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King Gnuの『白日』から学ぶ!マーケットインとプロダクトアウトを共存させる"たった2つの要素"

こんにちは、ブランディングプランナーのヤマグチタツヤ(@yhkyamaguchi)です。

最近、会話の文脈によって「山口達也」と「ヤマグチタツヤ」を使い分けていることが、言わずとも周りの人に段々と認知されてきていて嬉しい限りです(エセ多ブランド戦略です)。


そんな冗談はさて置いて、今回は今年から導入された「サブスク選考」によって紅白歌合戦に初出場が決定したことでニュースになりました、新進気鋭のロックバンド「King Gnu」をブランド解体していきたいと思います!

(ヤマグチも大好きでたまらないバンドです.......!)


・・・

とはいえ、そこまで彼らはまだ国民的にメジャーなアーティストではありません(父親に聞いたら「曲はラジオでも流れるし何かのドラマで流れてたから知ってるけど、アーティストは分からん」と言われました)。

そこで、曲だけであれば知っている確率が高いであろう、彼らの1番のヒット曲『白日』を題材に、彼らから「マーケットインとプロダクトアウトをどう両立させるのか?」をブランディング目線で学んでいきたいと思います!

・マーケットイン・・・市場や購買者という買い手の立場に立って、買い手が必要とするものを提供していこうとすること(市場のニーズに合わせる)

・プロダクトアウト・・・提供側からの発想で商品開発・生産・販売といった活動を行うこと(自分のエゴを表現する)
(引用・一部加筆:日本総研)


ちなみに『白日』のPVはこちら!まず1度フルで見てください!

★この記事の前提(言葉の定義)★
○ブランド:(相手に伝わる形で編集された)独自の価値・個性
○コーポレートブランディング:経営者の思想・理念(ミッションビジョンバリューなど)

○ブランディング:あらゆるコミュニケーションにおいて、ブランドを一貫
 させてターゲットへ伝えること
 
 Ex)スタバは「サードプレイス」がブランド、「フレンドリーな接客,    リラックスできる空間・内装」がブランディング。
○インナーブランディング:社員・メンバーに企業ブランドや社長の思いを浸透・理解してもらう施策全般のこと
○PR:Public Relations =「誰とどういう関係性を築くか?」の定義

※より、これら「そもそものブランディングの前提」の理解を深めたい方はこちらの記事をどうぞ!
『 5分でサクッと理解できる忙しい人のためのブランド/ブランディング論』 https://note.mu/yamatatsutatsu/n/nc3d1a589ff32


1. 戦略の上流である「バンドのブランド・コンセプト設計」が超上手い

メンバーは常田 大希(Vo,Gt)・井口 理(Vo,Key)・新井 和輝(Ba)・勢喜 遊(Dr,Sampler)の4名で結成されていて、バンドの中心は作詞作曲を務めるフロントマンで全てのブレイン役である常田さん。

これから細かく説明していきますが、彼はおそらく生粋のブランド・PRパーソンです。

※King Gnuの音楽が好きとか嫌いとか関わらず、ブランディングやPRに関わる方は彼のインタビュー記事・動画をぜひチェックすることをオススメします。

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(画像出典:FASHION PRESS)

音楽シーンであまり見ないタイプなのですが、常田さんはかなり特徴的で自分の手掛けるバンドを「プロジェクトベース」で捉えています。

「King Gnu」というバンドと並行して「millennium parade」というバンドも同時に進めており、

・「King Gnu = 売れるためのバンド」
・「millennium parade = 超アーティスティックで尖ったバンド」

という、いわゆる"多ブランド戦略"を個人で取っています。

(この戦略は飲食業界などに多いですね。「ガスト」や「ジョナサン」、「バーミヤン」などのブランドを多角的に運営している「すかいらーくグループ」はまさにこの"多ブランド戦略"です)

*しかも同じ哲学(=ブランド)を共有したクリエイティブチームを作りたいがために、MV制作・スタイリストのクリエイティブ集団「PERIMETRON」まで立ち上げるという美意識の強さ......。
ブランディングは一貫性が重要だということを見せつけられますね。
*参照:FASHION PRESS

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(画像出典:https://twitter.com/perimetron_jp)


常田さんはインタビューでもこのような発言をしており......

