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<11>キャリアチェンジが転職ではなく、仕事のやり方のチェンジだった話~ある営業マネージャーの事例(後編)~

同僚の転職を機に自分のキャリアに悩み始めたインターネット系広告会社の営業マネージャーのお話を2つ前のコラムで書きましたが、彼(和田さん/仮名)は、その後どうなったのでしょうか?

今回はキャリアに迷う営業マネージャー和田さんが、その後どうやって迷いと悩みのトンネルを抜けたのか書きます。

簡単に前回の内容をおさらいしますと、和田さんはプレイングマネージャーとして自らも営業実績を叩き出しつつ、チームメンバーをリードし活躍させて社内でもトップクラスの成果を上げる輝ける存在でした。

しかし、「このままで良いのか」と悩み始めると、今まで興味を持てていたことに興味が失せる、上手く回っていたことが機能しなくなってきたことなどが見えてきました。そんな状況の中で、ある日先輩に相談することにしたのです。


先輩に会って相談

和田さんはどうすれば良いのか分からずに途方に暮れていましたが、自分の中で何かが終わりつつあることだけは感じ取っていました。そして、ある日、久しぶりに前職の広告代理店での先輩に相談がてらお会いしました。

その先輩は、4年上で隣のチームのマネージャーをしていた先輩で、今は転職をしてあるSaaSビジネスの新興企業で営業部長として複数の営業チームを統括している人物です。
 
先輩は和田さんが自分の状況や辛さを話すのをじっと耳を傾けて聞いてくれました。そして、自分にも同じような気持ちになったことがあると言うのです。それも、広告代理店にいた時に、和田さんや自分のチームにいた若手メンバーなど若くて優秀なメンバーが続々と転職をしていくのを見て「俺もこれでいいのか」と悩み始めたそうです。

かつて先輩も同じように悩んでいた

彼らがいた会社は、新卒の就職活動でも人気の大手広告代理店でした。その会社の社員というだけで「すごい」と言われるほどの人気企業だったので辞めるなんて勿体ないと誰もが信じていたのです。

ところが、入社3年~5年位の有望な若手メンバーが次々と聞いたことも無いネット系のちゃらい(と先輩たちが思っていた)会社へ転職をする姿を目の当たりにして、自分も考えるきっかけになったそうです。
 
尊敬して慕っていた先輩も、ずっと前のあの頃に自分と同じような悩みを持っていたと聞いて、和田さんは少し安心をしました。

しかも、「俺も同じように悩んでいたし、他にも悩んでいた人は何人もいた」と先輩は言うのです。

自分が悩んでいることは、自分だけの特有の事象ではなくて、誰にでも起こりうる自然なことだと思うと、気持ちが楽になりました。

先輩との会話

そして、続けて先輩は言いました。
 
「終わりは終わりとして受け入れろ」
 
「お前、もうプレーヤーとしての自分が終わったんだよ」
 
「マネージャーと言っても、プレイングマネージャーとして自分も売り上げを上げながら、チームを引っ張っているのだろ?」
 
「チームの中で一番の売り上げを上げることで、営業の結果と働きざまを示してチームをリードするお前の勝ちパターンが機能しなくなったんだろ?お前のやり方は、古くなって終わったんだよ」
 
「今までの羽田はもう死んだと思えよ」
 
「過去を引きずっている奴が一番みっともないぜ。ふられた彼女に未練たらたらで次にいけない奴いるだろ?」
 
「終わりは終わりとして受け入れることが始まりへの第一歩だよ」
 
「終わったことや古くなったことは手放すことだ」
 
「まず、そっからや」
 
先輩からのストレートな言葉が次々と繰り出されて、和田さんは衝撃を受けました。自分のことを良く知ってくれている信頼する先輩からの真剣な言葉が心に刺さり、今まで薄々気づいていたけれども認めたくなかったことを正面から受け止めることが必要だと気づいたのです。

同じ危機を先輩はどう乗り越えたのか?

そして、同じ経験をした先輩が古い自分の終わりをどう乗り越えたのか知りたくなりました。

そこで、「先輩はこれまでの自分が終わったと認識をして、その次にどうやって悩みを解決したのですか?」と質問しました。

すると、彼は自分が師匠として仰いでいた人物からのアドバイスで、自叙伝を書いて自分の人生を振り返ったと教えてくれました。

記憶がある子供の時代から現在に至るまでの自分の伝記を書いたそうです。それによって生まれてから現在までの人生の節目、節目で、自分は何を感じて、どう考えて、決断してきたのか、考えたとのこと。

そして、その時々に下した決断が現在の自分にどう影響しているのか、どんな自分を形づくっていったのか、振り返ったそうです。そうすると、今まで「自分とはこういう人間だ」「こういう人間であるべきだ」と思っていた自らのあるべき姿とは別の姿が見えてきたと言います。

自叙伝を書いて人生を振り返る

和田さんは、この話を聞いた時には「自分の別の姿が見えてきた」という発言に正直ぴんとはこなかったのですが、尊敬する先輩のアドバイスに従って自叙伝を書き始めました。
 
そうすると、小学生時代から高校生まで水泳部に所属していたこと、高校時代にはキャプテンとして県の大会で部が優勝するまで頑張ったことなどを思い出しました。

常に自分が選手をやって、エースの選手として好成績を収めながら部員に「羽田さん、すげぇー」と言われて尊敬を集めていました。その威光で新しい部員が入部し、多くの部員が彼から影響を受けて頑張って、その水泳部が県の強豪として名を轟かせていたのです。

そのことを思い出した羽田さんは、社会人になって広告代理店で営業マネージャーに就いてからも、同じ方法でチームを率いてきたことに気づきました。

しかし、大学の体育会水泳部では自分よりも優秀な選手が何人もいて自分はその中で1番になれないと思い込んで、やる気を失いました。そして、それからは目立たない部員として4年間を過ごしたことも思い出しました。和田さんが人生で初めて大きな挫折を感じたのがこの時でした。

そして、その時の悔しさをバネにして、社会人になってからは仕事を頑張ってきたことも思い出しました。

今までの仕事のやり方に限界を感じる

そうすると、今までの仕事のやり方では、自分の器以上にチームは大きくはならないのではないだろうか?と気づいたのです。更に、この従来のやり方に限界を感じ、かつ、それに飽きてしまった自分にも。
 
「ああ、今までの俺のやり方は終わったな」
 
和田さんは、過去のやり方と考え方を手放すことを納得して決断しました。
 
そして、過去を手放すことを決断した記念に、一人旅に出ました。

新しいリーダーシップの取り方に変える

旅から戻った和田さんは、すっきりとした気持ちでした。とは言え、次が見えていない不安な気持ちも残っていました。が、部長とも相談して自分のプレーヤーとしての役割を縮小して、チームメンバーの営業活動を支援することやメンバーの育成に力点を置くやり方に変えました。
 
はじめの1,2年は苦労もして、これでいいのかと悩み何度もプレイングマネージャーとしての従来のやり方に戻したい誘惑にかられましたが、メンバーが成長してチームの成果が過去最高を更新しはじめ、何よりもメンバーの充実度やモチベーションが高まっていくのを実感することが嬉しいと思う自分を発見しました。
 
過去の自分を終わらしてから2年程が経過して、和田さんはプレイングマネージャーではなく監督スタイルで営業チームを率いていくことに納得感を持って、再びフルスイングで仕事に取り組んでいました。

彼のキャリアチェンジは転職ではなく、自らの仕事のスタイルのチェンジだったのです。

(2023年10月30日)
山本恵亮
1級キャリアコンサルティング技能士

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