山重徹夫 Tetsuo Yamashige

1975年広島県生まれ。多摩美術大学卒業。 総合ディレクター:中之条ビエンナーレ、富士…

山重徹夫 Tetsuo Yamashige

1975年広島県生まれ。多摩美術大学卒業。 総合ディレクター:中之条ビエンナーレ、富士の山ビエンナーレ、逗子アートサイト、倉庫現代美術館、クリエイティブセンターtsumuji。ビエントアーツギャラリー代表。その他に国内外の展覧会でのキュレーション、大学非常勤講師など。

最近の記事

上州風 最終巻2010年2月 エッセイ「人をむすぶ、土地をむすぶ」

    • Nakabito 起業する女性について

      かつて群馬県では女性が養蚕や繊維業で家計を支え、たくましく生きる女性の姿が一つの文化となり「かかあ天下」という言葉が生まれました。それから時代は戦後から高度経済成長期を経て、女性の働き方は時代と共に変化していきました。 私は広島県の公務員社宅が立ち並ぶ団地で生まれ育ちました。母親は主婦として家庭を支え、大学進学のため上京する際は、内職やパートなどで経済的に支えてくれていたことを覚えています。近年はジェンダーフリーという考え方が一般となり、女性が男性と同じように活躍する時代へと

      • 『チェンマイから』読売新聞 文化欄連載コラム 2014年1月11日掲載

        上州の山々が薄っすらと雪化粧をはじめた頃、私はアーティストの交流プロジェクトに参加するためチェンマイを訪れた。今回の目的はアジアのアーティストやその関係者と繋がりを作り、将来的に群馬とアジアを結ぶためのプロジェクトを立ち上げられればと考えている。 チェンマイ空港から車で2時間ほどでバナナの生い茂る熱帯の森を抜け、山々に囲まれた珈琲農園にたどり着いた。農園のオーナーはいくつもある作業小屋や家屋にアジア各国からアーティストを招き、滞在制作や交流の場として開放している。ここで数日間

        • 『持続すること』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年10月19日掲載

          四回目となる中之条ビエンナーレ2013が大盛況のうち幕を閉じた。 多くの人で賑わった里山には静けさが戻り、薄っすらと紅葉が始まっている。今回も各地で多くの出会いがあり、私も遠方の友人と再会することが出来た。そして終わりとともに別れが訪れ、この時期は寂しさを抱えながら多くのアーティストとスタッフを見送る。 2006年に中之条町で始めたアーティストと地域をつなぐ取り組みは、回を重ねるごとに大きくなり、その運営体制も変化していった。最初はよそ者の集まりだったスタッフも、今では定住者

        上州風 最終巻2010年2月 エッセイ「人をむすぶ、土地をむすぶ」

          『ヴェネツィア-パビリオン0』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年8月3日掲載

          六月初旬、イタリアで行われている国際美術展覧会ヴェネツィアビエンナーレの会場の近くで、群馬県中之条町でのアートプロジェクトを発表する機会を頂いた。 私自身、ヴェネツィアビエンナーレを訪れるのは四回目となり、その度にここでは世界のアートシーンを身近に感じることができる。私を呼んでくれたポーランドのディレクターは、様々な国からアーティストを集めてパビリオン0という企画展を行っている。「ポストグローバルな未来を異なる視点で共に考える」というコンセプトに私は共感し参加するに至った。

          『ヴェネツィア-パビリオン0』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年8月3日掲載

          『村のマルシェ』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年5月25日掲載

          5月の連休に群馬県高山村にあるロックハート城で小さな野外フェスを開催した。 山間に作られたステージでは利根沼田に住む6歳から80歳までの述べ130名によるハワイアンフラが行われ、周りには連休を通して50店舗あまりのマルシェバザールが出店し、地域の農家による農産物直売や、作家による手作り品の販売も行われて賑わいを見せた。 群馬北部では過疎化などが問題視されているが、実際関わっていると地域に住む人達はそんな問題を感じさえないくらい元気だ。今回はとりわけ人気のあるハワイアンフラのス

