『破邪の門~HAJAーNOーMON』マーシャルバトル!☆特務機関ゼロ 第3話
ツルギは目前に控えた立志の儀式の場で一族に関する秘密を知らされる。一族の一員に正式に加わるための儀式の場であり、初めて一族の大人として仲間入りを果たし一族一門の密命を明かされるのだ。
ツルギは、自分の出生に関わる謎や一族に託された密命をまだ知る由もなかった。
ーー話はさらに、1週間前に遡るーー
全国各地に点在する刑務所に異変が起こっていた。収監されている受刑囚が不審死する事案が多発していたのである。
その報告を受けたのは、内閣安全情報調査室の室長である。
関係者の間では「内調」と呼ばれているその組織は、遡ること明治の時代から連綿と続いてきた、いわば日本という国家の秘密諜報組織といってよい存在である。
明治維新後の国家を早急に基礎固めし、日本という新しい国家を欧米列強と肩を並べる強国にするために、国家のために身を挺して働く組織の統轄をしているのが、内調である。
表舞台で働く警察組織やかつての警察予備隊、いわゆる現在の自衛隊とは異なり、地下活動による密かな任務が多いのだ。
重厚なデスクの向こうで、背もたれに身体を預け、瞑目したまま話を聞いているのは、内調の室長三田村である。
「・・・・・・というわけで、問題の受刑囚が突然死する事案が、今月だけでも20件以上発生しています」そう報告したのは内調の専任調査官横山だった。
彼は手にしたファイルを閉じると、いかがいたしましょうかという表情で室長の顔を見つめていた。
やがて目を開いた室長の口からは
「ゼロの久我山君を呼んでくれ」という短かい指示。
「かしこまりました。すぐに連絡を取ってみます」横山はファイルを室長の机の上に置いてそう応えると、室長の返事を待たずに回れ右して、静かに退室した。
三田村が言った「ゼロの久我山」とは、内調の指揮下で密かに犯罪阻止対策の実働部隊として活動する「特務機関ゼロ」の司令官である。
三田村は、俯き加減でこめかみを右手で揉みほぐすと、そのまま右手で机上の固定電話の受話器を取り、左手で短縮ボタンを押した。彼は左利きである。だから受話器も机の右側に置いてある。
呼び出しの時間を、さほどかけずに電話は繋がった。
「あ、私です。少し時間をもらえないだろうか。うん、急いだ方がいい気がする。詳しいことは来てからで・・・・・・そう、大事になるかも知れない。では待っています」手短に会話を済ませると受話器を握ったままでもう一度ボタンを押す。今度は内線のようだ。
「横山君か、私だ。久我山君に連絡はついたのか?・・・・・・そうか。では折り返しの連絡があったら、あの人も同席すると伝えてくれ」相手の返事を待たずに切ったのだろう。すぐに受話器を戻すと机の上に置かれたファイルを手に取り、厳しい表情で目を通し始めた。
一時間ほど経過した頃、室長席の電話が鳴った。
「すぐ通してくれ」受話器を取るとそう短く伝えて来客を待つ。
横山専任調査官が、語り合わせて来たらしい久我山ともう一人の男を従えて部屋をノックする。三田村の応答を待ちドアを開けると
「お二人を、お連れしました」と声をかけた。
「そっちで話そう」3人に左手で応接用ソファを指さすと、自分も机を回り込みファイルを手にしたまま、ドッカと腰を下ろす。
もともとが細身の身体なので、そういう座り方をしても貫禄がありそうには見えない。
三田村が相当疲れているらしいことは、深く座り込んだ姿からもしっかり伝わってくる。
「あ、君も残ってくれ」案内してきた横山が退室しようと、身体の向きを変えたところに声をかけ、自分の横を指さしソファに座るよう目で合図した。
全員が座ったところで、手にファイルを持ったまま、室長の三田村がおもむろに口を開いた。
「ゼロが、一働きしなきゃならない厄介な事案になりそうなんだ」
室長が発した言葉に顎を引き、ソファの背もたれから身を起こして背筋を伸ばした久我山たちの顔が引き締まる。三田村は、内調の指揮下にある特務機関ゼロの出動を決定したようである。
「・・・・・・」
その場にいる全員が黙って三田村が発する次の言葉を待つ。
しばらく間をおいてから、口を開いた。
「全国各地の刑務所で、受刑囚が不審な死に方をしている。それも、先月だけで20人を超えるという異常さだ」そう言って応接テーブルの上にファイルをパサッと投げ置いた。
三田村と横山の前の二人は、置かれたファイルとお互いの顔を交互に見るとどちらが先に目を通すか一瞬迷ったが、お先にと、手を出して譲られた久我山が先にファイルを手に取った。
もう一人の、腕組みをしたまま久我山が読み終えるのを待つ男は、ツルギの父であり御劔学園理事長の、東郷竜盛だった。