常田 : 単純に金を稼ぎたいということはまちがいなくあって。いまの現状として、基本的にJ-POP以外で金を稼いでいるミュージシャンがほぼいないじゃないですか。ただ、個人的にはそこを変えたいし、もっと文化的なものを発信できたらなと思っていて。それを自由にやっていくために俺らがデカくなっていく必要がある。そういう意味で、King Gnuは最重要プロジェクトですね。
(引用・抜粋:OTOTOY)

「アートだからみんな分からないでしょ......」に逃げるアーティストに対し、数字も出して表現もしようぜと呼びかけているようにも見えます。

彼は例えるなら、既存の手堅い事業(でも哲学は貫く)でキャッシュ生みつつ、本当に自分がアートとして表現したい超プロダクトアウトなカルチャー発信を新規事業で行っている企業のCEOのようなイメージですね。


・・・

さて、本気で常田さんの生い立ちから語りだすとロッキンオンジャパンも顔負けの2万字記事くらい平気でいきそうなので、再度「King Gnu」単体にフォーカスして、バンドのブランドやコンセプトの詳細紹介をしていきます。

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(画像出典:CINRA.NET)

まず楽曲に関して、メロディは「大衆に届きやすい日本人の好きな歌謡曲メロディ」を中心に据えています。

King Gnuを組む以前の音楽ではこうしたメロディ作りをあまり行っていなかったのですが、常田さんの中で「アーティストは思想を貫きつつも売れてなんぼだ」という思想が途中から芽生え出しました。

そこで、もともと彼の好きだった井上陽水や玉置浩二に加え、*Mr.Childrenや宇多田ヒカルなど、様々なJ-POPアーティストの楽曲を聞き込んで分析・研究し、その結果として現在の"多くの人が耳馴染みの良いと感じるメロディライン"を制作するスタイルに至りました。

(*参照:FASHION PRESS)

(余談ですが、最近のアーティストだと米津玄師サカナクションもかなり近い考え方で「いかにポップな曲(普遍的な音楽)をつくるか?」を意識して曲作りに当たっています)


そして、サウンドに関しては、ロック・ブラックミュージック・ジャズ・クラシック......etcなど、多種多様な音楽性を織り交ぜた「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイルバンド」というコンセプトを掲げています。

"レトロだけどなんだか尖ってて新しい印象"を与える音作りや曲構成になっているのは、おそらく数曲聞けば一発で分かるはずです。
(アーティスト写真もそうした世界観が滲んだ写真ばかりですね。)

大手航空会社のANAのCMソングを始め、飲料系CMやアニメ・ドラマのタイアップなど、最近はその新進気鋭な音楽性から各業界で引っ張りだこな存在。

まさに、邦楽ロック界でも第一線を駆け抜けている存在と言っても過言ではありません。

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(画像出典:ORICON MUSIC♪)

・・・

さて、改めてここでKing Gnuのブランド戦略を全体で俯瞰してみましょう。

※今回は便宜上、常田さんをCEOとして制作しています。

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コーポレートブランディングの観点において、このバンドのスゴいところは「ビジョンがすでに言語化されて、しかもそれがメンバーに浸透し、作品作り(MVなど含む)に表れているところ」です。

ビジョンは「King Gnu」のバンド名にも表れているように「ヌーの群れのように、自分たちも老若男女を巻き込み大きな群れになる」

つまり、「大衆に自分たちの美学を伝えながら、新たなカルチャーを発信していく」とも言い換えられます(JAPAN MADEとロゴに書いていたり、過去にアメリカツアーをしていた経験もあるので、発信先はグローバルも入っているのかなと)。

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(画像出典:https://kinggnu.jp/)

また、どこまで本気かは一旦さておき、常田さんは以下のような「起業のゴール」に関する発言も同時にしています。

なぜ起業したかは言えても「どうなったら、その起業は終わるのか?」を定義している人は少ないので、個人的にこれはかなり驚きました。

常田:……まぁ、これからアルバムはたくさん作っていくので。とりあえず、5枚目までは作りたいなと思っているんです。5枚目に『King Gnu』っていうタイトルのアルバムを作って、それで完結させます。
〜中略〜
常田:終わりがないと美しくないので。「どうやって終わらせるか?」も、バンドの美学じゃないですか。極限までデカくして終わらせたいなって思います。最後にどんなディストピアが広がっているのか、楽しみです。
〜中略〜
常田:まぁ、この話は冗談半分っていうことで、聞き流してください(笑)。
(引用:CINRA.NET)


