『持続すること』読売新聞 文化欄連載コラム 2013年10月19日掲載
四回目となる中之条ビエンナーレ2013が大盛況のうち幕を閉じた。
多くの人で賑わった里山には静けさが戻り、薄っすらと紅葉が始まっている。今回も各地で多くの出会いがあり、私も遠方の友人と再会することが出来た。そして終わりとともに別れが訪れ、この時期は寂しさを抱えながら多くのアーティストとスタッフを見送る。
2006年に中之条町で始めたアーティストと地域をつなぐ取り組みは、回を重ねるごとに大きくなり、その運営体制も変化していった。最初はよそ者の集まりだったスタッフも、今では定住者と地元出身者が殆どだ。1回目は若草色のテーマカラーで始まり、今回は枯れ葉の赤茶色と決めた。決してネガティブな意味ではなく、よそから飛んできた種が若葉を開き、成熟して葉が枯れ落ちて土になる。ようやく土地の土になれたのだ。
中之条ビエンナーレが好きで携わりたかったと飛び込んできた地元の若者。移住して制作の傍らに農業をするアーティスト。こどものアンケートには「将来アーティストになる!」という言葉。この数年間の取り組みは確実に地域に溶け込んできていることを実感した。
しかし、町中がアートと観光客で賑わったからといって、地域を取り巻く問題がなくなったわけではない。常に問題を見据え考え行動しなければ、直ぐに失速してしまうのも現実。地域づくりをする上で最も大切なことはいかに持続するかである。
それを担うのは当事者の住人であるという意識が高まり、問題を乗り越えようと一つになったとき、巨大な上昇気流が生まれる。地域が率先して考え行動して、行政は場を提供して後押ししてあげるだけで良い。そんな日が来ることを思い描いている。
数年前、誰も知り合いのいなかった町は、私にとって多くの仲間がいる故郷と呼べる町になった。
たくさんの思い出を胸にそれぞれの町に帰って行った仲間が、再びこの土地に集まる日が待ち遠しい。故郷へ舞い戻ってくる渡り鳥のように。
(読売新聞 2013年10月19日掲載) 文化欄連載エッセイ 山重徹夫
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