          『村のマルシェ』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年5月25日掲載

          『地域の創造性』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年3月16日掲載

          冬の間、主催するイベントも少なくなり、制作の仕事で家に籠る日が多くなる。 地域の人とも暫く会わなくなっていたので、「みんなで一品持ち寄って集まろう」と声をかけた。近くにある木造校舎に集まって、持ち寄ったこだわりの品を食べて飲んで、お喋りをして時間を共有する。そんな寄り合いに、農家、工芸作家、デザイナー等、いろいろな人が集まった。 私が持ってきた地産リンゴのワイン煮が、他の人が焼いてきたチーズケーキと合わせると絶妙な相性でとても美味しいと話が盛り上がった。楽しく過ごすうちに面白

          『地域の創造性』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年3月16日掲載

          『100年後サミット』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年1月5日掲載

          2012年11月4日、群馬県中之条町と福島県土湯温泉の2カ所をつないで「100年後サミット」を開催した。 問題が山積した現在から、自分たちが居なくなる遠い未来を想像し、今をどう生きるのかを考える。これはネイティブアメリカンの7代先を考えて物事を決めるという思想がヒントになった。 私はそこから言葉という概念を一度取り払い、感覚だけをたよりに未来を感じられるような「言葉を越えた対話」を生み出したいと思った。そんな思いを人に話しているうちに仲間が集まり、趣旨に合ったアーティストと繋

          『100年後サミット』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年1月5日掲載

          『群馬から福島へ』読売新聞 文化欄連載コラム 2012年9月22日掲載

          強烈な日差しが照りつける8月、私たちは福島市にある土湯温泉を訪れた。 メンバーは中之条ビエンナーレをきっかけに知り合ったカメラマンや作家、デザイナーなど約十名の仲間達。土湯温泉の方々がアートによるまちづくりに興味を持たれ、温泉街でのイベントを見に中之条町を訪れてから交流が始まった。2つの土地は離れてはいるが、温泉文化と奥山のものづくり文化という共通点がある。私のやってきた活動が群馬と福島の架け橋になれないだろうかと考えていたところだった。福島は震災以降とても大きな問題を抱え

          『群馬から福島へ』読売新聞 文化欄連載コラム 2012年9月22日掲載

          『土地とつながること』読売新聞 文化欄連載コラム 2012年7月7日掲載

           2007年から隔年で開いている町全体を美術館に見立てた芸術祭「中之条ビエンナーレ」だが、毎回、このイベントの参加を切っ掛けに町に移住してくる美術作家がいる。  今年も一人の作家が、美しい風景が残る自治体で作る「日本で最も美しい村」連合に加盟する中之条町伊参(いさま)地区に移り住んだ。里山が広がる美しい場所ではあるが、知らない土地に移住するということは、仕事や地域への関わりなど不安は多い。しかし、作家にとってはそれにも勝る魅力があるのだ。  作品制作のために何度か中之条町を訪

          『土地とつながること』読売新聞 文化欄連載コラム 2012年7月7日掲載

          『花咲く町』読売新聞 文化欄連載コラム 2012年4月28日掲載

           柔らかい春の匂いが、吹き荒れる空っ風と共にやってきた。今年で群馬に移り住んで3度目の春が来る。毎年訪れる春の知らせは何度届いてもひときわ嬉しい。  県北西部の山間地にある築150年の古民家を紹介してもらい、手入れをしながら生活を始めてから早いもので2年半が経つ。借家の2階には養蚕用具が残ったままで、この土地で生きた先人の営みを垣間見ることが出来て興味深い。ただ、朽ちた土壁からは隙間風が吹き込み、永い冬の間は心底冷える。私は温暖な瀬戸内海に囲まれた町で育ち、そこを離れるまでこ

