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【旅エッセイ】死にかけた後には、この世のものとは思えない美しい景色が待っていたけど、血まみれの未来も待っていた。


 ミャンマーのインレー湖でのとある1日のこと。
 昼飯の後、他の旅人4,5人に自転車での街ブラに誘われ、インレー湖に着いたばかりで、この土地を知らない私は、誘われるがままに宿でレンタル自転車を借りた。

 インレー湖に何日か滞在していた旅人が先導をしてくれて、自転車であちらこちらに行って、色んな景色を見て、充実した午後を過ごしていた。

 「ちょっと遠いけど、最後に坂の上にある日本語学校行ってみない?」

 その日の自転車での観光を満喫していた我々は、その日の最後に、街から少し外れた日本語学校を見に行こうととなった。舗装されていない道を30分程進むと、右手に果てしなく続く、上が見えない舗装されていない坂が見えてきた。先導する人はなんのためらいもなく、その坂を上がりだした。脚力に自信のない私は、坂の下で、こっそり待っとこうかと思ったが、ここがどこかも分からず、はぐれると帰れる自信もなかったため、必死で着いていくことにした。

 坂の上について、到着した日本語学校自体は、特になんの感動もない普通の学校だった。

 「じゃ、宿もどろっか。」

 すでに日が落ち始めて薄暗くなってきた中、坂の上から、みんなで帰りだしたのだが、「自転車」「坂」「若い男子たち」とくれば、当然チキンレースが始まる。
 舗装されていない坂で、誰が一番最初に坂の下に辿り着けるのかと言う競技が、誰が何を言い出すわけでもなく始まった。

 「うおおおおおおおおおお」
 「やばい、やばいって、こけるーーー」
 「ちょ、これ誰が始めたんよぉぉぉぉ」

 ガタガタする道にハンドルを取られながら、「ブレーキかける人間はチキン」的な雰囲気の中、猛スピードで坂を下りていく笑顔の男たち。

 私も、そのレースになぜか勝ちたく、必死にブレーキをかけるのをこらえて操縦不能と思われるスピードのギリギリを攻めていた。その気合のたまものか、私は坂の途中で先頭に立った。そして、その時にはもはやスリルを超えるくらいのスピードに達していた。

 「先頭にも一回立ったし、ここらでちょっと減速だ………え!?」

 ブレーキをかけるのだが、なぜかスカスカする。


 ブ レ ー キ が 利 か な い ! ! !


 「ちょ、ブレーキ壊れてる!なんでなんでなんで?これ止まれない!やばい!!!」
 身体から血の気が引いた。
 もはや足を地面について減速できるような速度じゃない!
 
 目の前を見ると、坂の終わりが見えている。そこはT字路。

 そして!

 間の悪い事にT字路の左手から、車のヘッドライトが見えている。
 「タイミング的には、絶対にひかれる!」


 「あー死んだな。…っていや、考えろ考えろ。このまま突っ込んだら車にもうスピードで突っ込んで、その衝撃で身体が10mくらい飛んで行って死ぬのは間違いない。ニュースでよくある”体を強く打って死亡”みたいなやつやん。なんとかして、この自転車を止めないと。なんかないか、なんかないか…あっ道の横!左手は排水用の溝ががあるけど、その向こうは空き地になっている。
 いちかばちか、左にハンドルを切って、タイヤを溝に対して垂直にはめて、そのまま空き地に自転車ごと身体を飛ばしたら、骨折くらいですむんじゃないか。飛んでった先に硬い石とかあったら、死ぬやろけど、このまま交差点に突っ込んだら100%死ぬやろし…えーーーーい!ままよ!」
 (ここまで0.1秒)


 私は思いっきりハンドルを左に切り、自ら出来るだけ垂直にタイヤを溝にはめ、コケに行った。計算通り、溝にタイヤが挟まり、その勢いで1回転して自転車とともに空中を飛ぶ…投げ出されると同時に、地面が上になって空が下になって…回転している景色がスローモーションになり、走馬灯は見えなかったが、色んな事が頭をよぎった。

「お父さん、お母さん、ミャンマーで、しょうもないことで先に逝く私をお許しください…」

 どん!
 強く地面に叩きつけられた。

 「えええええええええええ!大丈夫か?」
 「何がどうなたん?ええ?大丈夫か?」
 「ちょちょ!何があったん???」

 一緒にチキンレースをやっていた男たちの声が聞こえる。
 んん???…聞こえる?という事は今、生きてる?