そして、おそらく何度もバンドメンバーやPERIMETRONチームも含め「なぜKing Gnuをやっているのか?どんな曲・映像などを俺たちは作るべきなのか?」を議論しているのでしょう。

インナーブランディング(理念浸透)が上手くいっている結果として、メンバーの井口さんはソロインタビューでこのような発言をしています。

Licaxxx:(King Gnuの音楽は)玄人にもマスにも両方受けてる。
井口:本当に世の中を変えたいなと思ってるんです。若い人が自分たちの曲を聴いて音楽やってみようと思ってほしいです。
(引用・一部加筆:SPUR.JP)
井口:この4人で「売れようぜ」みたいな話をしているときも、楽しいんですよね。4人が同じ方向を向いているし、先に向かうエネルギーが見えるバンドだと思うんです、King Gnuは。まぁ、泥臭くはあるけど……泥臭い人たちって、見ていて応援したくなるじゃないですか(笑)。
(引用・抜粋:CINRA.NET)

常田さんは、おそらく各メンバーのキャラクターや特性・バックグラウンドを熟知していて、「メンバーそれぞれが1番活躍するポジションへの人材配置」を行っています。

そうすることで配置されたメンバー側も"自分の役割やミッションを理解しながら活躍ができる"のでモチベーションに火がつき、さらにバンド全体として良い曲作りができるような環境構築へと繋がっていきます。


・・・と、話のネタがありすぎてオチが見当たらないので、一旦まとめます(笑)

今までの話とこれからお話する『白日』についてまとめると、King GnuがブランドPR戦略として上手くいっているのは、このような手順を踏んでいるからだと考えられます。

①CEOの脳内ビジョン・バンドコンセプトを言語化(CI策定)

②技術力・音楽の造詣が深いメンバーを勧誘(コアメンバーの採用)

③CEOの思想をインストール(インナーブランディング)

④強いプロダクト(曲・MV)を作る
(この過程でさらに①〜③を繰り返しクリエイティブチームも立ち上げる)

⑤固定ファンのグリップのために各メンバーのキャラクターを活かした発信をする(特に井口さんは"普段の行動が狂っている(後述)"のでそのギャップでファンを掴む)

⑥プロダクトのストックができた段階でプロモーションを一気にかける(プロモーション的PR)

⑦プロモーションから入ってきた新規ファンが過去のストック曲を漁り、固定ファンが増える

⑧固定ファンがさらに増え、口コミが増える

ざっくり言えば「中核となる哲学を固める→組織に哲学を浸透させる→対外的にもその哲学に沿ったものを出していく」という段取りなので、このような図で取組全体を表せます。

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・・・

さぁ、ここからやっと本題の『白日』のブランド分析です。

(この章だけで3,000文字を超えていますが、みなさん気力でついてきてください)


2. 『白日』は、"徹底的に売れるための楽曲"

※今回のnote、『白日』単体だけでもKing Gnuの戦術やこだわりが多過ぎて、ガチで全部書くと2万字を超えてしまいそうなため、多少箇条書き的に進めていきます。


2-1.大前提:「ドラマのタイアップ曲」である

この曲はドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』のタイアップ曲であるため、そもそもとして「初見の人にとって"King Gnuの音楽って難しい"といかに思わせずに聞き馴染みのいいメロディにするか、且つドラマの内容を踏まえた楽曲を作るか」が大変重要になります。

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(画像出典:日テレ)

その点で、いわゆるどの世代にも通ずるような「ポップス」を作る必要があるので、そもそもの最初の時点でマーケットイン思考の曲であらねばならないのです

歌詞の内容としても「(犯罪を)白日の元に晒す」、「過去の過ち」などを散りばめることでドラマの内容ともしっかりマッチさせています。

こうした憎い演出をすることで、ドラマ視聴者も「あー、このアーティストは分かっているアーティストだな」と自然に共感を覚えていき、自然とファンになっていくフローが作れられています。

この仕掛けは、米津玄師の『Lemon』のヒットの流れとも構造的には似ていますね

◆補足:米津玄師の『Lemon』がドラマ『アンナチュラル』のタイアップで国民的アーティストになった構造とほぼ同じですが、違うポイントが一点だけあります。
米津さんの場合はもともと映画のタイアップ曲『打上花火』で名前が全国区になっていた状態からの『Lemon』だったので、この点がKing Gnuとの差であり、King Gnuが"国民的アーティスト"としての地位を確立するキャズム越えを果たすまでには至らなかったと解釈することができます。


