感じるようになる。厚めの旨みもしっかりとそこにいる。これくらいの味わいが料理に合わせやすいかも知れない。
苦味もいるが、あまり表に感じなくなる。

40度=ぬる燗 結果:○
旨みとさらにまろやかになる。甘みは少し奥の方へ引っ込んだ気がする。45度に比べて酸味の輪郭がさらに立ってくる感じがある。全体的な柔らかさが出てくる。

35度=人肌燗 結果:△
入口から酸味を感じるようになる。
旨みと酸味のまろやかさ、優しさはあるが、酸味がそれを上回る。甘みは感じなくなる。余韻にも酸味の輪郭あり。
この酸味感は料理に合いそう。

30度=日向燗 結果:△
相変わらず酸味の存在感あり。柔らかいながら旨味もしっかりと感じるが、55度くらいからの特徴のある味わいを知った後だと、全体的に味がボヤける感じは否めない。
苦味が戻ってくるようで、そこは不思議。

4.総評 

試す前は、温度帯としてシンプルに飲みやすそうな40℃=ぬる燗くらいが一番美味しいのかと思ってましたが、結果は上記の通りで55℃=とびきり感~50℃=熱燗といった少し熱いめの温度帯が一番美味しいと感じました。

ただ、それより下の温度帯 45℃~35℃くらいでは、「酸味の輪郭」を感じることができ、料理に合いそうな味わいになっていたと思います。高めの温度帯より口当たりとしては飲みやすいこちらの方が美味しいと感じる方もおられるはず。

個人的に日本酒の美味しさはお米の旨みと甘み(そしてそれを支える酸味とのバランス)にあると思っていて、今回の結果はそんな個人的な嗜好が多分に反映されたのだと思います。
特に55℃で感じた、甘みの際立った感じは他の温度帯にはない美味しさだと思いました。

温める=燗という区分けにあっても、このように5℃刻みで味わいの変化を感じ取れるのは大きな発見。

この温度による味わいの変化の正体って一体何なんでしょうか?

例えば酸味であれば客観的数値として、温度に応じて酸味の各値が変化しているのか、それとも単に温度帯による舌(口の中)の「感じ方」の違いだけなのか。

燗、という奥行きのある世界をまた見つけたようでワクワクします。

また他の銘柄でも試していきたいと思います。


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