ソファの背もたれに頭まで沈めた三田村は、まるで居眠りしているように目を閉じて身動きしない。その隣の横山も背筋を伸ばしたまま、ジッと久我山を見つめている。
ファイルにさっと目を通し終えた久我山が隣の東郷にファイルを手渡す。
東郷もさほど時間をかけずにファイルを読み終えた。ファイルをテーブルに置くと
「これは、本気で調べる必要がありそうだな、久我山君」久我山の横顔に東郷が語りかける。公式な場では君付けするが、ふだんは呼び捨てで呼び合う仲である。
三田村が東郷に向かい
「昔と違って、現在は破邪の門一派をまた頼りにできる時代になった。またよろしく頼むよ、東郷さん」軽く頭を下げる。
三田村が東郷と久我山を見やって、これから予算のことや何か根回しが必要なときは、この横山君が全面的に協力する。彼を窓口にしてくれと横山の肩を叩くと
「何でも指示してください」と横山も二人に頭を下げた。
「よしッ! とりあえず、ゼロ出動ですな」久我山が両手で腿を叩いて立ち上がり「助けをもらうまでも無い事案かも知れんが、一応そのつもりで段取りを頼む」そう隣の東郷に語りかける。
それに応えて、よしわかったと、こちらも準備に取りかかろうと言い東郷も立ち上がった。
横山が案内するように先に立ってドアを開け、ソファの場所で立ち上がったままの姿勢で見送る三田村を退室する3名が振り返り、会釈してから部屋を出て行った。
エレベーターホールで横山と別れた二人は、エレベーターに乗り込むと「どうする? 真っ直ぐ帰るのか」
「そうだな、懐かしい顔ぶれも、もう残っておらんだろうしな」そう久我山に応えた東郷は、車が待っているのかと久我山に尋ねた。
久我山がそうだと応えると
「じゃぁ、送って行かんでいいな」と言い残し、さっさと自分を待つ車の方へと歩いて行った。
「相変わらずだなぁ、東郷も」そうつぶやくと、苦笑交じりの顔で待っているはずの運転手を探し始めた。
久我山は現在、ゼロの司令官であり犯罪阻止対策の実働部隊を率いる統括責任者である。
東郷はかつての久我山の同僚であり、現在はゼロから身を退いていたが、緊急呼び出しを受けて出張ってきたのだ。
東郷竜盛は内調の指揮下に入り、ゼロと行動を共にする別働隊を率いているのだ。
その別働隊の組織こそ、破邪の門一派である。
破邪の門一派は流血を好まず、敵の制圧でも無用の死傷者を出すべきでないといった武門の誇りと精神性を失わずに不殺制圧を掲げて闘ってきた過去がある。
それでも敵対する邪悪な組織と互角に闘える時代は、まだよかった。銃器や刃物を使った凶悪事件が頻発する時代になると、破邪の門一派の闘い方では死傷者を増やすばかりで、エビルなどの邪悪な組織に太刀打ちできなくなってしまった。
実は破邪の門一派の指揮官だったツルギとミツルの実父、御劔家の嫡男、御劔玄一朗夫妻が任務遂行中に爆死する事故に遭っていた。二人にとっては不幸なことに、いっぺんに両親を失うことになった。
この事故も、敵対する邪悪な組織エビルが仕組み、暗殺した疑いも捨てきれなかった。
ツルギたちにとって邪悪な組織エビルは、破邪の門一派の一員として闘う敵であると同時に、両親を殺した仇敵かも知れない。
内調室長の三田村の呼び出しにより、ゼロの久我山と一緒に三田村を訪れた東郷竜盛だったが、まさかそのエビルが関わっていそうな事案にツルギとミツルが関わることになろうとは。このときには想像もしていない。
ゼロの別働隊として破邪の門一派の武力を再び活かせるようになった背景には、近年著しいAIの進化に伴う最先端防犯システムの存在がある。
かつては武器・凶器を服の下に隠し持ち携行することが容易だったが最先端技術の導入により事態は大きく変わった。
その防犯システムは、通り魔やテロの多発を未然に防ぐための対策として考案された。
特務機関ゼロの発案により動いた三田村が、密かに「銃刀類犯罪阻止対策モニタールーム」を新設したことにより、モニターチームが24時間365日の監視を行う体制が、金属類探知防犯カメラの出現で構築されたのだ。
この「銃刀犯阻対チーム」の出現によって直ちに職務質問と任意同行、現行犯逮捕により、武器・凶器を隠し持った人物の検挙を可能にする体制が完成した。
ーー話は現在に戻る。ここはツルギとミツルが通う御劔学園校門前ーー
そんな陰謀の存在を知らず、偶然にも二人はエビルの陰謀の一端を目撃してしまったことになる。
二人が駆けてくる足音が聞こえてきた。
「ミツルッ、早く来いッ」
「わかった! 先に登って」
かろうじて包囲網から脱出した二人は、暗闇に紛れて御劔学園まで逃げてきた。校門脇の通用口から飛び込んで、校門を見渡せる大きなシンボルツリーの上に登り始めた。
【第4話へ続く】
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