2-2. "なんか気になる"サムネイル画像

YouTubeの再生回数でいくととんでもない数(2019年11月19日現在で約8769万回)を叩き出しているのですが、その一要因として「おすすめレコメンド欄に出てきた際に目を引くサムネイル画像(アイキャッチ)」だったことが大きいと思われます。

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(画像出典:YouTube「白日 / King Gnu」)

この「モノクロ」「白日とデカデカと書かれている」のがマーケットイン的要素ですね。

※ちなみにプロダクトアウト要素は、白日の「白」の頭が王冠のようになっていてKing Gunの"King"感を表している部分です。芸が細かい......。

最近でいくと、「ポルカドットスティングレイ」や「ずっと真夜中でいいのに。」などのバンドが、"可愛い女の子"だったり"凝った作画のアニメーション"をサムネイル画像に設定することで、ユーザーがつい気になってクリックしてしまう戦術を取っています。

さらに起源をたどれば、2010年前後のニコニコ動画発系のものを中心とした「ネット発音楽」は特にこの戦術を取らないと"無数にある動画の中から多種多様なユーザーに目を向けてもらえない"ので、「楽曲を聞く前段階の環境構築(=マーケティング)」がしっかりされていないといけなかったことに由来があります

(「本屋さんで積まれている本の中から、いかに本を手に取ってもらうか?」の構造とも同じですね)

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(画像出典:YouTube「テレキャスターストライプ / ポルカドットスティングレイ」)


2-3. イントロ10秒で「続きが気になる違和感づくり」

ぱっと見だけでいくと、"髭面の野暮ったいメガネの男性"から出されているとは思えないほどクリアでハイトーンなウィスパーボイスが繰り出される意外性が、『白日』をついつい長く視聴してしまう要因になっているのではないかと推測します。

(ぜひ、まだ聴いていない方は聴いてみてください。)

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(画像出典:YouTube「白日 / King Gnu」)

聞いた人なら分かると思いますが「え、マジでこの髭の兄ちゃんからこの声出てるの?」と思いますよね?

この「違和感」をイントロに持ってくることによって、続きがついつい気になって1番サビまで聞いてしまいます。

その先には常田さんのラップ調のパート、中毒性のあるメロディアスなサビが待ち構えているので、そこでさらに聴き手にフックをかけていくイメージです。

また、シーンカットも拍に合わせているので、「見ている側もスムーズに動画を見続けやすい構成」になっています。

細かいですが、こういうところにもユーザーファーストの視点が込められているように感じられますね(芸術性という面ももちろんありますが!)。


3. マーケットインにプロダクトアウトを込める高度なテクニック

さて、ここまで「いかに市場に合わせて手に取ってもらうか?(=マーケットイン)」の視点でブランド解体してきましたが、ここからは逆に「いかに自分たちの美学を込めていくか?」の"プロダクトアウト目線"で楽曲を解説していこうと思います。


3-1.計算し尽くされた"サビの中毒性"

サビの一節で「ファルセットと地声を行き来することで非常に印象的なメロディを構築している」のは、非常にプロダクトアウト的です

歌詞で言うと、この部分ですね。

へばりついて離れない 地続きの今を歩いているんだ
(出典:白日 作詞:常田大希 作曲:常田大希)

複雑且つ繊細にメロディを上下させることで、いわゆる"中毒性(=何度も同じフレーズが脳内で繰り返しリフレインされる現象)"を生んでいます。

(歌い方参考動画をみると分かりますが、こんなに声の切り替えをするのかと途方にくれます。青部分多すぎでしょ......。)

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(画像出典:【歌い方】白日 / King Gnu )

最近だと、米津玄師の楽曲も似た構造の曲が多いです(『パプリカ』など)が、ファルセットと地声をここまで行き来させるバンドは他にはありませんし、おそらくボーカルの技術的に模倣が難しいでしょう。

普段はふざけてTwitterでローマ法皇やジャスティン・ビーバーにクソリプを送っているこのボーカル井口さんも、東京藝大の声楽科に通っていたので歌の技術は邦楽ロック界隈では相当ハイレベルな方です。

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3-2. 「歌メロのリズム」と「リズム隊のリズム」が異なる

この楽曲、面白いことにAメロは8分音符で歌が進むのに対して、0:24〜辺りから入ってくるドラムが16分音符のビート(シャッフルビート)なのです。

(細かい音楽論になると分かりづらいのですが、Aメロのドラムを細かく聞けば"なんかドラムが細かく叩かれている"ことは音楽初心者でもザックリ分かるはず!)

