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『ヴェネツィア-パビリオン0』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年8月3日掲載


六月初旬、イタリアで行われている国際美術展覧会ヴェネツィアビエンナーレの会場の近くで、群馬県中之条町でのアートプロジェクトを発表する機会を頂いた。
私自身、ヴェネツィアビエンナーレを訪れるのは四回目となり、その度にここでは世界のアートシーンを身近に感じることができる。私を呼んでくれたポーランドのディレクターは、様々な国からアーティストを集めてパビリオン0という企画展を行っている。「ポストグローバルな未来を異なる視点で共に考える」というコンセプトに私は共感し参加するに至った。
数年間、群馬の山村地区で色々な取り組みを行い、時の流れとともに地域が変化していく様子を見てきた。地域から消えていく養蚕農家、閉ざされた木材所や放置された山林、シャッターで閉ざされた商店街、廃校となった校舎からは子供達の姿が消え、里山には太陽光パネルが敷き詰められた。
刻々と移り変わっていくものもあれば、脈々と受け継がれ変わらないものもある。
夏の祇園祭、冬の鳥追い太鼓、祭りの日には多くの人が故郷に戻ってきて町中が活気で溢れかえる。この土地に住み「祭り」を通して人が繋がり、地域がひとつになり、代々土地の精神を受け継いでいることを知った。
幾度となく押し寄せるグローバル化の波は、養蚕や林業などに大きな影響を与えた。しかし、決して消えることは無い「祭り」を、新しい価値観として世界へ見せたいと思った。そして、パビリオン0では中之条出身のアーティストによる獅子舞パフォーマンスを披露することが出来た。
山村の廃校から始めた中之条ビエンナーレは、私に様々なことを気付かせ考える切っ掛けを与えてくれた。この土地からしか見ることが出来ない視点、社会、価値観。
より良く生きるということが、単に右肩上がりの経済発展ではないということを実感させてくれた。時代の波によって失われるものは数多くある。これから私たちが何を残して伝えていくのか、選択し行動しなければならない。

(読売新聞 2013年8月3日掲載) 文化欄連載エッセイ 山重徹夫

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