 いたたたたたた…なんか急にあっちこっちの痛みを感じだしたけど、とりあえず生きてるみたいだ。体は…全部つながってる、うん、ちゃんと動く。立ち上がれるかな…立ち上がれた。体も全部動く。助かった…のか?

 結局、飛んだ先に何もなく、また、地面が土でさらにうまく転がったのがよかったのか、擦り傷こそたくさんできたが、それだけで大けがなく助かった。

 「何してるんすか?びっくりしたわ!」
 「いや、ブレーキが壊れて、コケるしかなかってん!」
 「いや、にしても豪快すぎでしょ笑笑笑」
 
 他の男たちが、慌てた表情で駆けつけてくれたが、私が無事であると知ると、男たちの笑い声が響きだした。

 辺りはすっかり真っ暗になっていた。 
 
 私の自転車はボロボロにはなっていたが、なんとか乗れる状態であったため、帰り道はみんな私のペースに合わせてゆっくりと移動していた。そして、疲れからか、男たちに会話もなく、ただ自転車が走る音だけしか聞こえない静寂の中、街灯1つなく、周りに家もなく、光は星の明かりと、遠くに見える街の明かりだけしかない、舗装されていない一本道を進んでいた。


 突然、道の脇にあるきらっと木が光った。

 ん???

 改めて、道の両脇にある木々を見てみると、白っぽい光がキラキラと木がクリスマスツリーのように瞬いていた。

【イメージ】 宮崎県内で幻想的なホタルの乱舞が見れる名所スポット|ほたる情報 - みやざき情報まとめ (miyazaki.fool.jp)

 音一つしない真っ暗な中、白く瞬く光の美しさにすっかり心を奪われた。その光景はあまりに幻想的で、この世のものとは思えない、アニメの世界かあの世かどこかの異世界にに入り込んでいるかのような錯覚さえ覚えた。

「…めっちゃきれいやな」
 誰に言うわけでもなく思わずつぶやいた。

 周りを見ると、他の男たちも自転車を止め、そのまま時が止まっているかのよう、無言でその幻想的な光景を眺めていた。

 
 私が死にかけたアクシデントと引き換えに、この光景を見れたのだとすれば、死にかけたかいがあったのかもしれない。そう思えるほどの光景だった。



 帰り道で見た光景に浸りながら、宿に着くと、すっかり遅くなり、すでに門限を過ぎていたため門が閉まっていた。あたりにスタッフも居らず、完全に締め出されていた。

 「よじ登って超えるしかない。」

 私は、よく学校にあるような横にスライドする2mくらいの鉄製の門をよじ登った。あとは、そこからジャンプして向こう側に降りるだけ…だったが、飛ぼうとしたときにバランスを崩した。
 こけかけて思わず、手をついたところが、門の上部にあるとがった泥棒除けがあるところで、右手にぶっ刺さった。

 痛みはあったが、とりあえず門を越えたい一心で、門の向こう側に再度飛んで、無事着地したが…手から見た事ない量の血が出ていた。(後でみたら、薬指の根本から3cmくらい、深さは1cmくらい裂けてました)

 その日、門には、血だまりが出来ており、そこから私の部屋まで、血痕が途切れることなく、続いて、まるで映画で銃で撃たれた人が、部屋に逃げ込んだかのような跡になってました。
 …誰が掃除してくれたんだろう笑

 選んだレンタル自転車が壊れていて、その結果死にかける → そのおかげで遅くなり、めっちゃきれいな光景を見る → そのおかげでより帰るのが遅くなり、結果血まみれになる。

 そんな、少し色々あった、旅の1日でした。

 

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