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小節全体で見ると最後の拍の着地点が同じなので、完全にリズムがズレるということはないのですが、だからこそ微妙なこの途中に起こるリズムのズレが聞いている側も心地よく、且つ「作曲者の強いこだわり」「それを実現させている高度な演奏技術」を言わずとも滲ませている点が非常にプロダクトアウト的だと言い切れます。

これが普通のJ-POPと違うKing Gnu流のこだわりが見られるJ-POPらしさであり、彼ら独自のブランド(=市場に届く自分の美学・哲学)となっているのがよく分かりますね。

ビジネス同様、「思想(ビジョン・ブランドコンセプト)」と「技術力(テクニック・開発力)」は他社の模倣可能性を下げ、参入障壁を高めます。

まとめると、"ポップス"だけどただのJ-POPじゃなくて「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイルバンド」と謳う"確固たる信念と技術"が至る所に貫かれている部分にブランドの強さがあると、ブランディング視点で分析することができます。

※ブランディング= 自社の哲学・信念を全ての施策に一気通貫させること。


3-3. 「ツインボーカル」がゆえの"曲構成と衣装スタイリング"

先ほども書いた「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイルバンド」というブランドは曲構成からも表れています。

特に分かりやすい部分はBメロ部分の常田さんパートになると「ラップ調」になる部分。

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彼は幾度となく数々のインタビューで「自分の声はダミ声だからヒップホップ系の音楽と相性がいいし、拡声器に乗せた時の乗り方がいい」と口にしています。

Dragon Ashのボーカルkjさんとも声質がやや近いので、彼をイメージすると分かりやすいかもしれません。

(彼らの中で1番有名な日テレ系「2002FIFAワールドカップ」のテーマソングとなった『Fantasista』と比較してみると、より声質の近さが分かりますので動画リンクを貼っておきますね)

このように、King Gnuは"井口さんと常田さんは声質やキャラの違い"から「清濁」「光と闇」「ポップスとアンダーグラウンド」のような互いの違いからくる"二律背反"を巧みに使いこなし、そのバランスを取るように楽曲を作っています。


また、ファッションやテレビでの立ち位置にも注目です。

このMVも衣装が井口さんが白、常田さんが黒となっていますし、音楽番組『ミュージックステーション』に出演した際には「ボーカル2人が背中合わせ」という演出がされていました。

プロモーション期間でもきっちり"二律背反"のコンセプトを徹底しているのは、さすがですね。

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(画像出典:『ミュージックステーション』)

ちなみにストリーミングで『白日』がだいぶ有名になって伸びが少し落ちそうなタイミングでMステに出るあたり、プロモーションの順番もバッチリです。
これは映画「君の名は。」のプロモーション戦略とも似た構造になっているので、気になる方はググりましょう(これまで話すとタイピングのし過ぎでヤマグチの手が腱鞘炎になります)


4.マーケットインとプロダクトアウトを共存させる極意は「バランス感覚」と「ブレない軸」

さて、相当ボリューミーな記事でしたが、まとめに入ります。

もうここまで説明したら言わずもがなかもしれませんが、プロダクトアウトとマーケットインの共存が実現している理由は、常田さんの「圧倒的なマーケット俯瞰能力・美意識の高さ」に他なりません。

直近の邦楽ロックシーンを俯瞰的に見てみると、RADWIMPSや米津玄師、[Alexandros]といった王道邦楽ロックが2016年くらいまで伸びを見せ、そこからシティポップ系バンド(解散してしまいましたがShiggy Jr.など)が頭角を表し、そこへSuchmosがジャズやブラックミュージックを盛り込んだいわゆる「"チルな"バンドサウンド」を市場へ浸透させました。

さらに、テレビ番組『フリースタイルダンジョン』の影響からヒップホップ音楽にもスポットライトが当てられたり、坂道グループやモモクロなどのアイドル文化も台頭してきたりと、「多種多様な音楽性が共存し混ざり合っている状態」が現在の音楽シーンだと言えます。

