『100年後サミット』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年1月5日掲載

2012年11月4日、群馬県中之条町と福島県土湯温泉の2カ所をつないで「100年後サミット」を開催した。
問題が山積した現在から、自分たちが居なくなる遠い未来を想像し、今をどう生きるのかを考える。これはネイティブアメリカンの7代先を考えて物事を決めるという思想がヒントになった。
私はそこから言葉という概念を一度取り払い、感覚だけをたよりに未来を感じられるような「言葉を越えた対話」を生み出したいと思った。そんな思いを人に話しているうちに仲間が集まり、趣旨に合ったアーティストと繋がり、準備を始めてから半年あまりで形にすることが出来たのだ。
1日目は福島で復興活動を行っているミュージシャンが音楽によって観客との対話を行った。2日目は2人のアーティストによってコンテンポラリーダンスが行われ、身体による表現での対話を試みた。そして会場自体もインスタレーション作品に仕上げられた。
アーティストの表現により感受性の扉を開いた観客はサミットの当事者になる。
そして最後に、土地を越えて互いの文化について言葉で対話する。
中之条町と土湯という2つの離れた土地は、風土文化という点において、とても類似点が多い。歴史ある風流な温泉地を持ち、奥山の文化が育んだ木工品がある。中之条町の山間部は農業の出来ない冬の間にメンパや杓子などの木工品をつくり、土湯ではコケシづくりが盛んで、今でも多くのこけし工人が居る。
ものづくりに携わる者同士、温泉に携わる者同士がお互いの文化を紹介し、対話により理解を深め未来を想像して作り上げる。そんなことが実現した濃密な2日間だった。
自分たちの文化を育んでいくには、他の土地の文化を知り交流することが大切になる。しかし、イベントを行政区を越えて行うことは大きく困難な壁があり、それを共に乗り越えてくれた仲間には感謝の気持ちで一杯だ。
これからも離れた土地に住む多くの仲間と、土地を越えた文化交流をどんどん試みてみたい。

(読売新聞 2013年1月5日掲載) 文化欄連載エッセイ 山重徹夫

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