          『花咲く町』読売新聞 文化欄連載コラム 2012年4月28日掲載

          中之条ビエンナーレ -想像することを続けて- 上毛新聞 オピニオン視点 2011年10月4日連載

           「中之条町は美術館に変わります」というキャッチコピーで町を賑わした中之条ビエンナーレは、今年で3回目を迎えた。  それまでこの土地で数年間続けてきたアートプロジェクトは単なるイベントの枠を超え、町を形作る地域創造としての重要な役割を果たすようになってきた。今では数人の作家が移り住み、町には作家の作ったバス停や街路灯などが見られ、その風景には少しずつ変化がみられる。この美術祭に参加するということは、場所を探して準備するところから始まるので、地域と関わり合いを持たなければ展示を

          中之条ビエンナーレ -想像することを続けて- 上毛新聞 オピニオン視点 2011年10月4日連載

          中之条ビエンナーレ2011開幕 上毛新聞 オピニオン視点 2011年8月11日連載

           いよいよ二年に一度のアートイベント「中之条ビエンナーレ」が始まる。 四万温泉でひとあし早く始まったプレオープンも順調なスタートで、作家の公開制作や一般参加企画など中之条ビエンナーレが出来る過程を見ることが出来る。 そんな準備の真っ只中に一番気にかけていること、それはこのイベントが終わった後のことだ。 まだ始まってもいないのに気が早いと思われるかもしれない。 イベントが終了してしまえば、インスタレーションなど殆どの作品は撤去され見ることも出来なくなる。その時にしか見れない作品

          中之条ビエンナーレ2011開幕 上毛新聞 オピニオン視点 2011年8月11日連載

          若い世代と地域社会 -活動の「舞台づくり」を- 上毛新聞 オピニオン視点 2011年6月1連載

          先日、地元作家による和紙漉きのワークショップが「ふるさと交流センターtsumuji」で行われ、子供達は遊びの一環として楽しみながら色々なことを学んでいた。我々スタッフは、こうした体験を通して子供達が地域社会に関心を持てるように、日頃から一人の大切な仲間として接している。 ここ数年、各地で芸術文化を軸にした地域政策が盛んに行われ、私自身も地域のイベントやフォーラムなどに参加することが多くなった。つい数日前も、以前住んでいた逗子市で市民団体と行政によるアートフォーラムに参加し、他

          若い世代と地域社会 -活動の「舞台づくり」を- 上毛新聞 オピニオン視点 2011年6月1連載

          いまアートにできること -伝えたい「気づき」の力- 上毛新聞 オピニオン視点 2011年4月15日連載

           3月11日、大きな傷跡を残した大震災は、日本が進んできた道のりに大きな影を落とした。加速する高エネルギー消費社会は自分たちの暮らしをさらに便利にし、多くのメーカーもそれに応えるように新商品の開発を行ってきた。しかし、電力によって支えられていたわれわれの日常生活は、原発事故という形で大きく足元をすくわれることになってしまった。今回、日々の生活がこのようなもろ刃の剣の上に成り立っていることに初めて気づかされた人は、決して少なくはないだろう。  問題なのは、今の経済成長の道筋が

          いまアートにできること -伝えたい「気づき」の力- 上毛新聞 オピニオン視点 2011年4月15日連載

          tsumujiから  - ものづくり考える場に - 上毛新聞 オピニオン視点 2011年2月16日連載

           昨年7月、中之条町中央商店街にユニークな形の施設がオープンした。円形のホールと芝生広場の周りにカフェやショップなどが並び、いろいろな店舗が横丁のように軒を連ねている。その渦巻き状の形から「tsumuji(つむじ)」と名付けられ、地域住民や観光客でにぎわっている。  私がtsumujiを請け負うことに至ったのは、この町で行ったアートイベントがきっかけとなった。年々目立つようになった商店街の空き店舗でアートエキシビションを行ったことで、多くの来場者が商店街通りをにぎわしたのだ。

          tsumujiから  - ものづくり考える場に - 上毛新聞 オピニオン視点 2011年2月16日連載