(下図のように"ロックフェス出演者の多様化"もそれを如実に表しています。)

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(画像出典:http://rijfes.jp/2019/lineup/timetable/)

日本社会としても働き方や生き方を始めとした「価値観の多様化」の流れが大きくなっているように、音楽シーンも同様の「中央集権(1つの音楽が独占的に流行)→独立分散(いろんな価値観が分散している)」の時代となっています。

このような複雑化・多様化する音楽シーンの中で、King Gnuというブランドを通して市場へ売れる曲を出そうとすると、「売れる要素を取り入れながら、自分たちらしさも伝えていき、しかもそれが社会の中でも良い意味で異質(ある意味での王道ポップスへのアンチテーゼ)になっている」という、絶妙なバランス感覚が必要となります。


そして、そのバランス感覚をブラさないようにする"コアな軸"こそが、コーポレートブランドです。

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コーポレートブランディングの説明をする際によくこの図を用いますが、企業のビジョン・ミッション・バリューや理念は「お飾り」ではなく「企業活動を一貫させる"背骨"」とも呼べる存在です。

今回のKing Gnuもそうですが、過去にnoteに書いた欅坂46BUMP OF CHICKENこのコーポレートブランドが揺らがないからこそ全てのプロダクト(曲・MV・グッズなど)に自社哲学が反映されていきます。

そして、その結果としてそこから作られる"独自の世界観"に熱量高く共感する人が増えていく仕掛けづくりこそが「コーポレート・ブランディング」なのです。

ビジネスパーソンは「ブランディング」という言葉をリブランディング(=再刷新)しないといけない時代だなぁと個人的には思っています。

この記事の最初の最初で「常田さんが凄い!」と僕が口にしていたのは、最初に「この三角形の一番上の思想部分から順に手をつけたから」ですね。

こんなに綺麗にブランド構築をしているアーティストをほとんど見たことがなかったので、分析しながら自分が一番テンション上がって驚いてしまいました......。

まとめると、このようにブランド構築をしっかり行いつつ、競合と被らないようにうまくポジショニングを常に意識していくと、強固なブランドが出来上がっていきます。


5.まとめ〜マーケットインとプロダクトアウトは"どっちも必要"〜

さて、まずはここまで読み切っていただき、本当にありがとうございました。(すでに10,000文字をオーバーしております)

よくマーケットインとプロダクトアウトは対立な物として捉えられますが、今回の音楽解釈や以前までに書いたnoteを通して個人的に思うのは、


そもそも、そんな対立は無い」

「むしろどちらも共存し、混ぜるから、跳ねる」


というシンプルな事実です。

手前味噌ですし、名のあるアーティストたちと並べたら大したものでは全くないのですが、以前に自分で制作した「名刺のコアを貫通させた名刺のnote」は、この"マーケットインとプロダクトアウトの共存"をアーティストたちの作品づくりの思考法をトレースし、制作しました。

結果として、ただの1人の名も無き人間が書いたnoteがNewsPicksさんに取り上げていただけたりするなど、実際にPR効果が生じました。
(しかも、そこからブランディングのお仕事のお問い合わせまでいただけました)


こうした「二律背反するものをいかに両立させるか?」は非常に難しく頭を使うのですが、これからのブランディングはそこをクリアしないとCEOの思いやビジョン、実現させたいエゴを市場に届けることはできません。

だからこそ、ただの"見え方"だけでなく、その2つを同時にクリアする戦略・戦術づくりをする「コーポレート・ブランディング」が、"ヒトの共感"を中心に動いていくこれからの時代に必要なものになっていくと個人的に考えています。


・・・と、やたらアツく真面目に締めちゃいましたね(笑)

僕としてはこうして好きな音楽から、ブランディングという抽象的で難しそうなものを身近に感じてもらえれば嬉しいので、これからもゆるゆるとまたnoteを書いていこうと思います。

というわけで!これにて、おしまいです。

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「もっと詳細にこの音楽解釈×ブランディングや、そもそものコーポレート・ブランディング周りのお話を聞いてみたい」という方がいらっしゃいましたら、お気軽に下記TwitterのDMからお問い合わせくださいませ!

Twitter:@yhkyamaguchi


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