板チョコレート1

「1,000円の板チョコって10倍美味しいの?」という問い

■「1枚100円の板チョコと1,000円の板チョコは価格差10倍、では10倍美味しいの?」という問いに悩まされる

 Minimalの板チョコはこれまで1枚900円~1500円(税抜)のレンジで販売してきました。これまで取材などで少し意地悪な質問を受けることがありました。「単価10倍で美味しさも10倍あると思いますか?」。

「来たな!」と身構えながら、この手の質問を受けた時は、「美味しさは感覚的なものだから数値化することは難しいですが、きちんとその価値をわかって頂けるように素材や製法に徹底的にこだわっています。」と優等生的に答えていました。(笑)

Minimalを始めた当初は自分で自分に言い聞かせるように「価格で比べられてたまるか!圧倒的に美味しくて新しい板チョコを造る!」と息を巻いてました。

しかし、正直に言うと、言葉とは裏腹に自分でも10倍以上の美味しさがあるのか?という問いに自信をもっていなかったのだと思います。結果としてこの気持ちが、素材であるカカオ豆への執着や製法やチョコのフレーバーへの執着を生んで、格段に深化したのでそれはそれでよかったのですが、開店1年目はどこかで自信のなさを抱えながら、店頭に立ちながら必死にこの問いに対して抗っていたと思いますw

では今はどうかというと、結論から言うとこの問いに囚われる事がなくなりました。実はそれよりももっと重要な問いに気づきました。

こう気づいたのはこの問いの事を深く理解するある接客体験がありました。その経験を通して、ブランドの在り方や消費の未来、小売の未来のヒントを教えてもらった気がします。

そして、嗜好品ブランドを経営している中で感じた、21世紀というか、情報の非対称性がなくなっていく世界における消費の在り方の未来を考えてみたいと思います。

■きっかけはある常連さんから言われた一言

 創業1年目、毎日店頭に立って接客をしていました。それはあるお客様との話。その方は20代後半前後の女性で、開店直後のバレンタインに富ヶ谷店に来て頂き、それ以来通って頂いていました。頻度は高く週1回のペースで平均すると週1枚~2枚のペースでMinimalの板チョコを買って頂いておりました。多い時にはプレゼント用にと5枚くらいまとめて買っていただくこともありました。

当初はその方が何をやっているか知らなかったのですが、接客を何回もして仲良くなって色々お話していると、お客様のお仕事などがわかってきました。

■お客様詳細お客様:20代後半~30代前半の女性勤務地:丸の内職種:一般職事務OLその他:地方のご出身で、ご家族に仕送りをしている事の事

正直に言うと、購入頻度と金額からてっきりお金持ちの方なのかなと思っていたのですが、事務職OL収入だけで生活をしているとのことでした。さらには実家に仕送りしているとの事で仕切りに「節約生活なんです」とおっしゃっていたのが印象的でした。

ある時、こんな質問をしてしまいました。

「毎週買って頂き嬉しいのですが、1枚1,000円以上の板チョコの出費はなかなか高いですかね?」

正直「高いですね」と言われるのを覚悟しながら、なんとなく高い板チョコ買って大丈夫だろうかと、何とも中途半端な気持ちの愚問だったと反省しています。しかし、そんな質問に対して満面の笑みで、答えが返ってきました。

** 「丸の内でランチをすると1,000円~1,500円はすぐかかります。ランチを一回我慢してお弁当で節約すればMinimalのチョコレートが1枚買えます。仕事終わりのご褒美で幸せな気持ちになったり、週末次のタブレットを買いに行く楽しさの方が、1回のランチより全然私にはコスパが高いんです。Minimal美味しいから、全然問題ないです。」 **


質問した自分が恥ずかしくなりました。彼女にとって100円チョコと比べて高いとかどうこうと言う考えはなく、生活の中で1,000円払う価値があるから他の事を我慢してでも惜しくないと感じてもらっているという事でした。

■情報の非対称性が無くなっていく時代の新しい消費の形

 20世紀は大量生産大量消費の時代。クオリティが均一のモノをつくり、いかに安く提供するかに価値が置かれた時代でした。乱暴に言えば、板チョコはみんな一緒でしょ、だからより安価に価値をおくのは当たり前。という暗黙の前提があり、だから、逆説的に価格が単純に10倍以上であれば美味しさも10倍以上あるの!?という前述の問いが生まれるわけです。ある意味で価格以外に判断する情報がなかったとも言えます。

