樋口泰行『パナソニック覚醒       愛着心と危機感が生む変革のマネジメント』日経BP

パナソニックのカンパニー会社であるパナソニックコネクト株式会社の社長の樋口氏による5年間の社内改革の取り組みを1冊の本にまとめたものである。樋口氏は、松下電器産業に入社後、ハーバート経営学院への留学、ボストン・コンサルタントグループ、アップルコンピュータ、コンパックコンピュータ、日本ヒューレット・パッカード、ダイエー、日本マイクロソフトを経て、パナソニックに戻った。

日本企業を退職して世界の厳しさを知った。ところが、2017年4月に、25年ぶりに出戻って、初日の驚きは、まったく変わっていなかったことだという。朝は「巻物」を用いての経営理念の唱和から始まり、床の模様まで同じだったという。

カンパニーとしてのビジョンがなく、どうやって生きていくかの旗印がないことに気づいた。まずは、変革についての理解をしてもらい、一方で半強制で進めていかなければならない。

また、聖域を作ってはいけない。「いかに売るか」を徹底的に考えて、戦略作らないといけない。そのため、本社を門真市から東京汐留に移し、社長、役員以下、全員フリーアドレスのオフィスとした。これにより、お客さまへの訪問数が1.5倍となり、社内でフランクにコミュニケーションができるようになった。ペーパーレスも進んだ。

変革の最初のステップは「大きな絵」を描くことであった。「先鋭化」し、差別化できるハードウェアにソフトウェアを組み合わせていく。ソリューション型ビジネスだ。100年先のことを見据えて、新しい大きな絵を描く。

次は顧客目線で自分たちを見つめ直す。さらに変わった姿を社員に見せる。リーダーが本気にならないと変われない。そして、目指す旗印と、道筋となる戦略を鮮明にする。「現場プロセスイノベーション」を掲げた。

組織風土を変えるためには、トップが直接、強いメッセージを発しないといけない。本社全員を集めてオールハンズミーティングを四半期ごとに行う。変革推進室や改革本部に委ねない。トップが細かい指示を出す。率先垂範で社長室を廃止し、役員の個室もなくした。

フォーマリティ(形式的な手続き)を排除し、画一的な「服装」も排除した。服装のカジュアル化も最初に動いたのは20%~30%。しかし、いいフォローワーの獲得を意識することが大切となる。

また、会議は極限まで減らす。会議そのものを減らし、人数を減らし、時間も見直して短くする。さらに、本当に顧客価値につながっているのか改めて考え、惰性でやってきた仕事を見直す。社内資料はできるだけ作らせない。チャットを浸透させるためランキングで競わせた。

目指すはスピード、アジャイル(機敏)、オープンであり、トップと直接コミュニケーションできる環境を作った。できる限り、管理職でない社員に声をかけた。社長と若手社員5~6名とのラウンドテーブルを実施し、自己紹介、お互いの仕事内容の共有、そして質問をした。上司と部下との1on1ミーティングも導入した。

業績が上を向いたとき、社員にお礼を言った。社員が同じ思いに共鳴、共感するところこそ、一番のエネルギーの源泉となる。バッドニュースもきちんと上がってくるカルチャーができる。ダイバーシティは数値目標を作り、担当役員をつけた。

カルチャー&マインド改革に賛同できないリーダーには、別の機会を提供するため、人事を動かした。これで、若い社員から支持を得た。

ハードウェアにどれだけサービスを付加できるか、その領域はどこか。「現場プロセスイノベーション」の旗印から、「造る、運ぶ、売る」という現場のプロセスを支援していくソリューションを生み出した。わかりにくいところにチャンスがあった。

リカーリングモデル(サブスクリプション)により、サービスにより見込まれるコスト削減効果から算出した報酬を月額の定額費用でいただく。装置やセンサーなどのハードウェアについても、トータルのサービスの中でお支払いしていただく。

事業立地を整えるため、セキュリティシステム事業はポラリス・キャピタルと提携、大型LEDディスプレイ、小型PBXは終息、VHFの岡山工場は閉鎖、そしてブルーヨンダーを買収した。常に社員、一人ひとりの成長を考えた。

リーダーが「自分たちのために頑張ってくれる」、「なんとか頑張ってやろうじゃないか」といかに思ってもらえるか、こういうところで、ひとつにまとめることが必要になってくる。また、端的に言えば、いい人であるだけではダメだということであり、やはり思い切ったこと、厳しいことも実行できないといけない。

日本の企業が難局を乗り越えていくための処方箋を示していると言える。「失われた30年」において、国の戦略も求められているという。本書は、多くの人から好評のようである。経営者にとっては、実践すべき参考書だと思う。





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