一方、21世紀はインターネットが発達し、比較的に容易に情報を得ることができるようになり、情報の非対称性が無くなっていく時代。つまりこれまで一部の専門家やメディアしか持ちえなかった情報を素人でも得ることが可能になった。情報の非対称性がなくなってくると価格はあくまで一つの判断軸となり、その他の情報を含めて何にどの程度の価値を置くかは人によって千差万別となり、カテゴリーとして一緒のモノだとしても人によって払う価格は違ってくるという事です。

これを自分に置き換えてみると、スペシャルティコーヒーだと思いました。スペシャルティコーヒーの大好きなマニアなのですが・・・

美味しいスペシャルティコーヒーが飲めるのであれば1杯500円でも1,000円でも全く惜しいと思わない。

コンビニの100円コーヒーや缶コーヒーが簡単に手に入るが一切飲みたいと思わない。

コーヒーを飲むために遠回りをして駅に向かい、バリスタが入れてくれる時間をじっと待ち、500円でも1,000円でも払って飲みたい。

という極端な価値観を持っていると自認しています(笑)
美味しいコーヒーの定義には、コーヒー豆の収穫プロセスやその焙煎、そしてバリスタの腕、そしてその店の哲学やストーリーが含まれているからです。

素人である自分でもそのプロセスの情報に触れることが比較的簡単だからどんどんマニアックに情報が蓄積していきます。結果としてスペシャルティコーヒー1杯1,000円の価値となる。通勤電車は乗り換えで遠回りになっても100円でも安い経路を選ぶほどの貧乏性にもかかわらずです。(笑)


情報の非対称性が無くなっていく事は、画一的な価値基準が薄れていき、個々人によって多様な価値基準に重きが置かれる時代と言えます。買う側は情報の海に溺れるリスクを抱えながら、その中で本当に自分にとって大事な情報を決めてその価値に従って価格を払う。売る側は単なる価格だけでない商品サービスを取り巻くその他の情報を伝達して設定した価格以上の価値を感じさせる必要がある。これが消費の未来の形になると思います。

■「10倍美味しいのか?」よりも重要な問い

 話を戻しましょう。そう「100円のチョコと1,000円のチョコは価格は10倍で美味しさも10倍違うのか?」という問いには対して答えを何か求められれば「それはわからない」という答えるしかないのですが、

Minimalのブランド経営においてもっと重要な問いは、

「その人にとってMinimalの板チョコは1,000円払う価値があるのか?」

という事。その1000円払う価値とは何かをブランドとして定義し、適切に伝え、その価値観に合う人たちの共感を得ていく事が大事です。それが共感とかストーリーとかコト消費とか呼ばれるものではないかと思います。

伝えたい価値観をすでに明確に持っている人も、まだ気づいておらず潜在的に持っている人もいるので、啓蒙していく努力をし続ける事が大事です。

もちろん、すべての消費がその形になるかというとそうではないと思います。これまで通り価格がより安いことが価値になる消費は大半であろう。でも情報の非対称性は年々スピードを増して無くなっていく中でその人にとって何の情報が価値があるかを考えていかなければいけない時代になると思います。消費の未来の在り方は少しずつだが着実に変化しているとMinimalを通して感じています。

■面白いのは1,000円程度という価格帯

 そして、もう一つだけ補足しておくと、仮に1枚1,000円の板チョコが市販のチョコに比べて高く、相対的には高級と言われたとしても、(日本や先進国においては)1,000円と言う価格は乱暴に言えば可処分所得が平均年収以下の人でも買える可能性が高いという事実は見逃していけないと思います。

いかに情報の非対称性が無くなっていっても貨幣経済が崩壊しない限り、100万円の高級ブランドバックを上記の人が日常的に変えるかと言うとなかなかそうはならないと思います。でも高級と言っても1,000円程度のチョコは多くの人にとって買おうと思えば買う事ができる。つまりその人とって1,000円払う価値があれば誰にでも売れる可能性があるという事だと思います。

世の中のブランドビジネスにおいて製菓やチョコレートは商材として相対的に高い単価ではないかもしれないが、その気になればある程度誰でも買える価格という事と、そのカテゴリーにおいて高級品である、という妙はとてもポテンシャルがあるともいえるし、とても難しいともいえる。消費の未来の在り方を睨みながら、今そんな事に悪戦苦闘してます。

※Minimalのバレンタイン紹介

1,000円払う価値があるのか?という問いに答えていくために、今年は自分たちのモノづくりを映像にしました。ぜひこちらご覧ください。


そして、2019年Minimalバレンタイン商品はぜひこちらからご覧ください!

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